同罪

***

「なぁ、リッテル。」
休憩時間に、いやに深刻な面持ちで、隊長がそう声をかけてきたので、
リッテルは思わず背筋を正す。
「はい、何でしょうか。」
青年は、素直に返事をした。

「もし、私が死んだら・・・・・。」

「そのような不吉な例えはしないことだ、と、
以前おっしゃっておいででは、なかったですか?」
そうつぶやいて、リッテルは軽く首を振った。
彼の上司は、こう返す。
「あれは、他の者についてだ。私が死んだ場合の対処については、
考えておく必要性が有るだろうが。」

言霊(ことだま)という考え方がある。
悪い意味の言葉を使っていては、その通りの不幸が訪れると。
だからリッテルは、この人が命を落とした時の話など、聞きたくは
なかったのだ。特に、信心深い性格でなくとも。
だがリッテルは副隊長であり、副隊長は、隊長が”不在”になった際に、
隊の皆をまとめ、指揮を代行しなくてはならない。そういったポストだ。
シルバーは、持っていた書類を挟んだバインダーで、トントンと
手のひらでリズムを取りながら、彼に向かって告げた。

「私がもし倒れた時には・・・
その直後は、お前が隊長を代行するので良い。
だが、それ以後・・・第3小隊の編制を迫られた際には、
リッテル。すまないがお前は、エドワルド、奴に付いて、
奴を補佐してやってくれないか。」

現在、リッテルは少将で、もちろん、エドワルド・ストーンズ大佐よりは
階級が上である。
それを承知で、もしも自分がいなくなった際にはエドワルドを筆頭にあげ、
彼の補佐を頼むと。そう、シルバーは言っている。
もっともな判断である。エドワルドは憲兵学校を卒業し、実力でここまで
上がってきた生粋の憲兵であるし、実際、今でもシルバーが実務を全面的に
任せている部下は、彼だ。
だから次期隊長が必要となれば、彼がそれになるのは、当然といえよう。
そこは、リッテルも不満はない。
元より、階級自体は上から2番目の位置に準ずるとはいえ、己が隊長付きの
副官などでいいものかと、疑問に思うこともあるくらいだから。
だがリッテルは、不思議に思うことがあったのだ。
隊長が、エドワルドに付けといった理由。

尋ねると、黒髪の憲兵はフと笑って、答えた。
「エドワルドは、捜査における機動力などは問題がないが、
血気盛んで、たまに暴走することがある。
ウィルヘルムも同じようなタイプだが、奴には、冷静なクリストファーが
いるからな。自動的にストッパーになってくれよう。
・・・お前のような年長の、落ち着いた者の意見が必要なのだ。分かってくれ。」

ペコとシルバーは頭を下げる。突然そんな態度を取られて、リッテルは慌てた。
顔を上げて下さいっ!と青年が叫ぶので、シルバーは頭を元に戻す。
リッテルは、ふぅとひとつ息をつく。
「分かりました。もしもそんな事態に直面しましたら・・・
私は出来る限り、彼、エドワルドに尽力いたしますから。
だから、ご安心下さい・・・倒れてもよい、という意味では無いですよ。」
自分の言葉を誤解して、早くにその生涯を閉じてしまわぬように、
リッテルはそう言った。

貴方が死んだら、私は正気でいられるかどうか。
だから誓いはしましたが、嘘をつくことになるかもしれませんね。

聞きたくなかった問いを、貴方は私にしたから。
だから私も、それに対して”適当”に答えました。
逃れられない、離れたくない。
・・・貴方は、罪な人だ。

<了>

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