おかゆ戦隊 6

(注:最終回ですので、1回目と同じ歌を歌ってください)

♪ちゃんちゃん ちゃちゃちゃ ちゃかちゃんちゃんちゃーん

どこまでも続く 長引く不況
リストラ ボーナスカット デフレスパイラル
暗黒時代を切り裂く 光となるのは誰だ

君だ! (俺かよ?)
君だよ!(やらねえぞ!)

君は 国民年金を納めたか

   セリフ:「サラリーマンは第2号被保険者だから、保険料は企業と個人が折半(せっぱん)だ!」

           「おかゆ戦隊のテーマ」


***

駅の近くの、系列会社のビルの屋上に、ヘリをとめる。
突然、グループの社長が訪ねてきたりしたら、その会社は大騒動だ。
しかし、そんな混乱に巻き込まれているヒマはないので、
「こっちが、前の社長。俺より、この人の方がエライから。」
と、送ってくれた父親を押し付け、人の合間をぬって、どうにかビルから抜け出した。
そして駅まで歩いていって、予定通り新幹線で、大阪に向かう。

急いで会うことに、本当は意味はない。
何故なら、別に魔人が攻め込んできているわけでも、何でもないから。

秘書の体を通じて、言いたいことを言うだけ言って、去っていった「天の声」に 再会してから、まだ半日しか経っていない。
何かするにしても、「その日のうちに行動に移す」ような、優等生でなくても良いのだ。
だが恭四郎が、今、大阪に向かっているのは、
名目的には「”おかゆブルー”を、仲間に加えるため」で、
実質的には、恋人に会うため で。

(畜生、何でテメーは芸能人なんだよ!!
会いにくくて、しょうがねぇだろうが!!)

自分も大会社の社長のくせに棚に上げて、恭四郎は心の中で叫んでいた。

***

芹沢ハルカは学生時代、剣道で全国一になったことのある女性だ。
それで、地方のローカル番組等にたまに出たりしていて、
成人して、そのままずるずる、テレビ業界の人間になっている。
本人もあまり、業界人としての向上心はない。だからB級芸能人なのである。
しかしB級といえど、芸能人には違いはないので、旅番組のレポーターとして、大阪に来ているのに、 急に東京に戻ってこいと言われても、戻れない。
そんな子供でも分かる道理が、何故彼には分からないのか?
天才と馬鹿は紙一重って、よく言うわねぇと、ハルカは思っていた。

電話を切ってから、驚くほど早くに、恭四郎は来た。
早いといっても、3時間は経っているのだが。
恭四郎は毎日、50階まで階段を登って出勤しているので、無駄に脚力がある。
大阪の駅からテレビ局まで、走ってきたそうだ。
この局だってよく分かったわね、と疑問に思い、問うと、
そんなもん、地元の人間に聞けば分かる、と言って、電話を指す。
どうやら、全国を網羅するグループの長であることを利用して、情報を集めたらしい。
私物化もいいところである。

「帰るぞ。」と恭四郎は、ひとこと言った。
「アンタね、こっちにも予定ってものが・・・」とハルカはつぶやいたが、
社長は止まらない。
「そんなもん、キャンセルしちまえ。」と彼が言ったので、彼女はキレた。

「そんな勝手なこと、出来るわけないでしょ!
これから私に、仕事が来なくなったら、どうするのよ!」
「テメーひとりくらい、俺が一生面倒みてやるわ!」
「そういう、金にモノ言わせた台詞って、大ッ嫌いよ!!」


どちらか1人でも、その言葉の意味に、気付けばいいものを。
結局、ひとの良いマネージャーが間に入ってくれるまで、2人は テレビ局のロビーで口論していた。

***

次の日。

「おかゆって、流行っていますか?」

電話越しに、そう聞いた。通話相手の主婦は、うーんと少し迷ってから、答えた。
「別に、流行ってはないと思うけど?
まぁ、ずっと前から健康ブームだから、美味しくて健康的なの出せば、 売れるかもしれないけどね。
何、社長さんは市場(しじょう)リサーチでもしているの?」

そう言ってから、鏑木恵子はケラケラ笑った。

恭四郎は、昨日訪ねてきた兄妹の、両親に電話をかけた。
両親といっても父親(静一)の方は、会社に行っているので不在だが。
恵子は結婚して専業主婦になったらしく、家に居て、恭四郎からの電話を受けた。
まずは、貰った漬物のお礼を言い、それから主婦の、貴重な意見を聞く。
何と言っても、経済の要(かなめ)は、「お母さん」達である。
主婦が買い物をするから、経済が発展するのだ。
「社長」である恭四郎は、それはもちろん分かっているつもりだった。

そうですか、と恭四郎は言って、挨拶もほどほどに、電話を切った。
恭四郎はさほど、おかゆに詳しくは無い。
当たり前だ、別に好んでおかゆレッドになったわけではないのである。
おかゆと雑炊の違いが分からないほど、素人だ。
ちなみに、そうめんと冷麦の違いは知っている。

「どうでしたか?」
と、電話を終えてから、恭四郎の秘書の箱部は、聞いた。
彼は昨日、アレが出たとき、当たり前だが意識がなかったので、
恭四郎が、おかゆにこだわっている理由を知らない。
恭四郎は、それを一から説明するのが面倒くさかったので、

「箱部さん、ボクは今から一つ、大プロジェクトを決行しようと思っているんですよ!
成功すれば、大きな収益が見込めること、間違いなしです。
そのプロジェクトメンバーに、貴方も入ってもらいます。
貴方のコードネームは、おかゆブラウンです。ボクはレッド。」

