思慮
人の感情を読むのが、得意だとは思わない
読まれないよう努めるのには、多少向いているかもしれないが
微笑んだり、場を和ませたりすることに気を配るのは、違う人間の役割だ。そう
、例えばカイル殿のような
その彼とて気付かなかったことを、何故己が気付いたのか
今となれば、その理由は分からない
述べたところで結果論となるだけだから、やはり無駄なことだ
きっかけはある日
彼女の剣が、左右に振れるのを見た
振ったのでは無い。振れたのだ。あきらかに無駄な動きだった
その武器を持つ者が、焦りか何か、負の感情に影響されて、手を震えさせた
のだと分かった
珍しいことだと思った。若く、使命感に負われた彼女が、元老院からの観客が居
るだけで、抜刀の「型」を、し損じるとは
単なる緊張のせいでは無かったのだと、後になって理解するのだが
・・・自分にはもう、随分と縁遠い話だったから
鼓動が早くなる。手に汗握る
相手を視線で追い掛けては、実際に目が合うと、その視線を反らしてしまう
誰かを恋うというのは、本来とても素晴らしい感情なのだろう。
その立場や、状況がどうであれ
アレニア殿がゴドウィン家の嫡子に、そういった気持ちを抱いていることを、
因らず知った
***
何故、こちら側に付いたのかと問われても、
今となればやはり、それは結果論で
唯、己の武人としての勘と思想の全てが、ゴドウィン家に味方せよ、と
そう感じたから、銀の髪の王子に弓引く結果になったに過ぎない
あの方は、ここを逃げよと我々を気遣い、
珊瑚珠色の髪をした彼女は、その細い肩を震わせながら、最後まで盾となることを誓った
己も同じ選択をしたのは、何故であろうか?
必死に剣を振る彼女が、先に斃れるのを、右の目に見遣る
・・・自分の右腕の剣が、左右に振れたことに驚いた
この想いは、恋などでは無く
ただ単に、その肩に背負う重荷が、少しでも軽くなればと考えたから
陽が墜ちる
この想いは、・・・言の葉に乗せて告げるには、重すぎる感情だ
<了>
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