正直なヤツ

***

「隊長は、仕事の無い時には、何をされているんですか?」
聞かれて、彼らの隊長は、答えた。
「休みの日の過ごし方か?
資料の整理をしたり、人員の配置を考えたり、過去の記録を
読んだりしている。」

「それって、仕事って言わないかなぁ。」
そういう、至極まっとうな声。

・・・

第三小隊は、その名の通り小隊であるが、隊員全部を合わせると、
100人を超す。
つまり中には、隊員であっても、あまり「隊長」と接したことのない
者がいるというわけだ。
直接話したことはなくとも、自分達の指揮官がどんな人物か、噂によって
知っている者は多かったが。

その日は、穏やかな陽気だった。
大した事件もなく時間はゆるやかに進み、調べものを終え、資料室から
帰ってきたシルバーは、広間で「自分達の隊員」を見つけた。
統率者たるもの、部下の顔と名前は覚えておかなくてはならない、といった
決まりはない。決まりは無かったが、シルバーは全員の顔を見知っていた。
だから、軽く声をかけた。

そうしたら、何故か質問大会が始まってしまった。

1つだけ用意された椅子に腰掛けて、彼らの聞きたがることに答えるのは、
悪い気はしない、とシルバーは思った。
仲間内で交流を深めるのは、良いことだ。
ただシルバー自体は、あまり社交的とは言い難い性格だったので、今まで
自らそうしようと行動したことは、無かったけれど。

隊員たちは、いろいろなことを聞きたがった。
休みの日の過ごし方から、好きな食べ物、どこに住んでいるのかという
プライベートな話にまで、たどり着く。
別にやましい気があって、聞いたわけでは無かったのだろう、
尋ねたのは、妻も子もある中年の男性であったし。

そのうちエドワルドがやってきて、自分の敬愛する上司と、エドワルドに
とっては顔なじみも多い、ヒラの隊員たちが話し込んでいるから、
何事かと思い、首をつっこむ。
「隊長。何をしておいでですか?」
「見て分からないか?会話によって、交流を深めているのだ。」
シルバーはそう答えた。それから、続ける。

「今な、私に聞きたいことがあったら聞けと、皆に言ったのだ。
エドワルド、お前も何か聞きたいことがあったら、言ってみろ。」
その言葉を聞いて、赤黒い髪の大佐は、間髪入れずに尋ねるのだ。

「隊長に、恋人はいらっしゃるので?」

そこに、いつものメンバーが居れば、深くうなずいて思っただろう。
エドワルド大佐は、なんと自分に正直な男かと。

<了>

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