年の瀬の風景



ここは跡部邸の一室。


今年もあとわずかとなった12月31日。
コタツに入りながらせっせと年賀状の宛名書きに追われている
樺地がいました。


もちろん、跡部サマの年賀状の宛名を書いているのです。
氷帝テニス部員200人分ですからけっこうな量ですね。


こんなギリギリに書いていたのでは元旦に間に合わない?
いえいえ、そこは跡部サマ。
私設郵便局員に明日配達に行かせるので安心です。


それって郵政法にひっかかったりしないのか?
でも跡部サマは気にしません。
というかそれじゃあ官製年賀ハガキで書く必要もないんですが、年賀状といえば
お年玉クジがお約束なのです。
跡部サマのこだわりなのです。


ちなみにそんなこだわりを持つ跡部サマは何をしているのかというと、樺地の向かいに
座って優雅にミカンを食べています。


樺地が忙しいので自分で皮をむいていました。←珍しい!
白い筋まできちんと取らないと気がすまないというか飲み込めないので、1個むくのにも
異常に時間がかかります。






部屋の中は、とても静かでした。






「樺地」


跡部サマが樺地を呼びます。


「ウス?」


樺地が顔を上げると、跡部サマがミカンの一房を差し出していました。


「ほら、お前も食え。うちの契約農家から届けさせた蜜柑だぜ?」


「ウス」


こくん。と頷いて樺地はミカンを受け取りました。
跡部サマがむいてくれたミカンです。


樺地は、それを大事に味わって食べました。


「美味いか?」


「ウス」


頷く樺地に跡部サマはとても満足そうです。


「やはり蜜柑は愛媛産に限るな…なぁ、樺地?」


「ウス」


跡部サマが嬉しそうなので、樺地は幸せになりました。
樺地が幸せそうなので、跡部サマは満足でした。


なので、もう一房分けてあげました。


「美味いだろう。なぁ、樺地?」


「ウス」


ご満悦ついでに、もう一房。


「ほら、もう1つ」


「ウス」


跡部サマが差し出すミカンは次々と樺地のお腹に納まっていきました。


「これで最後だな」


上機嫌で最後の一房を渡すと、受け取った樺地はジッと掌を
見つめてなかなか食べようとしません。


「……」


「ん?」


「……これは、跡部さんの分、です」


そう言って、樺地は最後のミカンを跡部サマに差し出しました。


「…気ぃ遣いやがって」


クッ。と笑って跡部サマはコタツから身を乗り出し、樺地の手のミカンをパクリと
食べました。


「…まだ足りないな…」


そう呟いた跡部サマがパチン!と指を鳴らすと、樺地はおもむろにハガキを横に退け、
カゴのミカンに手を伸ばして丁寧に皮をむき始めました。


跡部サマはその光景を幸せな笑顔で見守っています。


たかがミカンでこんなに幸せになってくれたなんて、愛媛の契約農家もきっと本望でしょう。


書きかけの年賀状に少しミカンの汁が飛んでしまいましたが、それは日吉くんの分だった
ので、「まぁ良いか」と跡部サマは無視しました。


2人がカゴいっぱいのミカンを食べ終った頃にはすっかり日も暮れて、もうすぐお正月です。


「今日はうちで年越し蕎麦を食べてけよ、樺地」


「……」


「どうした、樺地?」















「…もう、食べられません…」







おわり。



どうしてこんなにラブい(笑)のですか!!
何げに日吉の扱いがヒドイのが面白いです(^^)