貴方が居なければ、この世は、無色透明な世界

緋色に染まれ

「私を抱きたい?」と尋ねた後、貴方は「ええ」と、
微笑んで答えた。
極上の笑みだと、私は思った。
そのように、貴方を「変える」ことが、私の望みだったのだから。

あの日のあの夜と同じように、薔薇の木の根本で、体を重ねる。
貴方は、ひどく美しかった。
美しいものを、美しいと思えるようになった。
貴方に出会って、私は五感を手に入れた。

***

「実はね、要君。こんなことを言うと、貴方は驚くでしょうが、
私は、自分が神経的に欠陥のある人間だということを、理解していたのですよ。
理解してはいましたが、修復しなかっただけです。
そんな必要は無いと思っていましたからね。

貴方に出会うまで、私の周りは、無色透明な世界でした。
そしてそれが、悲しいことだとも思っていなかった。
全ては貴方に出会ってから、変わったのです。

貴方が世話をする、薔薇の花のあかに心動かされ、
心根澄んだ優しき貴方が、それ以上に美しいと感じました。

私は何事にも執着しない体質ですが、貴方に出会ってから、
ひとつだけ、欲が沸きました。自分についての。
もう少し、生きていたいと。
病に冒されていることは重々承知していましたが、生き延びたいと
思ったのです。
少しでも貴方の傍に、貴方と共に在りたいと。

その願いは、叶ったと言えるのでしょうか?
多分貴方は、床にでも身を転がしている私を見て、驚き、
悲しんでくれると思いますが、私の望みは、そんなものではありません。
要君。
貴方は、随分と強くなった。
もう、きみとなど、呼べないでしょう。
貴方は、立派な青年なのだから。

君の手入れした、薔薇を眺めて、私は思うのです。
空想科学小説の類では無いですが、もし、魂の転生というものがあるのなら。
毒々しいほど赤く染まった、あの薔薇になってみるのも、いいのではないかと。
この身体を緋色に染めて、貴方の寵愛を受けるのも、おつな気分かと思います。」


貴方が居なければ、この世は、無色透明な世界
その世界に色を差し、変えてくれた貴方
願わくばこの身よ 緋色に染まれ

                      <了>



後書きっていうか、言い訳。

「別人28号」という言葉があります。
月&日小説を書こうとして、あまりにも月村先生のキャラが分からなかったので、
あえて別人にしてみました。
わざとなのよ!!キャラが違うと、石を投げないで!!
私は、月×日というよりは日×月派なので、当然のごとく月受になったのですが、
なってますでしょうか??
ともかく、初書きの薔薇咲ク小説を、いつもお世話になっている「月映酒楼」の
ふうりえさんに捧げます。正直に言いますが、見返りを期待しています(笑)

                       2003.8.30

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