ショルダーバッグ

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ある日、何とは無しに談笑していたら、「給料を何に使っているか」という話題になった。
クリストファーはもちろん、その大半が書籍購入であり、
ウィルヘルムは今、財政は配偶者に任せているそうで。
エドワルドは29歳になるが、年老いた両親と暮らしているから、給料を全部渡して、
そのうち5万TG(テルミネゴールド)だけを、小遣いとして貰っているという。
では、独身でひとり暮らしで、それほど私生活が派手ではないように思える
リッテルは、与えられた給料を、一体何に使っているのだろうか?
・・・という疑問が、部下たちの間で、わいた。
やっぱり貯金ですかとウィルヘルムが尋ねたら、当の本人はこう答えた。

「もちろん、貯めてはいるけれどね。私は、アンティークのレコードを集める
のが好きなんだ。音の記憶媒体としたら、もっと良い物がたくさん有るが、
レコードで聴く音楽は、何というか、味わい深くてね。」

リッテルは普段、隊長に付いているから敬語ばかり話しているが、こうやって
部下と話す時に使う言葉も、優しくてあたたかい印象を受ける。
エドワルドがそんなことを考えていると、シルバーが現れた。
彼はさっそく、今の質問を隊長にも聞いてみる。

「給料の使いみち?そうだな・・・・ほとんどが酒代だが、あとは、
服と鞄を買っている。」

それを聞いて、男性4人は驚いた。
服と鞄。
まるで、年頃の女性フラウが言いそうな使い道だ。
いや、シルバーとて戸籍登録上は、それに間違いないのだが。
驚愕している部下達をよそに、シルバーは答えともいえる理由を述べた。

「私は背が178あるから、市販の服屋では、サイズが無い。
メンズを探せばもちろん着られるものも有るが、男物は股上が浅いんだ。
男のほうが、ウエストが下にあるからな。
たから馴染みの店で、自分に合ったサイズの服を、オーダーメイドしている。
もちろん毎月買っているわけではないが、オーダーメイドだから当然値は張る。
それの支払いに、給料をあてている。」

聞いてみれば、納得のいく話である。
だが、それでは鞄は?鞄はどうしてなのだろうと、皆が思った。
するとシルバーは、持っていた鞄・・・肩に提げるタイプのやや大きめのもの・・・
を持ち直して、続けた。

「靴もサイズが見つかりにくいから、同じところでオーダーしているのだがな。
鞄も、そこで作ってもらっている。贅沢だと思うか?
鞄まで、特注してもらうのはな・・・・これはな、
サイドポケットに、銃が入るんだ。」

言い終えてから、シルバーはくるりと向きを変えた。
そしてその、特注の鞄を持って、部屋を出て行く。
「服や靴はともかく、鞄くらいは既製品が持てるようになりたいものだ。」
と、自嘲めいた口調で、つぶやいた。

<了>

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