99パーセント

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この時期、言わなくてどうするんだ?
今は5月、来月は6月じゃねぇか。
大丈夫だ、あいつはきっとOKしてくれるさ。
きっと・・・いや多分。おそらく。絶対。

・・・

ソウマはもう一度、暦を見た。
新緑の季節、5月である。
さっきから、何度も何度も暦を見ている。
変わるわけはないのに。

いや、何度も見返したおかげで、新しく気づいたことがあった。
今日は、母の日とかいうやつじゃないか、と。
日頃の感謝の意を込めて、母親に、花などを贈ったりする記念日だ。
残念ながらソウマは、物心付いた時に母がいなかったので、
母の日を、祝ったことはないが。
母の日という文化は、最近この国に来たところなので、
あまり普及率は高くない。
それよりソウマは、外の国から来た文化で、5月の現在、
気になっていることがあった。
ジューンブライド である。

6月に結婚すると、幸せになれるという。
聞いた話によると、神話だか何だかとにかくカミサマの話で、
6月を守っている女神が家庭の守護神だから、
6月に結婚するとイイ、ということだそうだ。

結婚したい若い者(若くなくても良いが)同士が、
したいと思ったら、何月だろうが式をあげたらいい・・・と
ソウマ自身は思っている。
が、世の風潮というのも、大切だ。
母の日だからと冗談めかして花でも買っておけば良かった、
と彼は思った。
そうすれば、これから彼女・・・クラウス・・・に、告げようと
していることも、楽に言えるような気がして。
「・・・多分、断られはしねぇよ。」
そうひとりごちて、ソウマは相手の帰宅を待った。

数時間後、吟遊詩人の女性は帰ってきた。
珍しく難しい顔をして、居間のソファに腰掛けている家人に、疑問を持つ。
「アンタ、どうかしたの?そんな、眉間にシワ寄せちゃって。」
クラウスは普段通りの軽い調子で話しかけたのだが、
対してソウマは、重い口ぶりで答えた。
「クラウス、話がある。」

え?何?と聞き返したが、ソウマは目で、相手に座れと促すだけだった。
しょうがないので、クラウスは彼の目の前の椅子に腰掛ける。
妙な沈黙が、2人を包んだ。
そのうちソウマが、こう切り出してきた。

「なぁ。・・・・知っての通り、今は5月だよな。」
そうよね、とごく普通に返す。すると彼は続けた。
「来月は6月だな。ジューンブライドってヤツだ。」
そして彼は、また黙った。
この「間」に、何を考えろと言うのだろうか?
そうクラウスは疑問に思って、すぐに答えを見つけた。
ありえない事だと思いながら。

ジューンブライド。
花嫁ブライド

目の前の相手は男で、自分は女である。
そんなことは、とうの昔から分かっている。
2人とも、独身だ。
さすがにクラウスも、所帯持ちの男の家に間借りするほど
神経は、ず太くない。
(一般的に、独身の男の家に間借りするのも、問題が有ると
言えば有るが)
その彼が突然、来月はジューンブライドだなという話をしてきた。
これは。
これは、もしや。

茶色の髪の男は、頭をぐしゃぐしゃと掻いてから、
言い出しにくい事を言う決心をしたのか、口を開いた。

「クラウス、あの・・・だな。その・・・来月は6月だろ。
それで・・・





早い話が、金貸してくれ。

はいぃ?と亜麻色の髪の女性は、甲高い声を上げた。
仕立て屋の男は、理由を述べた。
「6月は結婚シーズンだから、仕立て屋としては書き入れ時だ。
ただし式に着る服は、5月から作らなきゃならねぇ。
だから、生地仕入れにいかなきゃならないんだが、その仕入れに使う
金が足りねぇんだよ。
頼む、クラウス。6月の後半になりゃあ売り上げが入ってくるから、
それまで一時的に、金貸してくれ。
お前しか、頼れる奴がいねぇんだよ。」

ソウマはそう言って、頭を下げた。
クラウスはハハハ、と軽く笑ってから、相手の望み通り、お金を貸してあげた。
違う誘いを期待していた、いうことは、
言うまでもない。

<END>

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