そういうところが



僕は君の、そういうところが。


身体の大きな人は、いいなぁ、なんて
不二は、うらやましがったことは無い。
不二は、どちらかといえば小柄であるが、「天才」と称されるだけの実力を、
その身体に、宿しているから。
だから不二は、もう少し身長が伸びたら、とか、腕が長かったら、とか、
そういう事を考えたことは、無いのだけど。

「・・・いい天気だねー。」
「そうだな。」

背中越しに聞こえる、乾の声。
不二は今、長身の彼と、背中合わせに体育座りで、ベンチの上に腰掛けている。
己の背中に、ぴったりと寄り添う、
乾の大きな背中は気持ちがいいな、と、不二は思った。

「2人して、サボってるな〜。いけないんだ〜!」
そういう菊丸の、明るい声。
別にサボってるわけじゃない。
お前たちが練習試合をしていて、コートが全面使用中だから、
今は、順番を待っているだけだ。
と、乾は冷静に答える。
背中越しで、僕からは見えないけれど、
そう言いつつも、今もノートに、集めたデータを書き写しているんだよね?

乾はまさしく、「サボってはいない」
彼は、彼のテニスを実行中だ。
乾。
僕は君の、そういうところが・・・


顧問から集合の号令がかけられて、座っていた2人も、しぶしぶ席を立つ。
あぁ、僕の幸福な時間が。
そう、不二は内心思ったのだけど、
「行こうか、不二。」
そんなささいな言葉でも、彼がわざわざ自分に向かってかけてくれたから、
まぁいいかな、と不二は思う。

乱雑に2列に並んで、先生の話を聞こうとするけど、
前の列にいる少年達は、後ろの人間が「見やすいか」なんて、
そこまで、考慮できるほど気が回らない。
だから、出遅れた彼らは、何だか話の聞きづらいポジションに、立たなくては
ならなかったのだけど。

「こっちの方が、いいかもね。」

そう言って、小さく手招きをする、乾。
彼は背が高いから、他の生徒達の頭を乗り越して、見ることが出来るけど、
自分は、そうではないから。
だからちょっとでも不二が見やすいように、と、
開いたポジションを探して教えてくれた彼は、

大人みたいだ、と思った。

乾って、妙だね。大人みたいだ。
そうやって、ヘンなところまで気を回して。
乾、僕はね。
僕は君の、そういうところが、好き。


誰もが「前」に集中しているのをいいことに、隣人の手を握った。


己の手とはまるで違う、大きくて、そして優しい手。
彼は、自分の手をそっと握り返してくれた。
ああ、嬉しいなぁ、と不二は思う。
乾。
君はこういう所で、僕がこういった行動に出ても、
全く動揺せずに、ただ僕の行動を受け止めるんだね。
乾。
僕は、君のそういうところが、好きだよ。


もっと過激な行動に出たら、相手はどうするのかといった知的好奇心は、
とりあえずしまっておいて。


あばたもえくぼ、なんて言葉があり、
恋は、全てのものを良く見せる、魔法だ。
相手の一動、一言に、
不二は、「乾の、そういうところが好きだな」と、しみじみ思った。


END



不二乾です。うわ、予想してたけど、好きだわ、この組み合わせ。
何気に不二がセクハラしてますけど、そこんとこは気にしないでください(笑)