その視線の先



「三白眼」という言葉がある。
「彼」は三白眼だな、と、乾は思った。

黒目が上部に寄っていて、左右と下部に白目が見える感じの、目のことだ。
人相学上は、悪い目つきとされる。
まぁ、彼、海堂の場合、例え目がそうでなくても、全体の雰囲気が 近づきがたいものではあるが。
別に、海堂の人脈を広げようと思っているわけではないので、そんな事は どうでもいい。

彼は三白眼だな、と乾は思う。
ああいう目をした人物は、乾の周りにそうたくさんいるわけではない。
海堂自身も、顔立ちの似ている可能性の高い家族を除いては、そういう目の人間に 接したことがないのだろうと、推測されるのだが。

彼は、知らないのだろうか。
その目の視線が「どこを見ているか」、とても分かりやすいことに。

それはテニスというスポーツにおいても、不利な面かもしれないが、
海堂は別に、トリッキーな動きで、相手を惑わすタイプのプレーヤーではない。
だから、試合中、相手から視線を読まれやすくても、それは特にマイナスには ならないだろう。・・・だが・・・。

私生活ではねぇ・・・。

そう思って、乾はひとりで小さく笑った。
その視線の先に誰がいるのか、バレバレなので。

しかし乾は本人に、ばれてるよ、とは教えない。
それは、彼本人のために。
そんなことを言えば海堂は、その顔をさっと赤くするに決まっているから。
自分や不二ほど、臆面もなく笑うことが出来ないタイプの人間だから。
純情なのである。
だから乾は、教えない。


口元を隠して喋る人間は、サギ師の傾向があるという。
そう、乾は何かで、確かテレビだったと思うが・・・聞いたことがある。
口元を隠すのは、本心を悟られまいという、思いの表れで。
目にしろ口にしろ、他人から心理を読まれるのは、あまり嬉しいことではないから。
自分がごくたまに、持っているノートや何かで、口元を覆って話している事に 気づき、乾は苦笑する。

己の目は。

己の目はどうだろうと、乾は考える。
その瞳は、普段厚いグラスに阻まれて、他人から見えることはない。
「たまには眼鏡をはずしてみせてよ」という仲間の言葉に、
改良型の野菜汁を飲み干せたら、と提案したが、
それでは不二が、ごく普通の顔で飲んでしまうだろうから、途中で止めた。
後で聞いた話によると、
不二本人はもちろんそれが見たかったけど、皆にまでそれを見せるのは、勿体ないから。
だから頼まれても、皆の前ではやらないね、というのが、不二の言葉。
そんなことは、どうでもよかったが・・・。

己の目は多分、三白眼の彼よりも、分かりやすい目であるだろう、と。
そう、毎日、ぼやけた視力だとはいえ、眼鏡を外した状態の顔を見ている、乾本人は 思っている。

だから乾は、教えない。
純情な2年生の彼が、その眼差しで見つめている相手は、
自惚れなどではなく、「自分」だろうと。
そしてぶ厚いグラスを通して、この視線の先に立っているのは、
いつだって、その三白眼の彼なのだが、そんなことは、教えないのだ。


END



何だか微妙な話になってしまいました・・・。乾海っていうか海乾というか。
意味、分からなかったらスイマセン。結局、両想いだっていうコトです。