simulation  =シミュレイション=  2



「ごめんっ・・・!重かっ」
「重くはねぇよ。」

相手の体にのしかかってしまった周助は、すぐに体を離した。
立ちあがらずに、今だ床の上に座り込んでいる裕太。
彼は、重くはなかったと、即答した。

その言葉の奥の意味を知るものは、いるだろうか。

足を投げ出したままの裕太に、周助は彼を起きあがらせようと 手を差し伸べたが、少年は、その手を取らない。
常時、穏やかな笑みが浮かべられている周助の顔が、一瞬曇った。

・・・スッと、淡い色の髪の少年は身を屈めて、床の上の少年の肩に顔をうずめる。
抱きつかれた、と裕太は思った。
周助は、つぶやいた。

「裕太。・・・・・・・好き。」

ふぅん、と彼の弟はつぶやいた。その意味を、取り違えているから。
”違う意味だったら、どんなにいいだろう”と思って。
そう、昔も今も、自分は兄貴のことを、思って思って思って思って、
おかしくなるくらい・・・”想った”。

周助は、続けて言う。
「裕太がいけないんだ。
会えないと思っていたのに、急に帰ってくるなんて。
僕の言葉がおかしいというのなら、それは全部、裕太のせいだ。」

周助は首の角度を変えて、弟の首筋に口付けた。
あまりのことに裕太は驚き、身を離そうとする。
そんな相手の腕をつかんで、周助は言う。

「僕は、隠しきれてなかったんだね。
あまりにも、愛しさが強すぎて。
だから裕太は、僕の言葉がおかしいって言ったんだろう?

もう、隠さない。裕太、・・・・愛してる。」

禁忌であることは、当然のごとく分かっていて。
そうでなければ、押さえきれないほどの情熱を持っていたから。
彼は驚くだろうと、自分を嫌いになるだろうと、周助は思った。
しかし彼は、裕太は、周助の予想をはるかに越えた反応を見せたのだ。


・・・笑った。


笑ったのだ、兄の言葉を聞いて。
それはもちろん、嘲笑などではなく、真の微笑み。
普段、仏頂面を浮かべているこの少年の笑顔は、まぶしいものがあった。
周助は数秒呆けたような表情をしてから、一緒に笑った。
もう一度相手を抱きしめて、今度は額にキスをした。
裕太の腕が自分の背にまわって、その部分が温かいと周助は思う。

「何か・・・”アンタ”にこうされてると、落ちつく・・・。」
もっと抱きしめてくれと言わんばかりの、背中の腕。
自分のことをアンタと呼んだ裕太に、周助は告げる。
「”周助”って呼んでみてよ。」

「しゅうすけ。」
「何?裕太。」

周助が、いとおしそうに、片手で相手の頭を抱えてから、もう片方の手で うなじのあたりに触れたので、裕太は思わずのけ反る。
「嫌だった?」と兄は軽く聞くと、弟は少し口篭もって、答えた。

「あ・・・いや、そうじゃねぇんだけど・・・。」

何、言ってみてよと周助が促すと、裕太は相手の耳元で囁いた。


「兄貴、何で、手馴れた感じがするんだ?
前、誰かとこういうこと、したのか・・・?」


それは「心配」なのだろうか。「嫉妬」なのだろうか。
「興味本位」?「質問」?
どれかは分からないが、周助はそれに答えた。

「前に誰かと?いいや。
これは僕が頭の中で、何度もsimulationした結果なんだ。」


不実な恋だとは分かっていても。
何度も、彼を抱きしめたいと。
口付けたいと。
情熱の炎に身を焦がし、融けてしまうくらいに合い交わりたい、と。
そう思って、願って、想いを封じて過ごし、たった今、はじけた。

simulation(見せかけ)の愛だと他人から言われても、構わない。
本人たちは、それが違うことを知っているから。
互いに高ぶる心。


日焼けした腕が深く絡まって、愛を紡ぐ。


+++++END+++++




えっちシーン書けなかったのが、残念です(笑)