ゴミ箱
※すみません、下ネタです※
***

グレイ家の、父と子が喧嘩をしている。
大体理由はくだらないことなのだが、手は出ないにしろ、随分大きな声で
言い争いをしている。
その家に間借りをしているクラウスにも、その声は聞き取れた。
珍しいことではないので、もう慣れたものだが。

どうやら終盤戦に入ったらしく、今回もまた、少年が言いたいだけ言って、
ヘソを曲げてうちを飛び出して、そのうち帰ってくるのだろう。
夕方になったら、あいつの代わりに少年・・・ザギを迎えにいくのもいいかもしれない。
彼女がそんなことを思っていると、異様な言葉が耳に入ってきた。

「ソウマのバカ!分からずや!マグロー!

クラウスは抱いていたバンジョーと一緒に、椅子から滑り落ちそうになった。
マグロ?マグロ?マグロ?
何度も言葉を反芻してみる。
マグロと言うのは「スズキ目」「サバ上科」「サバ科」の魚のことだが、
(クラウスの出身地の東部は魚介類が豊富なので、彼女はこういったことに詳しい)
ひとの悪口として使うとしたら、これだろう。
ベッドの上で、反応を示さない女性。
だから本来、男であるソウマが言われるはずはない雑言なのだが、
やっかいなことにあの男は、そういった状況に、無いと言えなくもない・・・らしい。

「別に。昨日、カマ掘られただけ。」

以前そう、彼は言っていた。
何がどう「別に」なのか知らないが、それが事実とすれば、ゆゆしき事態だ。
そういえば、身体は大きいが言動がまるで子供の竜族の少年:ザギが、
前に「ソウマって、おいしいよねぇ〜。」と、舌なめずりして
つぶやいていたのを、覚えている。
「・・・・・・・・・/////。」
おそろしく恥ずかしいことを考えていたわと、クラウスは反省した。

彼女がひとりうつむいて、顔を赤くしていたところに、
淑女の部屋にも関わらず、ノックもしないで、それどころか足でドアを蹴破る
ように開けて、1人の男がこう言い放った。

「クラウスてめぇ、ザギに妙な言葉教えやがったんじゃねーだろうなぁ!?」

見ると彼の顔も赤い。照れているようだ。
クラウスはしばらく黙っていたが、急に腹が立って、言い返した。
「そんなことしてないわよ!誰がっ!!」
誰がそんな恥ずかしい話をコドモにするもんですか、とクラウスは思った。
そこでソウマも、彼女に八つ当たりをしてしまった自分に気づいたので、
小さく反省の言葉を口にし、その場を去ろうとしたのだが、

「大体、アンタがそーいうこと言われるような態度取ってるから、
悪いんでしょ!」
と亜麻色の髪の女性が叫んだので、口論は続く。
「何だと・・・?」
珍しく、年相応の落ち着いた低い声で、ソウマはつぶやいた。
それから彼は、説得力があるんだか無いんだか、微妙な答えを述べた。

「男のガキに圧し掛かかれて、よがれるわけねぇだろ!常識を考えろ!」

常識も何も、あったものではない。

・・・

ザギに悪いコトバを教えたのは、人間ではなくて「箱」だった。
ゴミ箱。
街に1軒だけある宿屋は、若干娼館のような意味合いを兼ね備えていて、
そこの女性が読み終わった週刊誌を、無造作に捨てていたのが災いして。
ザギもれっきとした思春期のボクなので、興味があったのだ、そういった記事に。
腹を立ててうちを飛び出してきたけれど、行くところもないから、
しばらくこの宿屋で時間をつぶしていようと、ザギは思った。

大人2人が、いらぬことでまた喧嘩をしていることに、少年は気づかない。

<END>

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