鍵穴〜KEY HOLE〜
久しぶりに学芸館に戻ってきた感性の教官が、なにやらかなり様子が変だ、とは会った者皆の思うところであった。
朝からずっと、ぼおっとしている。それだけならまだしも、時々非常に悩ましげな声を出す。オスカーなどはそれを聞いたら勃起してしまうだろうという噂になる。
熱に浮かされたような顔、というのはこのことを言うのであろうか。セイランの白い肌が、ずっと上気してピンク色に染まっているのだ。
「どこに行っていたんだ、セイラン。まあ、おまえの気紛れは承知している。だが、今までこんなに幾日もいなくなったことはないからな。心配したぞ。」
噂を聞きつけて炎の守護聖が部屋を訪れる。10日ほど前には彼にも抱かれたのだ。セイランはそれを思い出して恍惚の表情になる。
「あ……んんっ」
オスカーは吃驚した。これが噂に聞いた「声」なのか。確かにその声は彼の股間を直撃したようだった。オスカーのズボンのその場所が僅かに盛り上がる。
「ど…どうしちまったんだ、セイラン。何でそんな声を出す。」
「は…っ、ああ、オスカーさま。なんでも…ないんです…ふっ…ん。」
セイランの表情はどんどん淫らになって行く。オスカーはもう、我慢が出来なかった。
「なんでもないって…くそっ……ダメだ、すまん、セイラン!」
そういって炎の守護聖はセイランのその小鹿のようなしなやかな肢体に飛び掛かり、白い衣をまず脱がせた。しかし、その手が腰に掛かり、ほっそりしたズボンに手が掛かったとき、オスカーは異変に気がつく。
「こ、これは……まさか…」
セイランのズボンの下から出てきたのは、黒い革の……
「て…貞操帯か?これは……。」
セイランは上気して潤んだ目をオスカーに向けて微笑む。
「そう。僕が他の男に抱かれないように、あの人がつけた縛めだよ。ふふ。」
セイランはその黒い革の股間の部分に手を当てて、僅かに身を捩る。
「だけどさ…、自分でも出来ないんだ、これ。オスカーさま、あなたにこれ、取れませんか?もし取ってくれたら、僕に何をしてもいいよ。」
オスカーはごくりと息を呑む。そしてその縛めの鍵のついた部分を覗き込む。
「……これは…俺の手には負えそうもない。…が、こんなもの切ってしまえばいい。」
「それは…だめだよ、オスカーさま。もしそんなことをしたら僕があの人にどんなお仕置きを受けるかわからない。もしかすると死んでしまうかもしれないよ。」
オスカーはさっきは聞き流した言葉を復唱した。
「…あの人?」
「ふふ、あの人。名前は言えない。けど、わかるはずだよ、オスカーさまなら。」
あいつか?……そうかも知れん。あれは執念深い。オスカーはある人物を思い浮かべる。
「取れないの?オスカーさま。しょうがないね、……そうだ、あとでゼフェルさまのところに行こう。あの方ならこれくらいの鍵、簡単に外せるさ。ね?」
「わかった。だがその様子では歩くのも辛いだろう。ゼフェルなら俺が声を掛けておく。この部屋に来るようにな。」
「ありがとう。優しいんだね、オスカーさま。」
オスカーは黙って引き下がるしかなかった。
それから小一時間も経った頃、セイランの部屋の扉がノックされた。
「おう、来てやったぜ、セイラン。俺になんか用なんだって?」
「ああ、…ゼフェルさま。どうぞ…」
扉を開けて、鋼の守護聖が入って来る。
「どうしたんだ、セイラン。ずいぶん休んだよな、おまえ。具合でも悪かったのか?…って、顔が赤いな。熱でもあるんじゃねえのか?」
セイランが身悶えしながら火照った顔を上げた。少し息遣いも荒くなっている。
「ええ。ゼフェルさ…ま。苦しい…んだ…」
「おい、そんなんじゃ俺よりルヴァでも来たほうがいいんじゃねえのか?俺じゃ病気のこととかはわかんねえぞ。」
「あ…いや、病気じゃないんだ…。…ゼフェルさまに、鍵を開けて…いただきたいん…だけど…あ、はぁ、…お願い…」
「鍵?物にもよるけど、どんなんだ?見せてみろ。」
「あ、あ…、ここ…の…」
セイランはそう言うと、上着を脱いだ。ゼフェルは怪訝そうに机の向こうに回る。
「ここ…。わかる…かい?」
そして、ズボンを捲った。そこには黒光りした革の下履きのようなものがある。
「なっ、何だよ、そりゃあ。パンツ…か?で、そのどこに鍵が…あ!」
ゼフェルはその下履きの脇に小さな鍵穴を見つける。
「うわ。なんだこりゃあ。何でこんなもんに鍵なんて付けやがるんだ?」
「な…何でもいいから…早く…開けてくれるかい…?頼む…よ。」
「…ああ、そーか、しょんべんか。そうだよなあ、こりゃまずいわ、うん。
…って…待てよ、えーと、うん、これならイケるぜ。ちょちょい…っと。」
ゼフェルはポケットから小さな工具箱を取り出すと、その小さな鍵穴にあう道具を探し出し、楽しそうに作業を始めた。
(どうやらこの方は、これが僕のどこについているのか、これを取ったらどうなるのか、ぜんぜん考えてもいないみたいだ…。くす、素敵だね、ゼフェルさま。)
セイランは苦しい息の下だったがそんなことを考えて少し気が紛れた。
「……っと、あとはこっち…と!よし、出来た!」
カチッと言う小さな音とともにその鍵は開いた。
