君は僕の最高の友

・・・・・best friend


シバくんは、何も言わない。

それは、無口とひとことで片付けるには、ひどすぎるほどの、寡黙ぶり。
僕が何を言っても、その口元と身振り手振りで、済ましてしまう。
”うん”
”分かった”
”困ったね”
声がなくとも、言いたいことが分かるようになってしまったのは、喜んでいいことなのかな?

シバくんは、何も言わない。
一度、「何聴いてるの?」って、聞いてみたけど、
返ってきたのは声じゃなくて、
英語で、何か良く分からないけど、男のひとが歌ってた。
自分のヘッドホンを外して、僕の耳にかけたんだ。

その行為は優しくて、とても嬉しかったけど、
僕が聞きたかったのは、具体的なアーティストの声じゃなかった。
そんな、外国語で早口で喋られても理解できないし、
それを、ずぅっと飽きずに聞いているシバくんのことも、良く分からない。

僕ばっかりが楽しくて、
僕ばっかりが、こんなに”気にしている”のかな?


「ねぇシバくん。
僕とシバくんって、友達だよね?」

夕暮れの中、僕たちは2人歩いていて、ふいに聞いた。
言葉にして、どうすると言うんだろう。
彼が、「否定する」とも思えないし。そんなことで声を聞きたくもないし。
ただ、僕ばっかりがこんなに好きだなんて、不公平じゃない?

シバくんは、うんと縦に首を振らなかった。
どうして悩むのかなぁ、おかしいね。

・・・・・・・♪・・・♪・・・♪・・・

ヘッドホンから、音が漏れている。シバくんが自分の耳からまた、外したから。
それをまた、僕にかける。ゆっくり、優しく。
その時流れていた歌は、変な言い方だけど、簡単な英語で。
僕にも、歌詞が聞き取れた。

I’m happy happy at home
You’re my best friend.
Woo,You’re my best friend.
Woo,You make me live.
You,You’re my best friend.

にっこり笑うだけで、シバくんはやっぱり何も言わなかった。
僕にその歌を贈ってくれたのは、特別と考えていいのかな?

END


作中の歌は、QUEENの「マイベストフレンド」(You’re My Best Friend)です。
一部、歌詞カードと違うところがあります(わざとです)