P.S.

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ソウマ・エルイル・グレイの職業は服の仕立て屋である。
彼の父も、同じ職業であった。
そのまた父、つまりソウマの祖父の代から、グレイ家は仕立て屋 なのだという。

ソウマは父を、優れた職人だったと思っている。
実際に仕事をしている所も幾度となく見たが、残した資料の量にも、目を見張る。
それらは、父の書斎で見つけたものだ。
デザイン画や型紙に、追記がしてある。
明らかにそれは、こうして後に「自分」が読むことを前提にして、 書かれたものだろう。

”・・・センチで取るが、中年以降のご婦人の場合、
幅を広げて、ゆったりしたフォルムに・・・”
”・・・2枚重ねになっているが、重さが気になる場合は・・・”

ソウマはそれらを、参考になるなと思いつつ、ありがたく読んだ。
彼が父の残したものを見て、総合的に感じたことがある。
それは、父:カルノフ・ミネア・グレイは、服を「可愛らしく」
仕上げるのが好きだったということだ。

・・・ここにレースをふんだんに使うと、可愛らしい。・・・
・・・エリ部分は丸くカットすると、可愛らしいので・・・
・・・丸いボタンがアクセントになり、可愛らしく仕上がる・・・

確かに、仕事としては女性ものの衣服を扱うことが多いのだが、
そんなに可愛らしさを追求して、どうするつもりだったんだ、とソウマは思った。
娘が生まれたら「可愛らしいお洋服」を、着せるつもりだったのだろう。
残念ながら、ムサイ男の俺しか生まれなかったけどな、と
ソウマは考えた。

そんな、父の可愛らしい論を読みながら、
彼が1階の居間で考え事をしていると、ドアからクラウスが入ってきた。
吟遊詩人の女性は、いつも同じような服装・・・つまり吟遊詩人風な衣装・・・
を身に纏っているが、夏が近づき、彼女は衣替えをしたようだ。
こざっぱりした、明るめのシャツと、スカートを着ている。
その姿を見て仕立て屋の男は、素直に感想を述べた。

「あー、随分と可愛らしいな。」

するとクラウスは、目を白黒させてから、入ってきたドアを閉めた。

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