ゆびきり
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ゆびきりげんまん うそついたらはりせんぼん のーます
ゆびきった!
・・・
この家の主は、伏せた本を顔の上に乗せ、自室のベッドの上で横になっている。
眠っているわけではないと、分かっている。
彼は眠るとき、あんな格好はしない。
あれは只休んでいる時か、考え事をしている時のポーズだ。
顔にかかってる本が、「型紙大全」であることからも、明らかだ。
ザギは、ソウマの近くに寄った。
「ソウマ、ちょっと良い?」
「・・・何だよ?」
少年が声をかけると、思った通り寝てはいなかったソウマは、顔から
「型紙大全」を外して、ザギの方を見上げた。
久しぶりに目があって、ザギはドキリとする。
この30歳後半の男の瞳は、黒というか茶色というか、ともかくとても
濃い色をしている。水晶玉みたいで、吸い込まれそうだと、いつも思う。
「えー、あー、あの、・・・いや、その・・・。」
そんなことを考えていたら、何を言うのだったか、すっかり忘れてしまった。
ザギがモゴモゴ言っていると、ソウマは言う。
「・・・?何だ、何か俺に、言うことがあったんだろ?」
そう言って、手を伸ばして、しゃがみこんでいたザギの、頭を触れた。
それからそこを、ぽんぽんと軽く叩く。
そんな彼の様子に、ザギは少し口をとがらせて、抗議した。
「子供扱い・・・するなよ。」
ひとりの男として、見てほしいのに。
そういった感情が込められた言葉だったのだが、反対にソウマは眉を寄せて、
「いいじゃねぇか、お前は俺の”子供”だろ?」
と答えた。何が悪い、といったような口ぶりだ。
ザギは小さく頭を振った。
違う、彼と問答をしに、ここに来たわけではない。
添えられた手を外させて、灰色の髪の少年は、つぶやいた。
「・・・ソウマ。ソウマは、ずっと俺のそばに居てくれる?」
「何だその質問は。」
「いいから、答えてよ。」
「・・・・・・。」
ソウマは、黙ってしまった。
彼は、考えていた。
ずっと、というのは、いつごろまでなのかということを。
それこそ、一緒の墓に入る勢いで、同じ時間を過ごすという意味なのだろうか。
伴侶のように。
何か違うよなぁ、と男は思う。
ぐしゃぐしゃと頭を掻いてから、上体を起こして、ソウマは告げた。
「居てやるよ。ずっとそばに居る。
・・・・・・これで、満足か?」
何故かむしょうに、不安になることがある。己にだって、覚えがある感情だ。
何がきっかけで、ザギがそんな事を言い出したのか分からないが、
それはソウマの、今の本心だったから。だからそう答えた。
小指を立ててゆびきりの形を取ると、竜の子供はそれが何を意味するか
分からなかったらしく、首を傾げた。ソウマは言った。
「人間はな、こうやって約束すんだよ。」
♪ゆび きった
遊戯を終えてから灰色の髪の少年は、目の前の男に向かって、言う。
「約束、破るなよ?
・・・破ったら、襲うからな?」
「どんな警告だよ、それは。」
ソウマは、呆れてつぶやいた。
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