裏切りの恋



この恋は裏切りだから、罪だから、
神さま、
裁くのだったら、僕を裁いてください。

***

裕太がソファで寝ている。
実家の方が、羽が伸ばせるのは当たり前で、
僕の弟は、無垢な顔をして、ソファでうたた寝をしていた。

いくら暖かいからといって、何も掛けないで寝ていると、風邪をひきそうだから。
だから、側に寄ったつもりだった。
・・・いや、今考えたら、それも建前なのかもしれないけど。

裕太が寝ている。気持ちよさそうな顔で。
この1歳年下の弟と、昔はよく遊んだ。それこそ、いたずらや何かもして。
「寝ている裕太の顔に、いたずら書きをした」のだったら、
彼は、顔を真っ赤にして怒って、「子供みたいなことすんなよ!」って、
言ったと思うけど、
・・・僕がしたことは、違ったから。


            ちゅっ


裕太は、昔から寝つきが良い方だ。だから、起きないと思ったんだ。
寝ていると思ったから。気づかないと思ったから。
口付けをした。

僕が顔を元の位置に戻すと、驚いたことに裕太は目を開けた。

「・・・何だよ。」それが彼の第一声。
僕は凍りついたように、その場に立ちすくんでいた。

「・・・・・・・。」黙る僕に、裕太は、髪をぐしゃぐしゃってしてから、言う。
「どうして黙ってんだよ、兄貴。」

どうやら、さっきの「説明」をしろと言っているようだった。
僕は何も言えない。言うことはない。だけど、それじゃあ裕太は納得できないみたいで。
ぶんぶんと頭を振ってから、裕太は告げる。

「何であんな事したんだよ!説明しろよ!」

怒っているのはきっと、僕がいつものように笑っていたからだろうね。
内心、すごくビクビクしていたのに、癖なのか、いつもそんな顔をしちゃって。
だから裕太は怒ってるんだろうなぁ。

僕は、笑いながら答えた。・・・本当は、泣きたい気持ちだったけど。
「いたずら。意味はないんだ、ごめんね。」

”裕太がさー、子供みたいな顔して寝てるから、つい、からかってみたくなって。”
そういった意味のことを、僕は言った。
ここで、キスしたのが、母さんや姉さんだったら、
裕太は、照れながらも、何も言わないんだろうけど、
僕だったから、言わずには、いられなかったんだろうな。

本当の理由は、告げない。
たとえ「兄貴はワケわかんねぇ」って嫌われたとしても、
僕の胸の奥底に眠る感情を、知られるよりは、マシだよ。
裕太、ゆうた。
「からかうなよ!」って怒ってよ。全て、水に流して。

「・・・・・・・かよ。」

裕太は小さくつぶやいた。僕は、最初の方が聞き取れなかった。
何?と優しく尋ねると、(この言い方も裕太の「しゃくにさわる」ことが
あるらしいけど)彼は言った。

「冗談なのか?
・・・嬉しいって思っちゃ、いけねぇのかよ。」

僕は目を大きく見開いていたらしい。僕の様子を見て、裕太も驚いていたから。
何?どういうことだろう?
僕は馬鹿になってしまったのか、裕太の言った意味がすぐ理解できなかった。

急に裕太は、ガッと僕の腕を引いて、僕をソファの隣に座らせる。
そして言った。
「何で冗談で済ますんだよ。俺、嬉しかったのに。
兄貴はいつもそうだ。大切なトコ、全部そうやって、ヘラヘラ笑ってごまかす!」

僕の弟は、何て「不二周助」という人間を、よく理解してるんだろう。
僕は嬉しくなって、また笑った。すると裕太は「笑うなよ!」って言う。
その様子に、僕は重ねて笑う。あぁ、何て愛しいんだろう。

ちゅ、と今度は、正面から裕太に口付けた。
予想通り、裕太は真っ赤になって怒ったけど。


神さま、
この想いは裏切り、禁忌の恋。
彼に罪はないから、だから、
裁くのだったら、僕を裁いてください。

END



寝てる人にこっそりキス、というシチュエーションが好きなんですよ。
何だこれは、馬鹿カップルか?(笑)