てるてるぼうず

***

「ずっと雨だなぁ。」と少年は不満げな声を漏らした。
つまらない。
随分前からずっと晴れてくれと願っているのに、対して空は、
いつも泣き模様だ。
あぁ、どうか晴れて。
アレス・リッテルは、心からそう思った。

”あした晴れたら、君と何処に行こうか。”


部屋の主は、シトシトと雨の降る静かな午後を、つまらなさそうに
本を読んで過ごしていた。
表情が険しいのは、自分のように雨がうざったく感じるわけではなく、
おそらく、見ている本がつまらないのだろう。
そんな本なら読むのを止めてしまえばいいのに、何故かノエルは、
そうやって、嫌々本を読み続ける癖があるから。
その様子にクスリと笑って、アレスはもう開けてしまったドアの内側を
トントンとノックしてから、告げた。

「ノエルー?今、忙しい?」
「・・・アレス。いや、別に。」

黒髪の幼年学校生は、顔を上げて、そう返事した。
藍色の瞳が、まっすぐこちらを見返してくる。
綺麗だなぁ、と少年は、改めて思った。
前方にある窓に目をやって、相変わらず降り続いている雨に向かって、
アレスは言った。
「どうして、やんでくれないんだろう。晴れたら、出かけたいのに。」
出かけるのか、とノエルが小さくつぶやいたので、少年は慌てて付け加えた。

「出かけるのか、って・・・。君も一緒に、出かけるんだよ?」
「一緒に?・・・何処へ?」
「いや、場所は何処でもいいけどさ。もしかして君、忘れてる?
試験で勝ったら、僕とデートするって約束。」

しばらく黙ってから、ノエルは答えた。
「・・・そうだったな。」
忘れていたわけではないのだ。試験を終えてから、卒業までの春休み期間
(本来は不要なのだが、ノエルのように「学校に住んでいるもの」は、
寮を追い出されたら行く場所がないから、3月31日ぎりぎりまで居て
いいことになっている)、毎日誘いに来ているのに、憎き雨がそれを邪魔していて。
日が随分経ってしまっていたから、もう計画が流れたのかと思っていたのだ。
自分はこんなにも、デートを心待ちにしていたのに、ノエルがそっけない返事を
したから、アレスは不満そうに頬をふくらませた。

ぷ。
あはは、とノエルは、声を立てて笑う。
アレスのその顔が、何だかおかしかったのだ。そう、丸っこくなった顔がまるで、
晴天を祈願して軒先につるす、あの白い人形のようで、”可愛らしく”。
ノエルは相手がそんな顔をした理由が、自分の回答によるものだと分かっていた
から、ひとしきり笑ってから、彼に告げた。
「すまないアレス、悪かったよ。明日こそ晴れたら、出かけような。
・・・私は、デートというのは何処にいくものか、知らないけれど。」

・・・

その日を境に、いつだって雨が降れば、お前を思い出す。
降る日の多い人生を歩む私の中で、お前は、例えるなら”太陽”のような存在だった。
あぁアレス。今でもお前が、私の傍で笑ってくれないのが、残念でならないよ。

<了>

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