と、告げたのだ。それを聞いた箱部は、にこにこ笑って、
「さようですか。レッドということは、坊ちゃまがリーダーなのですね?」
と答えた。良く出来た人物だ。

恵子から、一般的な市場の状況も、聞き出した。
恭四郎はバンと机をひとつ叩いてから立ち上がり、部屋のすみに置いてあるホワイトボードを 取り出してきて、まずは「仲間」のブラウンに、計画を説明した。

・・・・・・・・・

箱部は、ぱちぱちと拍手をしながら、恭四郎に向かって、言った。
「お見事でございます、坊ちゃま。
大成功間違いなしです。今後ますます、五京グループが発展することでしょう。」

箱部はその計画に、何の文句もないようだったが、1つ不明な点があったので、尋ねた。
「ところで、そのプロジェクトに必要な”タレント”は、
誰を起用されるので?」
「芹沢ハルカ を使います。」と恭四郎が即答したので、箱部は聞いた。
「何故、彼女を?」
失礼ながら、ものすごく有名というワケでもない、いわばB級芸能人だ。
大掛かりなプロジェクトの、成功か不成功かを分ける大切な役割を持つ「広告の顔」を、 そんな女性にするなんて。
理由があるのだろうと、疑問に思い箱部は聞いた。それに対し恭四郎は、また即答するのだ。

「好きだからですよ、箱部さん。好きだからです。」

***

♪ちゃんちゃん ちゃちゃちゃ ちゃかちゃんちゃんちゃーん

新発売!五穀粥(ごこくがゆ)
美味しくてヘルシー しかも、作り方は簡単!

女性の声:「レトルトだからね」

おかゆを食べて綺麗になろう
          ゴギョウフーズカンパニー


♪ちゃんちゃん ちゃちゃちゃ ちゃかちゃんちゃんちゃーん

子供(女児)の声:「わたしは、あまいものがだいすきです」

みんな、おいしいもの・甘いものが大好きだよね!
でも、歯医者さんは苦手かな?

子供(女児)の声:「うん」

食べたら、歯を磨こうね!
             五京製薬株式会社


♪ちゃんちゃん ちゃちゃちゃ ちゃかちゃんちゃんちゃーん

現代人は、アゴが弱くなっているという
原因は、食事の際に、よく噛まないからだ

どんぐり。

貴方は、どんぐりを食べたことがあるか?
私はない。
新製品、どんぐり型ガム。

味は不明だ!!

           (株)五京製菓


「・・・・まさか、どんぐり型ガムまで流行るとは思ってなかった。」
と、恭四郎はつぶやいた。

若き社長は、いつも通り自分の椅子に腰掛けている。
そして、新聞を読んでいる。
自社製品が、売れに売れているといった記事を読むのは、嬉しいものだ。

おかゆ戦隊の使命は、おかゆ魔人を倒すことだが、
そもそもおかゆ魔人なんてものは居ないので、それすらも「作らなくては」いけないのだ。
だから恭四郎は、まずおかゆを流行らせた。
元々、どこが大手といったことのない、ジャンルの商品である。
大きく宣伝し、安くて美味しくて手間のかからないものを出せば、ヒットすると思った。
普通のおかゆを作ってもしょうがないので、健康面を重視して、栄養素の高い穀物を混ぜる。
おかゆは、お腹に優しい食品だ。レトルトで常備しておけば、食欲のない朝にでも、 ちょっと食べたいと思うのが、人の心情で。

次に、歯みがき業界に舞台を移す。
普通に、歯を磨くこと、歯ブラシの宣伝をする。
ここは特に収益を期待してはいなかった。限界があるジャンルだと、分かっていたので。
CMの声はコスト削減のために、奈須菜嬢に頼んだ。

そのまた次に、製菓業界だ。
ガムを発売する。どんぐり型ガムという、発想が奇抜なのはいいが意味があるのか、と いう、ツッコミどころ満載なガムだ。
CMで言っているように、味は不明なのである。しいていえば、どんぐり味か。
これも別に、収益は期待していなかった。イロモノで終わっても良かった。
出すことに意義があったのだ。
ちなみにCMで、どんぐり。とつぶやいているのは、恭四郎だ。

3つの商品は、出所が五京グループである以外は、他に関連性はないのに、
何故かCMが、同じイントロ音で始まる。
これが謎を呼ぶ。
「いったいあれは何なのか」と、問い合わせ電話やメールが殺到した。
テレビでも話題になる。大きな宣伝効果だ。
実際に、商品を買う人も増えよう。
恭四郎は、他の会社の役員などに、あれが何かと聞かれたら、
「おかゆ魔人・・・」とつぶやいて、謎を深めることにしていた。

かくして五京グループは、魔人の計画通り(?)大きな収益を上げることに成功した。
おかゆのCMに出てる女優、と、芹沢ハルカは有名になった。
それに対して恭四郎は、嬉しかったり嬉しくなかったり。
せっかく大きな成功を収めたので、これを良い教訓として、恭四郎は1つ、自社に 新しい決まりを設けた。

成績が振るわず困っているところがあれば、社長宛てのメールの件名に、
「おかゆ戦隊」
と入れて、メールを送れば、
きちんとした身なりの30代の青年が、どんな高層ビルでもエレベーターを使わず、 階段を上って、その場に、助けに来てくれる、と。


                         *おしまい*


「創  作」