**逃走ノ一日

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 彼らは必至に逃げ回っていた。

 何から逃げていたかというと……


 チョコレエト。


 正確に言えばそれだけではないのだが、売れない(光伸だけそう思っている)探偵小説家水川抱月が大量のチョコレエトをもらったらしく、お裾分けだといってばらまいているのから二人は逃げている。
 そんなこと別に無視していればいいのだが、彼の探偵小説家は根が結構意地悪で、他の人に対してはそんなことを求めないのに二人にだけそれを強要するのだ。
 抱月が強要すること、それは


 抱月の前でもらったチョコレエトをもらっただけ食せよ(笑顔で)


 と、言うもので、甘ったるいモノは匂いから既に吐くぞという勢いの光伸に、おはぎはとにかく見るのもダメ、その他甘いモノもどうやら問題ありの憲実にとってそれは苦行、否何を苦しんで行をした結果何かを得られるわけでもないので、何かの罰を受けているようなもの。それから何が何でも逃げるのは当然の成り行きと考えられるだろう。
 おまけに今回は、抱月が他人にお裾分けするほどの量だ。
 酒豪ですぐ甘党ではないと連想できてしまう二人にとって荷が重すぎる。荷が重いどころの騒ぎではないのは前述の通り。

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「ったく……あの二人何処に行った?!」
 手ぐすね引いているという表現がぴったりはまる抱月は学園の裏の薔薇の木の近くで腕まくりしている。
「先生……いい加減やめたら……」
 白い紙袋を片手にこの学園の小使いとしてすっかり板にはまっているがこれでも来年から学生としてここで過ごす日向要が呆れた調子で声をかけてきた。
「えー、それはヤダよ」
 と、言いつつ彼が背負っている麻袋から一掴みチョコレエトを要に渡す。
 それに顔を引きつらせながら要は受け取り手にした袋に詰める、先程まで口が手で掴めるほどだったが今や掴む場所が無くなってしまった。抱月に見つからないよう溜息をつく。

 しばらく顔合わせない方がいい。
 ついでに『事故』であってしまったときのためにも少し食べておかないと。
 でも、チョコレエトとお茶でお腹いっぱいだし……。
 いや……一寸気分も悪かったり。流石に多いよな。

 そんな算段を立てているとは知らず抱月は相変わらず要ではない人間に対しての憤り露わで何やら言っている。
 折角英吉利製の高級チョコレエトだというのにとか、こんなにおいしいのにとか。
「それで、要君本当にあの二人の行方知らない?」
「知りませんよ。寮の方に逃げてるんじゃないんですか? 寮なら流石の水川先生も侵入不可能だから」
「へえ?」
 しまったと思わず口を塞ぐ。
 勿論彼らの居場所を要は先程抱月に行ったとおり知らない。だが、推測した場所に居る可能性はかなり高いだろうと思っていた。
 二人とは過去のとある事件で親しくなった友人だ。勿論それ以上ではない。
 年も近く、何かと要の助けにもなってくれる二人を悪いようにするのは心苦しく、何とかフォローをしようと試みたが不可能だった。何より『後の祭り』だったのだ。
 抱月の行動は早い。
 元々活動的な人で一所にじっとしていられないところもある。
「ふーん、あの二人甘いな」
 顎に手をやりニヤリと笑う。何やらとても得体の知れない輝きを放っているのを見たような気がして要は思わず後退りをする。
「寮、だなんて、僕が卒業生で水川繁だってわかれば無条件で中にいれてくれるんだからねえ!!」
「あはは……」
 一体、抱月は学生時代何をしたのだろうか。思わず背筋が寒くなる要。
「待ってろよ」
 チョコレエト入りの大袋を背負い直し、袖をまくる。
 そして、不敵な笑みを残して抱月は寮のある方向へとずんずんと歩いていってしまった。
 そんな勇ましい抱月の後ろ姿を言葉無く要は見つめるだけだった。
「お二人の無事を祈るのみ……だよねえ」
「うわっ!!」
 いきなり後ろから声がして要は飛び退いた。
 要の背後には随分背が伸びた火浦あずさの姿があった。
「ああ、あずささん」
 こんにちはと頭を下げるとあずさはにこやかにこんにちはと挨拶を返した。
 出逢った当時は小動物のように可愛らしい容姿だったがいまや、惚れ惚れするほど凛々しい青年に育っていた。夏に急激に身長が伸びて要より背が高くなったことは要の小さな悩みでもあるのだが。
「それにしても要さん迂闊すぎるよ」
「はあ」
 申し訳なさそうに頭を掻く。
「でも、心配してももう動いちゃったことだし」
「あずささんは潔いですね」
「他人事だし」
 何よりも、不潔な金子さんなんて、ね。と辛辣な一言を付け加える。
「あはは……」
「それに、どうしようもないことだし。何より水川先生じゃなくて金子さん達の方が適任だと思うしな」
「え? それはどういう……」
「ホント、要さんっていざって言う時に持ち前の勘の良さとか頭の回転の速さが発揮できないよね」
「はは……申し訳ない」
「でも、仕方ない事かな。話してあげるね。 意地悪だけど本当に人が嫌がるコトしない水川先生があの二人追いかけ回している理由」

