2月14日は、バレンタインデー
好きなひとに、贈り物をする日です。

とびっきりおいしいお菓子を、想い人にあげて、
食べたひとが「おいしい」と言った分だけ、
作ったひとを好きになる、という伝説が、その地域には有りました。

恋の言霊〜こいの ことだま〜

ひとりの青年がいました。
彼は、恋をしていました。

恋:コイ 異性に強く惹かれ、会いたい、ひとりじめにしたい、一緒になりたいと思う気持ち

辞書をひくと、恋の欄にはそう記されています。
青年はまさしく、恋をしていました。
ただ他とちょっと違うのは、恋の相手は異性ではなく、
彼と同じ男=同性=である、という点ですが。
ともかく、彼は恋をしていました。

バレンタインデー。
彼の住む地域の伝説によれば、
菓子を贈って、それを食べた相手が、おいしいと言った分だけ、
想いが通ずるのだそうです。
彼は想い人に、美味しいお菓子をあげたいと思いました。
とても、あげたかったのです。
しかし彼は料理が出来なかったので、困りました。
非常に困りました。
誰か、手作りお菓子の作り方を教えてくれる人がいればなぁ、と彼は思いました。

それに最適な相手が、彼の周りにはいたのです。
それは、幸運なことでした。
食べることが大好きで、料理が得意、菓子も作る「友だち」が、
恋する青年には、いたのです。

しかし、その「友だち」は、彼の想い人と同一人物だったので、
青年は悩んで頭を掻くのでした。

***

青年が友の部屋へ行ってみると、そこはプレゼントの山でした。
「・・・・すごいね。これ、全部貰ったの?」
何気なく、青年はそう聞いてみました。
すると、たくさんのプレゼントを贈られた部屋の主は、答えました。

「あぁ。バレンタインデーだからと、女性たちがくれたんだ。
私は恋人を作る気はない、と言っているのにくれるなんて、
半ば挨拶めいたもの、なのだろうか?」
そう、”人気者”の彼は言いました。

彼は眉目秀麗で頭も良く、その上優しいので男女問わず人気がありましたが、恋愛に対して何とも無関心で、ずっと恋人がいませんでした。
しかも、これからもそういった対象を作る気は無いと言っていたので、
彼の周りの女性たちは、何とか彼を変えようと、やっきになっていました。
彼は義理なのかなと思っている、そのプレゼントの山だって、大体が本命なのです。
彼に美味しいといってほしくて、作られたものたちなのです。

青年はそのことに気づきましたが、あえて言わずに、 ハハと軽く笑ってから、相手に尋ねました。
「で、君自身は今何やってるの?・・・パフェ?」
パフェかと聞くと、そうだパフェだという答え。

食べることが大好きで、料理もする青年は、パフェを作っているところでした。
バナナに、チョコレートと生クリームとカラースプレーがかかっています。フルーツパフェとチョコレートパフェの、あいのこみたいなものでした。
時期的に、お菓子作りが流行っているので、彼も「やってみた」ようです。
誰かにあげようというのではなくて。
前にも述べたように、彼は恋愛に興味がなかったので。
作るのが楽しいので、やっているのでしょう。

僕にくれたら、おいしいと何度でも言いながら食べるのに、
と恋する青年は思っていました。

お菓子の作り方を教えてもらいにやってきたのですが、
彼は忙しそうだったので、青年は帰ることにしました。
挨拶だけをして、その部屋を出ました。
自分ひとりでは、彼を満足させるようなスウィーツなんて作れるはずがないと思い、ため息が出ました。

***

夕方まで、青年は何とかならないものかと、自分で店を回ったりして考えていたのですが、自分には手作りは無理だと気づきます。
そして、中途半端なものを贈っては衛生的にも良くないし、彼のためにならないと思ったので、普通のチョコレートを買いました。

一般的な板チョコでした。面白みは無いですが、おなかを壊すこともないだろうし、と青年は思ったのです。

青年はそれを、想い人にあげにいきましたが、部屋に彼はいませんでした。しょうがないので彼は、板チョコをプレゼントの山の一角に置いておきました。
名前の分かるカードなどは、いっさい付けずに。

直接会えば「バレンタインデーだからさ〜」と、冗談めかして 渡すつもりだったのです。
彼らは、友だちだったので。
ですが相手はいなかったので、青年は無言で部屋を出ました。


さて、数分経って部屋の主は戻ってきました。
彼は昼間と同じく、お菓子作りに夢中でした。
さっきまでケーキを焼いていたのですが、今度はまたパフェに戻っています。
ただひとつ、困った問題が発生していました。
デコレーション用のチョコレートが切れてしまったのです。
辺りを見渡すと、おそらく中にはチョコレート菓子が入っていそうな箱の山がありましたが、それを使ってしまうのは、あまりにも失礼だと思います。
なのでどうするかなと悩んでいると、ある箱の上に、ごく普通の板チョコが。彼はさっそくそれを砕いて湯せんにして溶かし、デコレーションに使ってしまいました。
自分が置き忘れたものかと思っていたのです。
だって、手作り品が一般的なバレンタインのプレゼントに、板チョコをくれる者がいるとは思っていなかったので。名前も何も無かったし。

ともかく無事パフェを作り終えた青年は、
当然それを誰かに贈ることなく、自分で食べました。
「うまいな」と彼はつぶやきました。
「うん、うまいうまい。」

***END***

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