”お手をどうぞ、Lady.”

〜季節外れなネタですいません〜



「若気の至り」という言葉がある。
「怖いものしらず」という言葉がある。

マルセルは、その両方に当てはまる少年だった。

***

ハロウィンという”お祭り”がある。
由来や意味など、どうでもいいのだ。ことに宗教的な意味合いを含めば、 この聖地では、そんなものは無意味となる。

とにかく、聖地では「ハロウィン」は、ただの変わった”お祭り”に過ぎなかった。
守護聖はとにかく、催し物が好きである。
そういう刺激がないと、”やっていけない”のだろうが。

ハロウィンになったら、女王候補はもちろん、街に住む人々や、王立研究院に勤める人たちも まじえた、楽しいパーティをしましょう、という話が決まった。
それを、一番喜んでいるのはマルセルだ。
この少年は、こういったパーティが大好きである。 先代の緑の守護聖カティスも、催し物が好きだったから、影響を受けているのだろう。
もちろん、カティスと違ってマルセルは、まだ酒を嗜むことをしなかったが。

とにかく、ハロウィンパーティにむけて、マルセルははしゃいでいる。
お菓子はどうしよう、とか。
仮装はどうしよう、とか。
皆楽しんでくれるかなぁ、とか、参加する方だけではなく、守護聖として、一般人を招く立場でも、 マルセルは、心弾ませていた。


そういった思いを持ちながら、なかばスキップするように歩きながら、マルセルは聖殿の外へ出ていたのだが、 そこで、ひとりの女性に会った。

女性、というより、少女と言ったほうがよい、若いひとだった。
彼女はマルセルを見るなりふふと笑って、「楽しそうね。」と言った。
彼女の方が年上だろうし、マルセルは「守護聖」として歩いていたわけでもなかったから、 女性の口調には何の注意もせずに、彼は答えた。

「うん、ハロウィンのパーティが楽しみだから、今からうきうきしてるんだ!」

「パーティがあるのね、いいな、私も参加できるかしら?」という女性に、
「出来るよ!聖殿で、たくさんひとを招いて、盛大にやるんだって。君も、良かったらおいでよ。」
とマルセルは答えた。彼の言葉を聞いて、女性は嬉しそうに笑う。

「ありがとう。また、パーティのこと、聞きたいわ。
明日、またこの時間帯にここにいるから、来てくれるかしら?」
そう彼女は言って、マルセルは、うんと返事をした。

***

次の日。

マルセルは、約束通りその場所にやってきて、ハロウィンパーティに関して、新しく決まったことや、進展を告げた。
「ゼフェルはね〜、文句言いながらも、ひとを驚かす仕掛けを作るんだって、はりきってるんだよ。」
そう言って、マルセルは笑う。”彼女”は、とても話しやすい人だった。
なんとなく、故郷の姉を思い出させる。・・・同じ、長い金髪なのもあって。
そうなの、とマルセルの話を聞いて、相手も笑う。

そうやってマルセルは、ハロウィンまでの間、彼女との交流を深めた。

***

パーティ当日。
パーティ自体は夕方から始まるので、マルセルは彼女に昼、会いにいった。
すると彼女は、綺麗なドレスを身にまとっていて、
マルセルは、彼女がその格好でパーティに出るのだと思っていたのだが、
「私も、仮装したいな。」という言葉。

”せっかく、綺麗なドレスなのに”と少年は言ったが、仮装は、ハロウィンの醍醐味でもあるので、 素直に、仮装したいという彼女の意見を、飲むことにした。

「君は可愛いから、顔が出るほうがいいよね」と言って、
マルセルは、黒い帽子に黒いローブの「魔女」の格好をすすめたが、
「ありがとう。でも私は、これがやりたいの。」
と言って、マルセルの持っていた本の、ジャックオーランタンを指した。
注:ジャックオーランタン これ→ ジャックオーランタン


かぼちゃのお化けがやりたいという少女に、
「君は、変わり者だなぁ」とマルセルはつぶやく。そして微笑んでから、
「分かった。僕、衣装持ってくるから、待ってて!」
と言って、マルセルはその場を去る。彼女は、思っていた。

「ふふ、いい子ね、マルセルは。」

***

夕方。

雰囲気のある灯りがつき始めて、ドレッシーな衣装を身にまとった男女や、 ハロウィンの仮装をした子供たちが、大勢集まっていた。
その中で守護聖は、今日くらいは立場を忘れて楽しめるよう、
”いつもと違う服装”で、なおかつ、相手が守護聖だと気づいても、そういったことを言わないように、といった、 なかばゲームのようなルールが決められていた。
だから守護聖も、このパーティの間だけは、単なる青年や少年で、
「存分、パーティを楽しんでね」という、女王補佐官ディアの言葉。

さて、かぼちゃをかぶった少女を連れて、マルセルは歩いていたのだが、
何故か魔女の格好をしたオリヴィエに、
「マルセルちゃ〜ん。そんな子ナンパしてたら、アンジェ、ほかの奴らに取られちゃうよ?」
と言われ、慌てて、
「あ、そうだ!アンジェをダンスに誘わなきゃ!」
と叫ぶ。そして隣の彼女に、ぺコと頭を下げてから、言う。
「ごめん!僕、もういかなくちゃ!えっと・・・君・・・」
「アン。」と彼女が告げると、マルセルは続けた。
「ごめんね、アン。君も、パーティ楽しんでね!」

そう言って、少年は結わえた髪を揺らして、駆けていった。

さて、この場に残った少女とオリヴィエだが、
シャンパンを持ったオリヴィエに向かって彼女は、無言で礼をしてから、 かぼちゃが重い頭をふらふらさせて、人ごみの中に向かって、歩いていった。
その後姿がやけに神々しいように見えたのだが、照明の関係かもしれない、と、 すでにアルコールのはいっていたオリヴィエは、思った。

人ごみを抜けて、少しひとがまばらになった所に、黒い長い髪の青年は、座っていた。
目の前に”ジャックオーランタン”が現れて、
それをかぶっているのは、背格好からして女性で、
しかも、そのかぼちゃから、金色の真っ直ぐな美しい髪がはみ出しているので、さすがのクラヴィスも、驚いた。

しばらく唖然として、その相手を見つめていたが、
今日は自分は「闇の守護聖」ではなく、
また彼女も「彼女」ではなく、ジャックオーランタンなのだから、
クラヴィスは、童話に出てくるキザな王子様のごとく、
彼女に向かって右手を差し出して、こう言った。


「お手をどうぞ、Lady.」


            *エンド*