カウンター
七条と仲良くなった啓太は、ある時彼から、こんな話を聞いた。
「伊藤君だけに教えますけどね、
実は僕、カウンターなんです。」
***
はぁ?
思わず啓太は、顔を歪ませて、思いっきり疑問の声を出してしまった。
ここで彼が自分のことを、宇宙人だとか悪魔だとか言っても驚いたと思うが、
(驚くのは、一応友人としての”つとめ”で。内心、啓太は七条が人外ではないかと、少し思っている)
「カウンター」とは何だ。何のことだ。
「数をカウントする機械のことです。」
そう言われて、「それは知っています!」と少年は答えた。それくらいの英語は、講釈されなくても
啓太でも知っている。
問題なのは、一見人間に見える彼が、自分を称するのにカウンターだと言った点で。
「七条さんがカウンターって・・・どういうことなんですか?」
と啓太は聞いた。すると七条はニコニコして、答える。
「僕はね、実はこの体が、全て機械で出来ているロボットで、
”動いている目的”は、”出会った”人間の数を数える為なんですよ。」
「・・・・・。」
ますます意味が分からない。
そんなことを言えば自分が困惑するのを知っているだろうに、何故そんなことを言うのだろう。
伊藤啓太は、七条臣と仲良くなって、彼のことを少し分かったつもりだったが、甘かったなと思った。
しょうがないので、カウンターであるらしい、七条の言い分を聞く。
「人間は、ひとに会うと、たとえそれが好きな人物でも、少しのストレスを感じます。
緊張、と言った方が、いいでしょうか。
僕はそのストレスを、電磁的な力で感じて、胸の奥にあるカウンターを1つ、回すんです。
それで、1人の人間が一生に会う”のべ人数”を、統計の為に調べているんですよ。
伊藤君の前の学校にも1人くらい、カウンターの子がいたのではないでしょうか。」
そう言って七条は、笑う。胸の奥、と言って心臓のあたりを指差したので、そこから機械的な音が
聞こえないかと、啓太は耳を当ててみようかと思った。
しかし、相手の胸に耳を押し当てるというのは、普通、友人間ではしないことだろうと思ったので、やめた。
・・・抱きつくような格好に、なってしまうし。
「ストレスで、カウンターなんですか・・・。」
端から見れば冗談に決まっているが、啓太は七条があまりに神妙に語るので、すっかり信じてしまった。
逆を言うと、カウンターという機械であると言われた方が、何となく「人間だ」と称されるより、
しっくりくるような感じがしたので。七条臣という人物が。
ううん、とうなっている啓太の様子を、七条は面白そうに眺めている。
ふいに、啓太が聞いた。
「ストレス・・・ってことは、嫌い・・とか、苦手な人物に会ったら、カウンターがたくさん
回ってしまう、ってことは、無いんですか?」
「そうですね、あるかもしれません。」と七条。
啓太はしばらく黙ってから、勇気を出して聞いた。
「副会長の・・・中嶋さんに会ったら?」
「・・・・・・・・・・・・・・千の桁が上がります。」
は は は、という乾いた笑いの後、啓太は言う。
「あぁ、じゃあ結構、計測には誤差が出来ることに、なるんですね。」
「そうですね」(にっこり)と、七条臣。
もはや、統計がどうとか言う「つじつまあわせ」を考えるつもりもないようだ。
そんなに嫌わなくても・・・と啓太は内心思ってから、最後にひとつ、聞いた。
「そうだ!毎日のように会っている、女王様は?
西園寺さんに会っても、カウンターが回るんですか?」
「郁に会うと、歯車が逆に回転して、数が減るんですよ。
だから僕のカウンターは、桁が足りなくて頭打ちになることが、ないんです。」
うまくできているでしょう、と七条臣は笑って、彼の目の前の、伊藤啓太は心の中で叫んだ。
結局、ノロケかよっ!!
<完>