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 時同じくして……。
「おい、入っていったか?」
 寮の建物の影。丁度そこから寮の玄関が見えるがこちらは見えない場所で二人の体の大きな男が玄関の方を伺い見ていた。
「ああ、執行部の連中が嬉しそうに招き入れた」
「なら、動けるな」
 そういうと男二人つまり、金子光伸と土田憲実はその場を、水川抱月が屋内に入っていった寮から離れた。

 二人は身を潜めるようにして催しもがある時以外は一切使われない第二倉庫に滑り込んだ。
 光伸が入学して以来彼の棲処となった倉庫の奥に二人は一応落ち着く。
 腰を下ろした途端盛大な溜息。
「まったく、男は何を考えて居るんだ」
「……」
「いい歳して、確か去年の秋で三十一だろ? 三十路越えた男が子供っぽいことをしおって」
「……」
「おまけにチョコレエト好きなのだから、独り占めをすればいいのに振る舞うな。万人皆チョコレエト好きではないのだ!! その辺の想像力はないのか? あの男は!!」
「……」
「自分だって嫌なモノ目の前に突きつけられたら嫌だろう。それを……まったく!!」
 光伸は読書やレポートの執筆用に置いてある木箱を強く叩く。
 そして、鋭い視線を彼から少し離れた位置で座っていた憲実に飛ばす。
「土田、黙っていないで何か言え!!」
「……何かといわれても」
 光伸が言っていることは決して間違っていないとは思うのだが、一部納得出来ない部分があり根が正直者の憲実は、どういったらいいのか困っていた。何処までも実直で融通が利かない男である。
「ったく……。それが土田らしいというか」
 苛立たしげに癖のある髪を乱暴に掻く。
「それにしても何も俺たちを狙うことは無かろうに」
「ああ」
 あれは今朝のことだ。
 要とあずさが朽ちた櫻に絡むあの怪異な薔薇の木の下ではしゃいでいる姿をみた。
 要にしてもあずさにしても知り合いということでふと沸いた好奇心で寄るとそこには大きな袋を抱えた学園裏の林に棲む探偵小説家の抱月がいた。
 いつもへらへら日本人とは違う顔に笑顔を浮かべているが、この日はいつも以上にその整っているはずの顔が緩んでいた。
 理由は、抱月が抱えている袋から微かに臭ってくる甘い香り。
 その香りと袋の大きさに光伸も憲実も嫌な予感が胸に宿る。
 案の定抱月は締まりない笑顔を二人に向けていったのだ。
 昨日英吉利の父から沢山チョコレエトを送ってもらって、一人では食べきれないからみんなにお裾分けしているのだ、と。
 勿論二人は、遠慮しておくと言ったのだが、
 親しい人に対しては誰に対しても程度に大小はあれど意地悪になる抱月は最初は不機嫌そうに二人を見ていたがやがてニヤリと非常に意地の悪い笑みを浮かべた。
 流れるような綺麗な声が宣言する。
 こうなったら意地でも二人にチョコレエトをあげたくなった。
 そして、僕の目の前であげたチョコレエト全部を平らげるのを見たくなった、と。
 幸い二人して、それぞれの理由でこの場から逃げる能力に優れていた。いや、危機管理に対する勘が良かったといえるのかもしれない。抱月のあの袋の中身を悟った段階で二人は漠然と自分たちにとんでもない危険が押し迫ってくるということを察していたのだ。
 二人は一目散に逃げた。
 抱月が宣言した直後に。
 おかげでまだチョコレエトの被害を被っていなかったのだ。
「……おまけにあの繁だからな。目的達成するまで追いかけてきそうで怖い」
「……」
 小さく同意の言葉を吐く。
「何となく、人にやる分などないというのに意地でも俺等にチョコレエトを押しつけてきそうだな」
「……」
「土田、また喋っていない」
「ああ、済まない」
 謝ると光伸は小さく息を吐いて、乱雑に積み上げられた本の山にはまりこんでいたシガーケースから煙草を一本取り出して燐寸でそれに火を付ける。
 紫煙が薄暗い室内に緩やかに立ち上る。
