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「ビューティフル サンデー」



”皆で、ピクニックに行きましょうね、女王候補のお嬢さん方との、交流を深めるために。
念のため申し上げておきますが、欠席は許しませんよ?(にっこり)”


爽やかな日の曜日の早朝、守護聖9人に女王補佐官ディア、それに2人の女王候補や、 その他研究員、女官などが連れ立って、ぞろぞろ歩いている。
彼らが行こうとしている先は、「迷いの森」だ。
別に、そこで誰かが迷子になって、助けに行くわけではなかった。
彼らはそこに「遊び」にいこうとしているのである。

森の入り口の広場に着いて、ディアは今回の「集い」についての、詳しい説明をし出した。

「これから行うレクリエーションの内容を説明します。
3人1組となって、森の中に置いてあるメモを探し出し、そのメモに書いてある課題をクリアして、 ここに戻ってきてください。早く戻ってきたグループの勝ちです。
なお、森の中は複雑な構造となっていますが、皆さんには居場所が分かる発信機を取り付けますから、 心配なさらずに。
1位のグループにはもちろん賞を用意してありますが、もっとも遅かったグループには罰ゲームも ありますから、頑張ってくださいね?(にっこり)」

彼女の後ろには大掛かりな装置を組み立てている研究員たちがいて、彼らが発信機の係なのだろうと 分かる。ディアは「グループは、くじで決めます」と行って、手に9本の紐を持って、差し出した。

マルセルが問う。
「え?9本ってことは、アンジェたちは参加しないんですか?」
そういう少年に、ディアは答えた。
「ええ、そうなのです。当初は、彼女たち2人も含めてゲームを行おうと思っていたのですが、 ひとめにつかないのをいいことに、彼女たちに悪さをするひと、がいないとも限らないので、 貴方がた守護聖9人だけに、してもらうことにしたのです。」

ディアがそう言うと、皆が一斉に炎の守護聖の顔を見る。

「な、何だ!何で皆、俺の顔を見る!」
とオスカーは叫んだ。するとオリヴィエ、
「アンタが怪しいからに、決まってんじゃ〜ん☆」
「あぁ・・・、オスカーの日ごろの行いがよければ、わたくしたちはアンジェリークやロザリアと共に、 楽しくゲームが出来たかもしれないのに・・・。」
とリュミエールも言って、ため息をつく。
お前らなぁ、とオスカーは反論しようとしたが、ゼフェルが口を挟んだ。

「おっさんの話は置いといてよー、とにかく、森の中のメモを見つけて、そのメモに書いてある課題をクリアして、 で、ここに戻ってくりゃーいいんだろ?」
はい、とディア。おっさんと呼ばれたことにオスカーは不満のようだったが。
「賞ってのは何なんだ?」とプラチナの髪の少年は続けて聞くと、桃色の髪の女性は笑って答える。

「今はお教えできませんが、素敵なものですのよ?(にっこり)」

女王候補の2人と、お茶会の準備をして待っておりますから、頑張ってきてくださいね、と彼女は 言った。後ろで、研究員や女官たちも、頑張ってくださいと手を振る。
9人の守護聖はくじをひいた。

組み合わせの結果:
ジュリアス・ルヴァ・ランディ
リュミエール・オスカー・オリヴィエ
クラヴィス・ゼフェル・マルセル
偶然、同世代が集まってしまったオスカーたちはともかく、ゼフェルとマルセルの組にクラヴィスというのは、 どうだろうと、皆が思う。そこをディアはにっこり笑って、では頑張ってきてくださいませ、と言うのみ。
3グループは、出発した。

***

メモ自体は、とても簡単に見つかる。メモは3枚だけではなく、たくさん用意してあるらしく、もし見つけた「課題」 が難しそうだったら、ほかのメモを探しにいっても良いそうだ。
ゼフェル・マルセル・クラヴィス組は何枚かのメモを見たあと、最後の課題に目標を定めた。

”白マダライタチ”

「いたちか〜、分かるチュピ〜?」とマルセルは肩の上の小鳥に問うが、青い小鳥は当然、ピと鳴くだけだ。
捕まえりゃいいんだろ、とゼフェル。そんな少年たちの様子に、闇の守護聖はフと笑う。
何か知っていそうなクラヴィスに向かって、ゼフェルは言った。

「何だよ。」
「・・・・・・白マダライタチは、樹木の上に住む・・・・。」

さすがに彼は長く生きている。聖地の生物の特色をよく知っている。
探すぞ、とひとこと言ってからクラヴィスは、その格好からは考えられないほど、颯爽と木の上に登り、
「お、おい!そういうことはオレたちに任せておけよ!!」とゼフェルに注意されていた。

***

こちら、オスカー達の組。

「・・・ったく、何でこんな組み合わせになったんだか。」とオリヴィエ。
別に嫌ではないのに、何となく反論してみたい年頃。まぁまぁ、とリュミエールはたしなめ、前を行く オスカーに言う。
「適当な課題があると良いですね。」

