「気遣い」 金子&土田


こいつは良い嫁になるだろうなぁと、金子光伸は考えた。

***

さして広い部屋でもないのに、5人もの男がちゃぶ台を囲んで、座っている。
ここは小使い室だ。要の部屋・・・というわけでもないが、小使いである彼には、 居てもいい理由がある。
だが、他の学生たちはどうだろう。
単に茶が飲みたかったのか、それとも要と話がしたかったのか・・・おそらく両方だと 思うが、わいわい言いながら、この狭い部屋に集合している。
僕は別に構いませんよ?と、明るい髪色の小使いの青年は、笑いながら言う。
そうやって花のように微笑んだりするから、”あの男”は、いつまで経ってもウジウジしているのだ、と 光伸は思った。
あの男とはもちろん、向かいにいる、仏頂面の同級のことだ。
「・・・・。」
光伸は何故か面白くなくて、意味もなくそっぽを向いた。

「あ、いや、俺がやろう。」
そういう、憲実の声がする。おそらく、要が、皆に飲み物を淹れようとしているのを手伝うつもり なのだろう。
「でも、悪いですから・・・!」と言ったきり、要の声が聞こえなくなったので、 おそらく憲実が、珈琲碗を乗せる盆でも、奪い取ったに違いない。・・・実際は、そんな乱暴な 表現をされる仕草で無かったとしても。

しばらくしてから、芳醇な珈琲の香りが漂ってきたので、光伸は体の向きを元に戻した。
見ると、体格の良い男が几帳面そうに、そっと下級生(あずさ、真弓)に珈琲碗を手渡している ところだった。要の目の前には、もう碗がある。
光伸は黙って自分の分が渡されるのを待っていたが、内心彼のその手の動きに、「こいつは良い嫁に なるだろうなぁ」などと、不埒なことを考えていた。本人に告げたら拳で殴られること、必至だ。
ともかく光伸は、ただ静かに座って珈琲を待っていたのだが、小さく名前を呼ばれてから渡された 碗の中身を見て、思わず声を上げた。

「何だ、これは!?」
憲実は静かに「・・・牛乳だが。」と告げた。
「そんなことは分かっている!尋ねているのは、他の連中は皆珈琲を飲んでいるのに、
何故俺だけがミルクなのかということだ!」
「・・・・金子。」

最後の一言は、興奮のあまり立ち上がってしまった自分を、座らせるためのものらしい。
光伸はしぶしぶ座って、憲実が説明してくれるのを待った。
あの口ベタに、この俺を納得させられるだけの「説明」ができるものやら、とは思っていたが。
横の、あずさや真弓の視線が痛い。確かに、飲み物1つで興奮しすぎたと反省する。

土田憲実はふぅと息をついてから、相手に向かって、言った。
「・・・お前は煙草で胃を悪くしていると聞いた。それにしておけ。」

なるほどこれは、彼なりの自分への気遣いらしい。
それが分かると、光伸はとたんに恥ずかしくなった。
赤くなりそうな顔を必死で隠すために、とりあえず目の前の碗の中のミルクを、
勢いよく飲み干した。

END


どっちかっていうと金土でしょうか。
私も土田サンが嫁に欲しい(笑)   2003.10.16


back   index