帰らない…。




「あのー、すみません、リュミエール様?」
髪に大きな黄色いリボンをつけた栗色の髪の娘が、通りかかったリュミエールを呼び止める。
「何か御用ですか?アンジェリーク。」
やさしい微笑を湛えた水の守護聖リュミエールは静かにやさしい口調でそう尋ねた。
女王候補アンジェリークは大きな目をくるくるさせながらこう言った。
「あの、セイランさまをご存知ではないですか?もう三日ほど学芸館にもどこにもいらっしゃらないのですけれど…。リュミエールさまなら何かご存知かと思いまして…」
「セイラン…ですか。」
リュミエールは美しい眉を少し顰めてそう復唱する。
「はい。」
「いいえ、残念ですがわたくしは存じ上げません、アンジェリーク。」
リュミエールは伏目がちにすまなそうにそう言う。
アンジェリークは少し落胆の色を見せながらそれでも明るい声で言った。
「わかりました、リュミエールさま。また少し探してみます。そろそろ感性のお勉強をしないとまずいかなーって思ったんだけど…って言うか、やっぱり顔が見たかっただけだったりして。うふふっ。じゃあ、リュミエール様、ありがとうございました!」
アンジェリークは短いスカートをひらりと翻してその場を走るように去って行った。
残されたリュミエールはその美しい顔を少し歪めて小さな声で呟く。
「すみません、アンジェリーク。あなたにお教えするわけにはいかないのですよ。」


夕方、水の守護聖は馬車で館に帰り、使用人たちに慇懃に挨拶をすると、この3日間いつも言っている言葉を投げた。手にはなにやら大き目の包みを持っている。
「今日は食事は済ませましたから、あなたたちはもう休みなさい。そして決してわたくしの部屋には近づかないようにお願いしますよ。」
リュミエールはそう言うと奥の部屋に消えた。
彼の側に仕える使用人たちは、彼の穏やかな外見からはわからぬ何かを皆気づいているらしく、それ以上誰も追及する者はいない。