あまりに簡単なのを選んで帰ってくると、それも格好悪いので、体裁を繕う為に「ちょうど良い」課題を選ばなくては ならない。3人は、そういう見栄っ張りな部分があるのだ。
だから、さっきからメモを探しては気に入らないと、次のメモを探すばかり。
そんなんじゃ、ビリになるわよ〜☆と夢の守護聖は、まるでひとごとのように言い、隣のリュミエールは、
「オリヴィエ、そうなれば、罰ゲームは”グループ”にかせられるのですから、貴方も困るのですよ?」
と言ったが、オリヴィエは、
「何が罰ゲームだろうと、オスカーに全部押し付けるから、いいんだよ☆」
と答えた。言いたい放題である。

疲れるほど歩き回って、最後に手に入れたメモにはこう。

”仲の良い守護聖”

3人は、それをまじまじと見つめて、この課題を作ったのは誰なんだと思った。
頭の回転の速いオリヴィエが、半ば冗談めかして、提案する。
「3人で、腕組んで帰っちゃおうか〜?」
そしたら楽でしょ、と彼は言ったが、それに対しリュミエールはきっぱりと言う。

「駄目ですよ、それでは。
わたくしとオリヴィエ、そしてオリヴィエとオスカーは仲が良いですが、
わたくしとオスカーは仲が良くない ではありませんか。」

・・・・・・・・・・・・・・・・。2人、無言。

あ、あのさぁ?とオリヴィエは声をかけたが、水の守護聖はがんとして自分の意見を譲らない。
しょうがないので、手元にある一番まともそうな課題にトライすることにした。

”白マダライタチ”

***

そして最後にジュリアス・ルヴァ・ランディ組だが、 この3人は、どう考えても他の2組より、バランスが良い。
ただ、完璧主義なのと知識は多いがおっとり型なのと、行動派だが目上のひとには逆らえない性格なのとで、 このゲームは早い者勝ちなのに、時間がかかってしまうのである。

「え〜、白マダライタチというのはですね〜。×××目×××科の動物で、好物は・・・・。」
「ルヴァ、講釈は良い。」

他人から見たらダラダラと全く前進しない課題だったが、とりあえずこの組も目標を白マダライタチに 定めたようで、それを探していた。

「ゼフェルの奴、クラヴィス様に迷惑かけてないかな。」
ランディは心配そうだ。そこを首座の守護聖は、
「私は、あやつが年少の者に迷惑をかけていないか、気になる・・・。」
と言う。
大丈夫ですよー、きっと。とルヴァは穏やかに笑っている。
そんなことを考えているから、遅いのだ。

***

ゴール地点で待っている、女王候補と女王補佐官のディア。
守護聖を迎えるお茶会のセッティングはしたし、あとはどの組が最初に帰ってくるか、見ているだけだ。

3組、9人はほぼ全員同時に姿を見せた。あとはこの「地点」まで、はやくに帰ってきた組の 勝ちである、課題はクリアしたとして。
しかしここに、1組だけ課題をクリアしていないのに、戻ってきたグループがあったのだ。
そのグループは、他の組より悪知恵が働く男たちだった。

よそのグループに所属している、ルヴァの片腕を掴んだと思ったら、オリヴィエはすぐさま、
「走るよ、オスカー!リュミエール!」
と叫んだ。
了解、と両人も言って、一緒に走り出す。
ルヴァだけが訳が分からず、あわわわと言いながら、友人の夢の守護聖に連れられて、むりやり走らされていた。

ゴール。

オリヴィエとオスカーと、リュミエール。それに、何故かルヴァ。
にこにこしているディアに向かって、夢の守護聖は一枚の紙を渡した。

”仲の良い守護聖”

「これでオッケイでしょ?」とオリヴィエは言う。
「これは、ラッキーな紙を見つけましたね。
でも、貴方がた3人は元々、よく一緒にお出かけの、”仲良し”ではないのですか?」
そう、無理やり地の守護聖を連れてきたこのグループに、ディアは言う。
それに対しオリヴィエ、即答。

「だってリュミちゃんがさ〜、”オスカーと仲良しだなんて、思われたくない”って言うんだもの☆」

さて、ルヴァを取られて慌てて駆けてきた、ジュリアスとランディ。
ランディの手元には、白いふさふさした毛の小動物がいた。
風の守護聖は、はい、と女王補佐官に紙を渡して、女性はそれを見る。
「確かに、白マダライタチですわ。お疲れ様、ジュリアス、ランディ。
・・・それにルヴァ。」
ルヴァは珍しく走らされて、まだゼイゼイ言っている。

そして最後に、クラヴィスとゼフェルとマルセルが帰ってきた。
彼らも白マダライタチを見つけたのだが、どうやら遅かったようだ。
闇の守護聖の性格からして、他のグループの姿が見えても、慌てることもなく、ゆっくり歩いていたのが 敗因と言えるだろう。
マルセルも腕の中に白いイタチを抱えていて、ゼフェルがディアに紙を渡すと、彼女は言った。
「お疲れ様でした、でも貴方がたが最後でしたのよ?残念でしたね。」

