初雪
***
仕立て屋・グレイ家のある、ホワイトキングダム西部は、比較的気温が高く、
ほとんど雪が降らない。
だがグレイ家に居候している吟遊詩人、クラウスの出身地の東部では、
冬季に雪が降るのが一般的だった。
「ここ、雪降らないんだ。」と彼女は言った。それに対し彼は、
「あぁ、お前んとこの故郷よりあったかいからな、一年中。」と答えた。
降らない地方に住んでいるソウマにとっては、降らないのが当たり前。
降らないから寂しいなどとは、当然考えない。
だがクラウスは、そろそろ雪が見たくなっていたのだ。
「ふーん・・・。」
何を察したのかひとつ息をついて、ソウマはキッチンの方に入っていった。
すぐに、手に何か持って帰ってくる。
そのものを見て、クラウスは少し笑いながら、言った。
「アンタ、ケーキ作るの好きよねぇ。」
「てめぇらが食うからだろ。」
「それ違う、アンタ自身も食べるでしょ。」
クラウスは、コロコロ笑っている。ソウマの手に天板を持っていて、その上には
チョコレートケーキが乗っていた。
テーブルの上に天板を置いてから、ソウマはまたキッチンに向かう。
そして今度は”ふるい”を持ってきた。
「見てろ。」
そう、茶色い髪の青年はつぶやいて、ケーキホールに粉砂糖をかける。
さく さく さく さく
まるで、雪が降るようだ。
「・・・雪を見に、東部まで帰るのも、面倒だろ?」
そうつぶやいてソウマは、横を向いた。
照れているのだろうか。暗に、帰るなと告げているも同然だから。
クラウスは微笑んで、彼が粉砂糖をコーティングするのを、眺めていた。
しばらくしてから、彼女は言う。
「チョコレートに砂糖をプラスって、めちゃくちゃカロリーありそうよね・・・。」
「・・・これはガトーショコラだから、いいんだよ。」
ソウマは答えたが、スタイルを気にする女性にとっては、慰めにならない言葉だった。
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