リュミエールは廊下をどんどん進んで行き、自室の扉を開ける。そしてさらに奥に進み、寝室のドアのノブを回した。
「ただいま帰りましたよ、セイラン。おとなしくしていましたか?」
部屋には大きな天蓋つきの豪華な寝台がしつらえてある。その天蓋の柱に両腕を括り付けられ、猿轡をされた全裸の少年が、ドアの方に振り向いた。
首のあたりで切り揃えられた癖のない蒼い髪を振り乱しながら、感性の教官である美しい少年は、身を捩り呻き声を上げる。
「ああ、申し訳ありません。その格好ではお返事もできませんね。外して差し上げましょう。」
リュミエールはセイランの所に行くと、猿轡を解いた。腕の拘束はそのままに、リュミエールは部屋に入ると同時にテーブルの上に置いた大きな包みを開けに行く。
「あ……リュミ…エールさまっ…」
言葉の自由を取り戻したセイランが身を捩りながら懇願するように言う。
「早く…ああっ…早く…頂戴…っ」
セイランはその美しい顔を涙で汚し、潤んだ切ない瞳をリュミエールのほうに向けている。それは狩る者を誘う、小動物の怯えた目。
リュミエールは体の芯が熱くなって行くのを感じたが、かろうじて堪え、包みの中から何物かを取り出す。
「ほら、おなかが空いたでしょう。今日は朝しか物を食べていないのですから。まずこれをお食べなさい。私が食べさせて差し上げます。」
包みから出てきたのは小さな袋に入ったサンドウィッチ。リュミエールはそれを一口分ちぎるとセイランの小さく開いた口の中に入れようとする。
「いや、いらない…っ。僕の欲しいのはそんなものじゃありません、リュミエールさまっ…あなたの…」
「いけません。食べないと死んでしまいますよ、セイラン。」
そういいながらリュミエールはセイランの口にその塊を押し込み、口を手のひらで塞ぐ。セイランは思わずその塊を嚥下し、少しむせった。
「いい子ですね、セイラン。ではもう少しお食べなさい。それからでないとあなたの欲しい物をあげることは出来ませんよ。」
それを聞いたセイランは咽び泣きながら口を開ける。リュミエールはまた小さくちぎったパンの塊をそこに差し入れる。サンドウィッチを全て入れ終わると、リュミエールは包みの中からお茶の入ったポットを取り出し、中身をカップに注ぐと少し口に含み、セイランの体を少し起こして、その唇の中に注ぎ込んだ。セイランの白い咽喉がこくんと鳴った。
リュミエールはそのままセイランに口付けを与え、飢えたセイランはその侵入して来た舌を貪るように舐めた。
「あ、ああっ、リュミ…エールさまっ…」
セイランは何度も身を捩る。よく見ればその足の間の小さな穴には低い機械音をさせながら、張り型がひとつ差し込まれている。
「いい子にしていたようですね、セイラン。ご褒美をあげましょう。」
リュミエールはセイランの足の間で昂ぶるペニスをその美しい口に含む。そして舌の先で転がすように舐めた。
「あああ……っ!」
セイランは小さく叫ぶとその体を弓なりに仰け反らせ、一瞬にして達した。白い飛沫がセイランの白磁のような体を濡らす。
「ふふ…、本当にかわいらしい方ですね、セイラン。今日は、特別に素敵なことをしましょうね。」
そう言うとリュミエールは包みから三度何かを取り出す。今度は何か軟膏でも入っていそうな大きな瓶である。
「これが何かわかりますか?ふふ、何でもいいから早くしてくださいって言いたそうな顔をしてますね、だめですよ。今からやることはとてもゆっくりやらないとあなたが大変なことになってしまいますので…。大丈夫、時間はたっぷりありますよ。今日は土の曜日ですから。」
そう言うとリュミエールは瓶の蓋を回して開け、中から緩いクリームのようなものを掬い取った。そしてセイランの膝を立てさせ、Vの字型に開くと、赤黒いアヌスで蠢く張り型を引っ張り出した。そして濡れそぼったその穴にクリームごと二本の長い指を差し込み、内壁に丹念にクリームを塗る。
「はあっ、ああ…っ、い……いいっ…」
セイランの体がびくびくと痙攣する。今達したばかりのペニスも再び勃ち上がり始めた。
リュミエールは今度は左手の指でたっぷりとクリームを掬い取ると、自分の右手に塗り始めた。掌、手の甲、五本の指、そしてそればかりか腕にも塗っていく。
そして肘までたっぷり塗りつけると、もう一度右手の指先にたっぷりと掬い、その指をアヌスにあてがう。それから指を細い形にすぼめ、五本纏めてその穴にゆっくり差し込んで行った。
「あっ……!はあっ…!」
セイランが腰を躍らせながら叫ぶ。
「力を抜いてくださいね。でないと痛いだけですよ。」
セイランは首をもたげて足の方を恐る恐る見やった。するとそこには自分の中にリュミエールの五本の指全てが侵入を始めているのが見える。
「な……何をするの…?リュミエール様、まさか…」
リュミエールは少し顔を上げ、軟らかく微笑む。
「大丈夫ですよ、セイラン。幾人もの方のお相手をしているあなたならきっと入ります。ここは、そういうふうに出来ているのですから。」
セイランの顔は恐怖に引き攣る。
「いやっ、やめてリュミエールさま!怖いっ、やめてくださいっ!」
セイランは唯一自由になる足をばたつかせて暴れ出す。
「セイラン、だめですよ、大人しくしなければ。私が失敗してしまえば、痛いのはあなたですよ。大丈夫です、壊したりしません。」
そういってリュミエールはゆっくりと指の根元までを押し込んだ。
「ひっ!ひあああっ!」
セイランが悲鳴を上げながら腰を思い切り引き上げたので、彼の頭から足先までは優雅なアーチを描いた。だがその異物は抜けはしない。
「ああ、動かないでください。少し痛いかもしれませんが、まだどこも切れてはいませんよ。大丈夫。きっと入りますから。」
リュミエールは左手でセイランのペニスを握って体を押さえつけながら、右手は容赦なく奥へと進み、ついに手首までが入っていった。
「ひぃっ、あっああああっ!!」
極度の恐怖と緊張感で、セイランは、仰け反ったまま大きく悲鳴を上げて失神した。
「ああ、かわいそうに。こんなに体を強張らせて。でも大丈夫、あなたが眠っている間にすべて済みます。」
リュミエールはそう言うと、今度は力の緩んだそこに入れた手首を、ゆっくりと進めて行く。そして数分かけてセイランの体に手首と肘の中程までを収めたところで、その腕を少し回転させた。
「んうっ……はっ……あ…っ」
セイランが目を閉じたまま呻き声を漏らす。
「ふふ…目が覚めたようですね、セイラン。上手に入りましたよ。そうだ、見せてあげましょう。」
リュミエールはそう言うと天蓋に縛り付けていた手首の紐を解いてそのままセイランを抱え上げた。腕を突っ込まれたまま持ち上げられたセイランの体は、たまらずがくがくと震えた。一応リュミエールが左手で腰を持ち上げるようにしているのでこれ以上深く入って行きはしないが、それでもセイランは震えながら喘ぎ声を上げ続けた。
リュミエールは寝台の向こうのほっそりとした姿見の前に行き、横にあった椅子を体で鏡の前までずらし、そこに腰掛けた。膝の上にセイランを乗せ、鏡に向かって足を広げて見せる。まるで腹話術の人形のような恰好で、セイランはリュミエールに抱えられている。
「ほら、御覧なさい。まるで私の可愛い操り人形のようですよ。」
セイランは肩で息をしながら恐る恐る目を開ける。
信じられないほどに広げられたアヌスの輪に、リュミエールの腕が確かに入っている。セイランは恥かしさで一杯になった。だが、その事実を確認した今は、むしろ恥かしさより、恐怖や体の辛さよりも、これから起こる事への期待の方が大きくなりつつあった。
「あ…っ…すごい…っ。すごいです、リュミエールさまっ…ああっ」
セイランはあまりの昂奮に遠くなっていく意識を引き戻しながら、飛びきり淫らな表情を見せる。そして待ちきれず腰を揺らそうとしたが、きつすぎて自力では動かない。
「どうしました?セイラン、腰など振ったりして。あなたもどんどんいやらしい子になっていきますね。
ふふ…言って御覧なさい。どうして欲しいのですか?」
セイランはリュミエールの言葉にさらに昂奮している。半分開いた口の端からは幾筋もの流れになって、唾液が流れ落ちる。
「あ…ああ…、う…動かして、お願い、中で…っ」
リュミエールは淫靡な微笑を浮かべ、右腕をゆっくり前後に動かし始める。
「あーっ!ああ、いっ…いいっ…!」
セイランのペニスから先走りの液がどんどん流れ出て太腿を濡らす。
「もっ…もっと…、もっと…早く…動かしてっ…もっと…つよ…く…っ!!」
「ふふ、待ってください。このままでは私の手が痺れてしまいますのでね…。」
そう言うとリュミエールはもう一度セイランを持ち上げ、今度は寝台におろす。
「さあ、あなたばかりが気持ちいいのはずるいと思いませんか?今度は私も良くしてください。いいですね?セイラン。」
リュミエールはそう言ってセイランと頭を逆にして寝台に横たわる。
セイランの顔の前にリュミエールのはちきれそうになったものが突き出される。
「あ、ああ…リュミエールさま…すごく…なってる…っ」
セイランはそう言って大きく口を開け、リュミエールのペニスの先を咥えた。そして零れ出る露を舐めとると、今は自由になった手を添え、丁寧にくまなく舐めまわす。
「ああ…いいですよセイラン、とても気持ちがいい…。ではわたくしもあなたの御希望に添うように致しましょう。」
そう言ってリュミエールは右腕を動かす。今度は出来得る限り、早く、強く。
「あっ…い、いいっ!」
セイランが叫ぶように善がる。それを聞いてリュミエールが言う。
「では、どんなにいいのか、教えてください、セイラン。」
「あ、あああっ、すご…っ…うああ、ひああっ…、ああ…いい、いいっ!体の中が…すごく、熱くて…っ…ああっ、体じゅう、掻き回されている…みたいっ…ひあっ!」
「わかりました。では、舌を…っ。もっと、気持ち良くしてくださらなくては…っ」
そう言いながらリュミエールはセイランの中心で躍るペニスを口に含む。
「ふぐっ……うう、んんん…っ、ん―――――っ!」
セイランは口腔一杯にリュミエールを含みながら必死にもがく。甘い痺れに堪えながら必死に舌を動かしている。
「ああ、セイラン、もっと……ああ、そうです、お上手です…っ」
リュミエールの体も熱く燃えるようになって来た。もう官能が押し寄せて腕も動かせなくなって来る。だが舌はセイランのペニスを恍惚として舐め上げて行く。
「んう、んんっ、はうんっ…、ああ、ひいあっ、ひ…あ、あぐ…ぅっ!」
セイランがついに達し、リュミエールの顔に白いものを撒き散らした。
「あ、ああ……っ!」
セイランのオルガスムスの声を聞きながら、リュミエールも昇りつめて行く。セイランの舌が離れたのを感じ、彼の顔を見る。
そこにはどうしようもなく淫らで美しい顔があった。また意識を失っているようではあるが、体はまだびくびくと痙攣している。
「ああ……」
リュミエールはセイランから抜き出した自分の手で最後の刺激を与え、そのまま絶頂を迎えた。セイランの美しい顔を自分の白いもので汚しながら…。