ゲッ!じゃあ俺たちが罰ゲームかよ!とゼフェルは叫ぶ。
そういう嫌そうな声を無視して、ディアは9人をお茶会に誘う。
この子はどうしたらいいんですか?とマルセルに聞かれて、ではまた、森に帰してくださいとディアは答え、 ランディとマルセルは、イタチを放す。

ランディは聞いた。
「誰がイタチを捕まえたんだ?ゼフェルか?」
それに対しマルセル、
「ううん、クラヴィス様が。すっごい勢いで木に登っちゃうんだよ。僕、驚いちゃった。」

***

女王候補たちが、皆に紅茶をついでまわって、お茶会は和やかに進む。
丸いテーブルをいくつもつないで、たくさんの輪が出来るようになっている。

「1番」の賞品は、「女王候補の2人に、額か頬か手にキスをすることが出来る。
または、そこにキスをしてもらうことが出来る」だそうで、
オスカーは2人に頬にキスをしてもらい、
オリヴィエは2人の額にキスをしたのだが、
リュミエールは、2人の手の甲にキスをした。

「騎士が忠誠を誓うようですね。」

ふふ、と水の守護聖は笑い、彼の22歳の友人2人は「やっぱりコイツは、あなどれない奴」と 思っていた。

さて、最後だった組の罰ゲームというのは何かというと、
パンパンとディアが派手に手を鳴らすと、ものすごい勢いで、「最後だった3人」の 周りに、女官やら研究員やらのミーハーな女性たちが集まってきた。
それで、
「ゼフェル様!どんな女性がタイプなんですの!!」
やら、
「マルセル様!年上の女性はお嫌いですか!!」
やら、まくしたてて聞くものだから、わーん、僕、怖い〜〜!!とマルセルは涙ぐむし、 ゼフェルは、うるせー!!あっち行きやがれ!!と叫ぶしで、ひどい状況だ。
ひどいのは当たり前である、罰ゲームなのだから。
しかしこれは、女官や研究員たちが日ごろ聞きたかったことを守護聖に聞けるという、 いうなれば、その者たちへの日ごろの感謝の意を込めた、プレゼントなのだ。
なので、負けた3人は、聞かれたことに答えるべきなのである。

「ぜひ、答えてさしあげてくださいね。(にっこり)」とディア。

さて、質問攻めする女性に囲まれても、まったく「効いたような顔」をしていない 唯一の人物、闇の守護聖クラヴィスであるが、 そんな彼の様子を見て、ディアはまた、ひとつ手を叩く。
すると奥から、また女性が現れた。今度はひとり。

その時、いつも自信にあふれた様子のジュリアスの顔が、狼狽し、 いつも穏やかな様子のルヴァの顔が、真っ青になったものだから、
ギクッとした様子のクラヴィスも含めて、彼ら年長を慕っているオスカー達3人は、 これは何かがあったのだな、と察知する。
分かってないのは、ランディだけだ。(ゼフェルとマルセルは、女性を追い払うのに忙しい。)

言葉に詰まったような顔の闇の守護聖のテーブルの横の席に、 あとで現れた女性・・・白いワンピースで、まぶかに帽子を被っている・・・は、座る。
何でそんな席が空いているんだ、と数人が思ったが、それは仕込まれたからに相違ない。
「ディア、彼女は・・・。」
とジュリアスがしばらくしてからつぶやくと、ディアはにこにこして答えた。
「はい、彼女は私の友人です。(にっこり)」

あの〜・・・とルヴァも言ったが、それに対しディアは、
「彼女は私の友人です。(にっこり)」
と同じことを言った。だから、それは聞いたと皆が思う。
確かに、彼女は偽りを言ってはいない。その通り、彼女はディアの友人である。
闇の守護聖は難しい顔をして黙ってしまったので、鋼の守護聖や緑の守護聖と比べるのは何だが、 全員、罰ゲームという「嫌がらせ」を受けたと言える。
別に嫌がらせをしているつもりは、誰にも無いのだが。
ちなみにクラヴィス自身も、嫌がっているわけではない。
ただちょっと、久しぶりに、本心から驚いただけだ。

クラヴィスの横の女性は、ゼフェルとマルセルに群がっている女性たちの真似をして、ひとつ、聞いた。
「闇の守護聖様、好きな女性のタイプは?」


相変わらずにこにこしながら、皆に、「お代わりはいかが?」とティーポットを持って 周る、ディア。
そんな彼女の様子をみて、さといオリヴィエは気づいたのだ。

(賞品も、罰ゲームも公開されなかったのって・・・・
クラヴィスが「何位」になっても、アレに当てるためじゃないの?!)

このレクリエーション自体が、その結果に仕込まれたものなのだ。
今更、守護聖と女王候補の交流をはからなくても、彼らは十分に仲が良い。
ただひとつの目的のために、他の大勢の人間を巻き込んだのだ。

ディアは女王補佐官である。補佐官とは参謀だ。
知恵を活用し、罠を使ってでも「獲物」をとらえなくてはならない。
そういう、ポストだからだ。


真っ青な気持ち良い青空の下で、ランディだけは明るく楽しそうに笑っている。
そう、今日はビューティフル、ビューティフル・サンデー。


<終わり>