赤ピーマン

***

グレイ家の養子、竜族の男子のザギは、甘党である。
甘党というか、竜族である彼は、人間の食物の中で、砂糖しか
摂取できないので、甘党のように見えるだけなのであるが。
だからテーブルの向こうで、ソウマがシチューを食べていようと、
炒めたライスを食べていようと、ザギはいつも、皿に盛った砂糖を
噛んでいるだけだ。
少年はそれが、飽きてきたらしい。

「ねーソウマ、オレにもそれ、ちょうだい。」
彼が今手にしている皿を指さして、ザギは言った。それに対しソウマ、
「これか?だってお前、砂糖しか栄養分にならねぇだろ?
食ってもしょうがねぇぞ。第一、ライスを消化できるかどうかも不明だし・・・。」

「父親」は、ザギの腹のことを気にしているらしい。
しかし灰色の髪の少年は、そんな彼の優しさより、目の前のものが
気になったので、「いいから、ちょうだいよ!」と言う。
しょうがないのでしぶしぶソウマは、自分が手のつけていないほうから、
(別にザギは食べかけでも構わなかったのだが、一応最低限のマナーとして)
料理を小皿に分けて、スプーンをつけて相手に差し出した。

「わぁいv何ていうの、これは?」
「パエリアだ。ライスを炒めた料理の一つ。」
「この赤いのは?甘い?」
「甘いぞ。」

ザギが尋ねたのがカラーピーマンだったので、ソウマは甘いと答えたのだが、
それは間違いである。
緑色のピーマンは苦みがあるが、カラーピーマンはそれがなく、それを
便宜上人間は、甘いと称しているだけで。
甘いと言えば「甘み」だと思っているザギには、その味はフェイントなのである。
赤い野菜を口に入れた瞬間、竜の子供は嫌そうな顔をした。
無駄にもごもごと口を動かしてから、少年は言う。

「・・・甘くないじゃん・・・。」
そうか?とソウマは、己が犯した過ちに気づいたが、気づかないふりをして、
言った。これでザギは、自分の食事を食べたいとは言い出さないだろうから。
別にソウマは、食事を作る量が増えてもいっこうに構わないのだが、人間の飯を
竜が食べるのは、やはり内臓的に良くないと思うので。

美味しくないものを飲み込んでしまってから、ザギはつぶやく。
「オレ、今まで通り、食事は砂糖でいいよ・・・。
食べるんならやっぱり、ソウマがいいなぁ。」

ザギは人喰い竜の類では無いと知っているから、その言葉はやっぱりアレ
なんだろうなとソウマは気づいて、青年は頭を抱えた。

<END>

<<<お題創作赤のトップ
<<<ホーム