 明かりを受けて白く発光して舞う塵に混じる煙を二人は暫し無言で見つめる。
 状況としては結構切羽詰まっている。
 朝からいろいろと場所を変えつつ身を潜めてきた。
「……となると、しばらくは授業出られないか」
 まさか、と憲実が苦笑を浮かべる。確かに先程光伸が言ったとおり目的を達するまで二人を追いかけてきそうな人だが、彼とて三十路を越えた『大人』だそこまで大人げないことはすまい。
「それは問題あるな。昔のようにサボタージュ出来る状況でもないし」
 ゆらゆらと煙草の先を揺らしながら考える。
 憲実との事がしれてから腺病質の優等生という仮面を剥ぎ取った事で得た利益もあるが損失もある。憲実にとってその損失はどう考えても利益ではと思うのだが光伸はそう思っていないようだ。その損失の一つが体が弱いと授業を怠けるということだ。
「別に授業中に来るわけではないだろう」
「それはそうだがな。寮まで来ると言うことは休み時間に教室に押し掛けてくるぐらいのことはしそうだぞ」
 まさか、と笑ってみるが想像が難くなく笑いが固まる。
「……やはりここは事態が悪くなる前に」
「金子……」
 少しだけ声が弾む。
 根が良心的でお人好しな憲実はいい加減逃げ回らずに大人しく抱月の意地に付き合ってやるのがいいのではないかと思い始めていた。
 確かにチョコレエトを食べなければいけないことは苦行を越えていて覚悟は相当いるが。
 思わず尻が浮かぶ憲実の肩をポンと光伸は押さえる。
「金子?」
「土田、貴い犠牲になってくれ!!」
「はあ?!」
 彼らしくもない裏返った声を出してしまった。
 そして、未だ置かれた手を中心に震えが走るのを感じた。

 此奴はそういう奴だ。

「金子貴様!!」
 立ち上がる憲実に光伸は口端の笑みを刷いて彼の方を見上げている。
「自己犠牲は俺の質じゃない。
 それに土田。おまえ、繁から逃げ回っているのが悪いとか思っていただろ?」
「っ!!」
 さすがはずっと憲実を見ていた人物だ。手に取るように憲実の心中を悟っていた光伸に憲実は目を見開き見つめるしかできない。
「だ……だからといって……」
「繊細で虚弱な俺にあんなコトさせるのか?」
 声を落として良心に訴えるようないい方に自然憲実の眉がつり上がる。
 虚弱は随分昔のことではないか。
 今は、毎晩毎晩夜這いをかけてくるほど元気な癖して。
 知らず握りしめた拳が小刻みに震えていた。
「なら、貴様の方が適任だ」
「なに?」
 地を這うような調子の言葉に光伸の眉端が跳ね上がった。
 そして、一瞬怯む。凄んでいる。それも暴走する直前の得体の知れない、光伸ですらこの後の憲実の行動を予測できない。
 ヤバイと思った。だが。
「貴様は多少甘いモノでも食べられるだろ。単に気持ちで食べられないだけだからな」
「な?」
「俺は違う。俺は小さい頃……そうあれは盆を過ぎた頃だ。盆に作ったおはぎを食べて初めて寝込んだ。三日熱と吐き気で苦しんだ。それ以来おはぎはとにかく見るのもダメだ。そして甘いモノも食べると気分が悪くなる。
 そんな俺より、多少食べても平気な金子の方が水川先生の気を済ませる役目には最適だろう? 食べる量などたかがしれている」
 くっと、口端つり上げて嗤う。
 ダメだ、土田が切れた。
 そう思ったが、憲実への想いに気付くまで好敵手と目の敵にしていた頃の血が沸いた。今でも、どんなに愛おしくても憲実には負けたくないと実は全くライバル心は消えてはいないのだ。
「貴様、トラウマを持ち出して卑怯だぞ!!」
「卑怯はそちらだ!! 人のいい所を利用しおって!!」
「自分で言うことか!!」
「人を進んで生け贄に出すよりよっぽどマシだ!!」
「何だと!!」
「やるか!!」
「ああ、頭脳と色事なら負けない!!」
 一触即発。
 学園で最も有名な熱々リーベの二人の離別の危機!!
 そんな二人に救いの神が降りる。
 だが、同時に地獄への使者でもあった。その声は二人に冷水をかけ同時に凍らせた。