セイランは、くちづけと共に口の中に流れ込むハーブティーの香りで目覚めた。
「あ…う。ん…リュミエール…さま…」
「目が覚めましたか?セイラン。ふふ、とても素敵でしたね。」
「……は…ん…っ、ああ、まだ…熱い。僕の中…。」
「疲れたでしょう、セイラン。もう、寝みましょうか。」
そう言ってリュミエールはシャワールームに向かおうと立ちあがる。
「あ…いや、リュミエールさま、行かないで…っ、もっと……っ」
リュミエールは流石に少し驚いた顔をした。3日前にこの部屋に閉じ込めて拘束した時は、この部屋から逃げ出そうとさえしていたのに…。
「もっと…?もっとなんなのですか、セイラン。」
「もっと…抱いて、あ…ぁ、また何か…入れてください…お願い、します…」
セイランの双眸は涙で濡れ、腰を精一杯突き出している。あれほどの事をされた後なのに、まだこんなに求めている彼を、リュミエールは驚きと、喜びの目で見た。見事に調教されている。もう、セイランはリュミエールのものだ。
「わかりました。さあ、一緒にシャワーを浴びましょう、ね。」
リュミエールはセイランを抱き上げるとシャワールームに入って行く。
そして再びセイランの喘ぎ声と善がり声が、シャワールームの扉を越えて、誰もいない部屋に響き渡って行った。


次の週になっても感性の教官は女王候補たちの前に姿を現すことはなかったのである。

FIN 

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