「千里眼」



千里眼(せんりがん):
遠い場所や未来の出来事、または人の心中などが見える能力。(を持っている人)

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目が良いというのは、とても素晴らしいことだと、は思う。

ここにいる女王候補は、スモルニィ学園のごく普通の女の子だったが、何故か女王試験の候補生に選ばれて、 女王試験の真っ最中だ。
成績も普通、運動神経も普通、ひとと違う面といえば、ひどく視力が悪いことくらい。
は昔から本が大好きだったので、本ばかり読んでいた。なので視力を悪くした。
眼鏡だと、レンズがぶ厚くなりすぎるくらいに悪いので、コンタクトレンズをしている。

そんな彼女が聖地で仲良くなった人物といえば、同じく本好きのルヴァではなく、意外なことに、夢の守護聖オリヴィエ なのだ。
オリヴィエは、あまり本は読まないが(興味有る雑誌等のチェックは、もちろん怠らないけれど)、知識が広い。
聖地という狭い空間に住んでいるとは、思えないほどだ。
そこに、も惹かれたのかもしれない。

さて、そのだが、彼女はオリヴィエに、どうしても聞きたいことが1つあったのだ。
それは、前に本に載っていて、興味深かったので覚えておいたこと。
ほんの少しだけ耳にした、オリヴィエの故郷の話から、思ったこと。
夢の守護聖と一緒にお茶を飲んでいる際に、はさりげなく、聞いた。

「オリヴィエ様って、視力が良いんですか?」
「視力?まぁ、悪かないけど。アンタは、確かコンタクトしてるんだったよね。
・・・何でそんなこと聞くの?」

オリヴィエは不思議そうだ。するとは、素直に理由を話した。

「エスキモーの人たちは、視力が6.0あるほど視力が良いって聞いたので、寒いところの出身の方は、 みんな視力が良いのかなぁって、思って・・・・。」

ぶはっ、と、オリヴィエは飲んでいた紅茶を少しふいている。
ハハハと少し笑ってから、夢の守護聖は言った。

「あのねぇ、アンタの知的好奇心というか、探究心は認めるけど、あんまりそんな、ヘンなことを 人に尋ねちゃ、駄目だよ?・・・アタシは別に良いんだけどさぁ、アンタを知ってるから。
それにしてもエスキモーって、誰?そんな視力がいい人が、いるの?」
するとは、
「寒い地域に住む、人々の名前です」
と答えた。彼女は続いて、つぶやく。

「いいなぁ、6.0もあったら、すっごく良く周りが見られるんでしょうね・・・。」

その声は、本当にうらやましいと思って、言っているに違いなかった。
それでオリヴィエは、彼女の「夢」を壊すのも何だから、話を合わせるのだ。

「そうだねぇ・・・私は以前、千里眼だって言われたことはあるけど。」

千里というのは、里という単位が「千」であるという、距離のことだ。
単に「遠い」という表現にも、使うらしい。ルヴァの受け売りだったが。
千里眼。
千里ほどの距離も見渡せるほどの、目を持っているということ。
ガッと興味深げに身を乗り出したを座らせて、オリヴィエは語りはじめた。

「もちろん、そんな超能力があるってワケじゃないんだよ。
守護聖だって、ただの人間だからね。
ただ、ちょっと”気づいた”だけで、ね。

例えばさ、朝、みんなに会って、
あぁ、ルヴァは目が赤い、また徹夜して、本でも読みふけったんでしょ、とか、
リュミエールの顔色が悪いのは、どうしてだろうね。またクラヴィスが、いい年して 駄々こねたりしたんじゃないかな、って思ったり、
オスカーのヤツが、目の下にクマなんか作ってるのは、外界で遊び呆けてきた からでしょ、とか。
そういう事を考えて、他の人を見るワケよ。
そしたら、当然のことなのに、”何で分かるんだ”って話になるよね?
で、アタシは千里眼だって事になったのよ。」

簡単なことなんだけどね、と、夢の守護聖は、笑う。
彼にとっては、本当に、ちょっとしたことなのだろう。
だが、そういった広い、優しい目で周りを見渡すことは、なかなか出来ることではない。
は、そんな目を持った相手を、微笑んで見つめた。

「あ、アンタ今、とってもイイ目をした。」

そう、オリヴィエはつぶやく。
は、この視力の悪い目を、誉められたことなど、長い間無かった。
なので、ビックリしてしまった。
私の目が?と少女が問うと、オリヴィエは答える。

「うん、とってもイイ目をしたよ。
目ってさ、1種類じゃないんだよ?
猫の瞳ほど変わらないけどさ、人間だって、目に”表情”があるんだ。
視力が悪くったって、大丈夫。見ようとすれば、よーく見えるようになるんだよ。
好きな相手って、どうしても目で追っかけてしまうでしょ?それと同じ。」

ふふ、と夢の守護聖は笑って、少女に顔を近づけると、 は顔を赤くした。
そこを、オリヴィエはふざけて、

「あ、。鼻毛出てる。」

と”よく見える”ふりをして言ったら、は慌てて「えええ!!?」と叫びつつ、 ポケットから鏡を出そうとするから、
「あはは、冗談だよ、冗談☆」
と青年は告げて、の頭をぐりぐりと撫でる。


彼はきっと、千里眼だ。
それは、女王候補の彼女が未来、きっと素晴らしい女王になると、先が見えたから。
彼はきっと、千里眼だ。
いつになっても変わらない、穏やかな広い目で、仲間の皆を見つめることが出来るから。


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