赤い薔薇の花言葉は 愛
黄色のそれは 嫉妬

青い薔薇の花言葉は・・・?


ヴァレンタイン・ブルー


この時期になると、店の売り上げが落ちる。
あごに手を軽くやって、寿は考えていた。
寿は、花屋に勤める男性である。
店自体が休日の木曜日以外はフルタイムで出ているが、アルバイトだ。
そのアルバイトの彼が、考えている。
この時期、売り上げが落ちるのが、どうにかならないものかと。

彼が悩んではいるが、そうなる理由は明らかなのだ。
商品である花自体が、少ないのである。
もう少しすれば<春>になり、草花も、花が贈られるイベント自体も、多くなる。
だからこの時期の花屋は、いうなれば大人しく<春>を待っているしかないのだ。
そう、季節はまだ寒い日が続く、2月だった。

寿は、店の正面のウィンドウガラスから、向こうの通りを歩く人々を眺めていたが、 そのうち思いついた。
もうすぐヴァレンタインデーだ。
それを使わない手はない、と。

ただ、一般的に知られているように、ヴァレンタインデーというのは、 女性が、男性に贈りものをする日である。
気障な男性ならともかく、女性は花を購入して、想い人に渡すという行為を、 あまりしないように思える。
だから、ヴァレンタインデー=店の売り上げUP という公式は難しいと思われるのだが、 寿はフフンと、ひとつ笑った。
右手に握っていたペンを、くるくると少し回す。
そしてやおら立ち上がると、店の透明なドアを開けて、出て行った。

「ねぇ、君。」
そう寿は、声をかけた。
店の前に立ち止まっていた、青年に。
顔見知りではない。声をかけられた方は、当然驚く。
寿の方がかなり年上なので、「君」と呼ばれても怒ることは無かったが。

店の前で花を見ていた青年は、歳は20代前半といったところで、 身長が高く、体格が良い。
若白髪なのか、グレーの頭をしている。
まぁオシャレで染めているのかもしれないし、と寿は思って、深く聞かなかった。
代わりに名前を聞いた。

「ねぇ君。名前は?」
「・・・鎧、だけど。」

突然の不躾な質問なのに、青年は素直に答えた。
嬉しそうに微笑んでから寿は、言った。
「よろい?下の名前だよね?格好良いなー、変わってるねぇ?ねぇ、名字は??」
「・・・何でアンタに教えなきゃいけないんだ。」
もっともな意見である。
寿としては「名前が聞きたい」のであるが、こんな問いかけで教えてくれる人間は、 そうはいない。
まぁ、下の名前が聞けただけでも良いかと寿は思って、後手に隠し持っていたペンで、 青年の名前を、空(くう)に書いてしまった・・・・・・・


2に続く