必ず戻る

***

そんな不確かな言葉など、要らない。

・・・

単独行動は危険だから、決してするなというのが、あの人の持論だ。
しかし隊長は、矛盾したように、独りで出かけていくことがある。
大抵それは、平穏無事な結末を生まない。
「今」だって、傷つき倒れている隊長を見て、息が止まるかと思ったほど、 驚いた。

この人は、何と闘っているのだろう。

いつも思う。
黙って、私たちに気づかれないように接触して、逮捕なり何なりをしようとしている
相手は、誰なのかと。
何故、部下に支援を乞うことをしないのかと。
手柄を独り占めしようと考える人ではないから、それは多分私怨なのだろうと思われるけど。

憲兵隊の無線機は、居場所を示す発信器のような機能を兼ね備えている。
だから私は、隊長の姿が見えなくなれば、”自分の判断”でそれを探しに行く。
杞憂であれば、単に自分が隊長に注意されるだけだ。
大抵その勘は、外れることはなかったが。

廃ビルに炎があがり、そこを消防隊員に紛れて踏み込めば、
片足から血を流して倒れている、黒い髪のあの人が。
何があったと状況を尋ねている場合ではない。とにかく、ここから救い出さなくては。
その身にまだ、あたたかな体温があったことだけが、私の精神を保たせた。

怪我人を寝かせる、満足なベッドも無い。
結局、燃えていた階層の下部の、無事だった一室に、私と隊長は避難することになって。
気づいてしばらくしてから、足下の手当のことを指してか隊長は、
「お前の処置は、いつだって的確だな。」
と言って、薄く笑う。
ここに来た理由も、会っていた人物のことも教えてはくれないだろうから、
私は、こうとだけ告げた。
「あまり、無茶をしないで下さい。」
「・・・出来るだけ、努力する。」
そんな言葉が、返ってきた。

そんな不確かな言葉など、要らない。

与えられた命は1つしか無いのだと、十分すぎるほど、知っているだろうに。
傷つき倒れ、そのたびに私達がどれほどショックを受けているか、貴方は知らない。
もはや貴方は、貴方独りの身ではないのだ。
何処へ出ようと、構わない。振り切ったつもりでも、いくらでも追いかけよう。

だから、約束して下さい。
何処へ行っても最後に戻ってくるのは、私達の居る場所であると。

<了>

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