「ほおう。犠牲に生け贄ねえ。僕のこと何だと思ってるわけ?」

「え……」
 二人は一斉に声の方……倉庫の入口を見る。
 いつの間に空いたのか入口にもたれかかって二人を呆れた視線を向ける人物は最も今二人が会いたくないその人だった。
「し、繁!!」
「水川……先生……」
 はーい、とにこやかに片手を挙げる。顔は全く笑っていない。


「君たちの言い分はよーくわかったよ」
 二人が逃げぬよう、入口に胡座をかいて、二人を交互に見る。
 憲実なら胡座をかく抱月を飛び越えることが出来るだろうが、運動不足気味の光伸には少し荷が重い。それに、気持ちが二人は負けていた。既に彼がここに現れた段階で敗北を認めてしまっていた。
「でも、いきなり人の好意に対して露骨に嫌な顔したりすれば僕だって意地にはならなかったよ」
 いや……それは絶対ないだろ。
 と、二人は一緒に思ったが口には出来ない。
「それにしても土田君って本当に甘いのダメなんだねえ」
 ニヤリと笑って視線を移す。思わず腰が引ける憲実に光伸は可笑しそうに声を出して笑う。
「おやおや、金子くーん。そんな可愛くない態度取っていると砂糖が溶けきらないぐらい甘いチョコレエトあげるよ?」
「え?」
 と、光伸が固まる。
 そんなそれぞれの反応に抱月は肘をついて微笑みながら見る。
「まあ、流石にねえ僕だって嫌いなものをそれも僕にとっては大好物なものを無理矢理食べさせようとは思わないよ」
「え?」
 抱月は脇に置いていただいぶんふくらみが縮んだ袋に手を突っ込み中身を取り出した。
 二つの紙袋。
 ふくらみがあるから中身があってそれは間違いなくチョコレエト。
 それを抱月は二人の膝の前に置く。
「それはね。僕にとっては少し荷が重い物でね。かといって父上から頂いたもの。捨てるわけにもいかないし僕の知り合いって君ら以外は甘いモノが好きな子ばかりだからねえ」
「はあ?」
 いまいち意味が分からない二人に抱月は、一粒だけでいいから食べてみてという。
「大丈夫、悪いようにはしないから」
 含むモノなど一切ない笑みで言われ二人は恐る恐る中身の一つを手にする。
 やはりそれはチョコレエトで、二人同時でごくりと唾を飲む。
 二人して敵を見るような目でそれをしばらく見つめていたが、まず憲実が自分に納得させるように唸ってから手にしたチョコレエトを口に放り込んだ。
「土田……」
 呆気にとられていた光伸だったが、彼にだけは後れをとりたくないと目を瞑ってそれを思いっきり口の中に放り込んだ。

