四畳半

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ホワイトキングダムでは、既婚者の女性は、結婚しているという証に、
左腕に「腕輪」をするのが、一般的である。
もちろん中には、そういった古くさい慣習にとらわれない人間もいるが、
婚約や結婚したとき、贈るアクセサリーは「腕輪」だ。
広く、それと普及している「指輪」は、単なる宝飾品に過ぎない。

その時ソウマは、亡き父親の書斎を片づけていた。
書斎といえば聞こえがいいが、実際のところ、文机の置いてあるだけの、
ただの狭い部屋だ。
父親は、寝室にものを置くのが嫌だったのか、大切なものは全て、
この書斎に置いていた。

グレイ家も、人数が増えたからか物が多くなり手狭になってきたので、
この部屋を片づけて空けようかと、ソウマは思っていたのだ。
人数が増えたといっても、別に結婚したわけでは無いのだが、
結婚しなくてもそれに酷似した生活が出来るもんなんだな、と彼は思っている。
とにかくソウマは、その部屋で、要る物と要らない物の、仕分けをしていた。

「・・・こりゃあ・・・。」
ソウマは思わず、ひとりごちた。
机の中に、古ぼけてはいるが確かに金色の、腕輪が1つ入っていた。
誰の物だと、考えるまでもない。あの親父のことだ、生涯に1人だけ愛した女・・・
ソウマの母親・・・に贈った腕輪だろう。
ソウマはカルノフ・ミネア・グレイの唯一の息子だが、続柄的にいえば四男で、
第7子だ。兄と姉が3人ずつ、生まれたが誕生直後に死んでいる。
母は、何より子を欲しがったらしい。だが残念にも、そのほとんどは生きながら
えず、唯一元気に誕生したソウマでさえ、その見返りに、母体を殺している。

父は何故、己を恨まなかったのだろうと、ソウマはいつも考えていた。

懐の深い人物だったのだろうなと、ソウマは自分もそれ相応の歳になって、思う。
感慨にふけっている場合ではなく、ソウマは今、片づけをしなくてはならないのだが。

古びたその腕輪を眺める。内側に、Cの文字があった。
既婚者のする腕輪の場合、イニシャルを入れることが多いので、
これは多分、母親の名前の刻印だろう。
母は確か、クラリッサという名前だったはずだから。

そういえば、あいつもChartreiaシャルトリアで、頭文字がCだな、と、
男は、狭い部屋の真ん中で考えた。
「・・・何で、スペルまで覚えてんだ、俺・・・。」
そういう、自分自身に対しての、奇妙なつぶやき。

<END>

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