月祈日記帳

2012年1月2日(月) 22:53

9周年記念創作「甘酒」

「甘酒」(銀の盃)

第3小隊の憲兵内に「甘酒」が振舞われている。新年を祝ってのことだ。
「甘酒、という、外国の飲料だそうだ。
酒と名は付いているが、アルコール度数はきわめて低く、未成年者が飲んでも良いものだ。」
と、隊長のシルバーは最初に説明した。だから、勤務中の彼らが飲んでも問題ない、というわけだ。

その説明を聞いたあとであるが、下戸である副隊長のリッテルは、
「では、私は遠慮しておきます・・・。」
と、他の者から、甘酒をすすめられる前に、断った。

「ええ〜!せっかくお祝いのお酒なんですから、飲みましょうよ〜!」
とエドワルド大佐が、子供っぽく抗議した。
その彼に、手のひらを差し出すようにして、リッテルは答える。
「だから、お酒だから、祝いの場だと分かっているのに、断っているのだ。
私が、アルコールが駄目なのは、知っているだろう?」

”でも、子供でも飲んでいいものなんだよな、これ?”とウィルヘルムが、
横にいた同じ歳の友人、クリストファーに向かって、呟いた。
内心、「そんな弱いものなのだから、副隊長も飲めばいいのに。」と言っているわけだ。
クリストファーは、冷静かつ論理的に、
「過去、ブランデー入りの菓子で気持ち悪くなった経験がある、と聞いている。
そんな人物に、一般的にいうこの”酒くささ”の残る甘酒が、飲めるとは思えない。
最初から飲まずにいる、副隊長は賢明だと思うが。」
と返した。

そうかぁ?とウィルヘルムは陽気に言い、もう1杯、甘酒の入ったカップを手にした。
彼らは、紙コップで甘酒を飲んでいる、情緒というか風情がないが、それは仕方が無い。


そんなやり取りを、シルバーは少し離れた場所から、眺めている。
窓枠に肘をかけて、もちろん手には、甘酒の入ったカップを持って。
無論、シルバーにとっては、この程度のものが「酒」に該当するとは思っておらず、
自身は、変わった乳飲料でも飲んでいるつもりでいた。

”甘酒は、酒か、酒ではないものか”
そんな、どうでもいい事を、黒髪の憲兵は考えた。
答えが欲しかったわけではない。
ただ、そんな、”どうでもいい事”を考えられる、時間があることが、嬉しかった。
新しい年が明けると、そのお祭り気分のテンションのせいか、アルコールが原因か、
又はその両方に起因するのか、くだらないケンカ等の、事件が増える。
だから彼ら第3小隊は、今日、全員出勤してきているのだ。
しかし、そのかい無く・・・無いほうがありがたい事ではあるが・・・
静かに詰所内の控え室で、甘酒をすすりながら、待機している。
待機といっても、先ほどからリッテルだけ既に、昨日終わらなかった書類の、続きを書く作業を始めていたが。


手元にあったカップを空にして、シルバーは心の中で、思った。
「肴(さかな)に、部下たちの明るい笑顔と、話し声か・・・。
肴があって、飲むものがより旨いと感じるということは、やはり甘酒は、酒なのだろうな。」

そして窓際から離れて歩いていき、中央の机に置いてある、新しい甘酒のカップを取りに向かった。

<了>

9周年ありがとうございます!去年あまり書けなかったので、今年は張り切って書こうと思います〜!
ちなみにこれは、今日1時間で、急いで書きました。(昨日まで用意してなかったので)

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