「これは……」
「これって」

 ニッコリ二人の『勇姿』に微笑み、
「そういうことなんだよね。
 いろんなセットのものを買ってきたらしくてね。どうしてもそういうのを除けてもらう事って出来なかったようなんだよねえ」
「ウィスキイボンボン……」
 ぺろりと指に溶けてついたチョコレエトを舐め取る光伸。
「甘くないチョコレエト」
 茫然と憲実は自分の膝の前にある袋を見つめる。
「僕は下戸だし、チョコレエトは好きだけど砂糖の入っていないブラックチョコレエトっていうのはダメでねえ。
 二人は甘いモノがダメで酒豪だろ。まあ、ブラックチョコレエトなら大丈夫だとか、ウィスキイボンボン程度のお酒で喜ぶとか思ってはいなかったんだけどねえ。それでも両方とも全くダメな僕にはこれを任せられる人材が君らぐらいしか思いつかなかったんだよ」
 小さくわらって、
「それにこういうのって『大人の味』だしねえ」
「繁……おまえ……」
「まあ、そういうことだから」
 どういうことだ、と思いつつ立ち上がった抱月を見上げる。
「まあ、色々腹も立ったけど一日楽しかったよ」
 笑って手を振り立ち去る抱月に茜色の日差しが当たっていた。
 それを茫然と二人は見つめるだけだった。

「いったい……何だったんだろうな」
「ああ」
 抱月の前では正座してしまっていた二人は足を崩して並んで壁に凭れてぼんやり夕日が入り込む窓を見つめる。
 どちらが悪かったのかその境界は非道く曖昧で結局自分たちは一日抱月に振り回されたことだけ悟った。どっと押し寄せてきた疲労に身を任せ何をする出もなく時が流れるままにしていた。
 気怠い感がする腕を動かして光伸は抱月からもらった袋からチョコレエトを一つ取り出し、口に放り込む。
「繁の父上が折角海を越えて送ってきてくれたものだからな」
 眉間にしわを寄せながら一つを食べきる。
「甘みは控えてあるが上手いと手放しで言えるものでもない。酒が何とか食べれるモノにしていると言ったところか」
 そういって、その手を今度は憲実の方の袋に突っ込む。
「こっちはブラックチョコレエトだな。去り際に言っていたバラバラにいれていたのを分け直したって言うのは本当らしい。こちらも苦いだけのもいれてくれれば良かったものを」
「……なんなら、こちらもやろうか?」
「その手にはのらんぞ。おまえの分をちゃんと俺の分から移しておいてやるからな」
「……」
 やめてくれ、とは思ったが不公平だなと思うと何も言えない。
「まあ、甘いけど……おまえでもこれなら大丈夫じゃないかな?」
 そういってウィスキイボンボンを口に含む。
 そして、床に手をついて憲実に接近して、
「っ!!」
 一瞬で顔を捉えられそのまま口を塞がれた。
「かねっ!!」
 抗議はそのまま光伸の舌が遮る。
 光伸が運んできたウィスキイボンボンが侵入してきてそれを溶かすように光伸の舌が憲実の口の中をかき混ぜる。時に憲実の感じるところをついて……。

「……!! 金子おまえ!!」

 解放された途端数尺光伸から離れる。
「不味くはなかっただろ?」
「まあ……って、そういう問題じゃ!!」
「ついでいに、その様子じゃこの程度なら大丈夫そうだ。……そうだ、今日はここで酒盛りしよう」
「だから!!」
「俺のとっておきのワインとシャンパンを提供するぞ。肴はちと変わり種で少し肴としては違和感あるがまあ、土田と一緒の酒盛りなら気にもならん」
「……いや、そういう問題じゃあ」
 嬉々と倉庫の奥の本が最も密集している所を掘りはじめた光伸に手をつきだして声をかけるがもう聞こえていないし、聞こえていても相手にする気も自儘の光伸にはないだろう。
 憲実はこっそり溜息を吐く。
 やれやれと肩を揉む。こきこきと音が鳴った。
 本当に今日は疲れた。
「じゃあ、はじめるぞ!!」
「ああ」
 この自己中心的な男と一晩酒を飲み明かすことで少しでも疲れはとれるだろうか。そう思うと憲実の顔に自然と笑みが浮かんだ。


                        ――――了 



キレるのりー!いいな〜新鮮で!!
抱月先生の様子に、何故か「好々爺」という言葉が浮かびました(笑)
ありがとうございましたv