履歴書

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何もかも、数字で表そうとする、その愚かさに。

・・・

隊長は、隊員全員分の、カルテのようなものを持っている。
身長体重、血液型や出身地、髪の色や瞳の色が記されている、書類。
嫌な例えだが、万が一の際に身元を確認する為、より多くの情報を
記載しておく必要性があるのだ。
だから体格に関しては、毎年更新。常に新しく、正確な情報。
身体検査は、半年に1度行われる。

「隊長は、何キロでしたか?」
リッテルは、上司にそう尋ねた。
何キロか、と聞いていることから分かると思うが、先ほどの
身体検査での、体重を尋ねているのだ。
無粋なことを、と、フェミニストの男性から見れば思われる行動かも
しれないが、聞かれたほうは気にしない性質だったので、素直に答えが
返ってくる。

「私か?私はいつも、軍服を含めて72キロだ。
それより上にも、下にもならないようにしている。
これでも、健康管理はきちんとしているのだぞ、リッテル?」
シルバーは、薄く笑う。普段彼が、お酒ばかり飲んで、食事は採ってますかと
口うるさく言うからだろう。
答えを聞いて、満足したようにリッテルも小さく笑ってから、隊長が手に持つ
書類の1枚に、違和感を感じ、止まった。

「・・・・・これは・・・・?」
リッテルがおかしいと感じたのは、生年月日の表記だった。

**月**日

何故、アスタリスク(星)なのだろう、と彼は思った。
疑問はすぐに解ける。横のシルバーが、答えを与えたから。
「これか、リッテル。
これは、生年月日が不明という印だ。
・・・・私のカルテだからな。」

ちなみに、不明だと便宜上5月1日生まれとして、歳はカウントされるのだぞ。
知っていたか?と、隊長は続ける。
リッテルは、黙ってしまった。
ここテルミネで、生年月日が不明というのは、それは戸籍を申告する上で 問題が生じたということ。
そしてそれは、不幸な境遇に生まれたと言う意味と、イコールだ。

「そんな顔をするな。私は別に、自分の生い立ちを隠してはいないのだから。」
そう、普段通りの口調で話すシルバーは、本当にそのことを気にしていないという 印象を受ける。
それでもリッテルは、星印で消されたカルテの生年月日の部分を見て、思ったのだ。

例え隊長が何月生まれであっても、隊長は隊長で。
反対に、生年月日が記入されていないことなどに疑問を持った、己の頭の堅さを呪った。

いくらカルテ上の数値を眺めていても、実際に会わなければ、患者の具合の悪さに
気づけないこともある。
己は何だ。人を救う医師であり、人を救う憲兵ではないか。

何もかも、数字で表そうとする、その愚かさに。
リッテルは気づき、そしてひとつ大きくなった。

<了>

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