「あ、ありが…とうございます…ゼフェル…さまっ。」
セイランがもどかしげにそれを外すと、その下から怒張したペニスが姿をあらわす。
「わっ、セイラン。おめ〜その下、何にも穿いてなかったのかよっ…ι
それに……な、なんだこりゃ!ケ…ケツの穴…に……なっ…ι」
ゼフェルは驚いた。貞操帯から開放されたセイランのアヌスには、かなりの太さのある張り型が突っ込まれていたからだ。もちろんゼフェルは男同士のセックスなど今まで考えたこともなかったので、そんなところに何か入れるなどというのは全く想像を絶した。
「ああ…、やっと自由になった…ふっ…んん…、ああ、ゼフェルさま、ありがとう。
ふふ、お礼に、僕のこと、好きにして構わないよ…。」
セイランが張り型を抜きながらそう言う。だがゼフェルはすっかり固まっていた。
「……すっ……好きに〜??」
「ゼフェルさま、女の子とはセックスしたこと、あるんだろう?じゃあ、大丈夫。同じようなものだよ。…ううん、僕のほうがきっといいよ。オスカーさまもそうおっしゃってたもの。」
「セ、セックスう〜?!」
ゼフェルは耳まで真っ赤になった。
「おや?ゼフェルさま…、もしかしてまだ童貞なのかい?」
「ばっ、馬鹿野郎!そんなわけねえだろ、ヤったことぐれえ、あるよっ!」
「ふふ、それはよかった。じゃあ……」
そう言うとセイランは、ゼフェルのズボンに手をかける。何が起こっているのかわからず固まったままのゼフェルにお構いなく、ファスナーを開けて、ゼフェルのものを取り出す。やはり少しは昂ぶっているようだ。セイランはくすっと笑うと、口を大きく開けてそれにしゃぶりついた。
「な、なな、なななな、……なにをしやがる……っ、う〜っ、あっっ!」
ゼフェルのそれがびくびくと痙攣しながら勃ちあがる。セイランはにっこりと笑って、先走りの露を掬い取り、それを自分の穴に擦り付け、ゼフェルに向かって開いて見せる。
「セ…セイラン、おめえ…。なにやってんのかわかってんのかっ?!」
「…ふ…っ、ゼフェルさま、早く、それを、僕に…っ」
「じょ、冗談じゃねえ、そんなもんに挿れられるかっ!」
ゼフェルは自分の昂ぶったペニスを仕舞おうとした。だが、それはもう先ほどの刺激でかなり大きくなってしまっている。
「うっ…!畜生、ど〜すんだよ、これっ!…あっ、ん…」
「ああ、だめだよ…ゼフェルさま。そんなに無理に押さえつけちゃ…。ふ…ぅっ、さあ、僕のここに…気持ち良く…なりたいだろう?」
だがゼフェルはパニックに陥っているようだ。仕舞おうとしてそれに触れる度に、電撃のような快感が走るのを持て余している。セイランはもう待てないとばかりにそのままゼフェルに飛びつき、床の絨毯の上に押し倒した。
「な、何しやがるん…あうっ…」
セイランはもう一度ゼフェルのペニスを口に含むと、いとおしそうに舐め、それから自分のアヌスを指で広げると、ゼフェルの勃ち上がっているものの上に勢いをつけて座った。
「あっ、ああっ…うっ、いい…っ!」
セイランが悦がって、ゼフェルのものを締め付けながら大きく揺れる。
「うああっ!や、やめ…っ…あう、ああ…っ」
「どうかな、…ゼフェルさま…っ、あ、いい、だろう?ああ、僕もいいっ…ゼフェルさま…素敵、だよっ…んんっ!」
「う、んん、ん〜っ、……ああ、ああっ、き、きついっ…くっ…」
セイランはその手でゼフェルの根元をきつく掴んだ。ゼフェルは喘ぎながら仰け反る。
「くぅっ…うあ、や、やめろっ…い、痛っ、い、いや、はっ、放……っ」
「だめだよ…ゼフェルさま…っ、いいって…認めて欲しいな…っ…あ、はあ、気持ち、いい…んだろ?もう、達きそうなんだろ?…ねえ、ゼフェルさま?」
「ううう〜っ、あ、ああ、やだ、痛ぇ、やめて…くれっ!」
ゼフェルの双眸から、苦痛と官能の涙が溢れる。
「そうか、…わからないんだね…ゼフェルさま…っ、それ、気持ちいいんだよ。…ああ…ほら、綺麗な涙だね、ゼフェルさま。わかったよ、もう…達かせてあげる…っ」
セイランは根元を掴んでいた手を離すと、激しく腰を上下させた。
「う――――――っ!!うああ、ああっ、んん――――――っっ!!!」
ゼフェルは体を仰け反らせながら達し、セイランの中に精を放った。
「んうっ…!ああ……っっっ」
セイランもほぼ同時に達する。ゼフェルに遠慮したのか、仰け反って、自身を手で覆って射精したので、それはセイランの手の中から、腹と太腿の上に零れ落ちた。
セイランは荒い息をついているゼフェルの露出した部分を紙で拭いて中に仕舞うと、少し服についたものも拭った。ゼフェルはしばらく呆然としていたが、少しして言った。
「はあっ、……てめえ……っ、な、なんで…オレ、イヤだって言ってんのに…」
実はゼフェルの経験は、あるといっても真似事のようなものでしかない。勢いでいきずりの女の子と寝はしたが、どちらもたいした快感も得られず、こんなもんどこがいいんだ、という感想しか持っていなかった。
そこをいきなりセイランというテクニシャンの手で達かされて、もう何がなんだかわからなくなるのもしかたがない。
「ゼフェルさま…ふふ、でも達ったじゃない…?苦しいようでも、本当は気持ち良かったんだろう?……達くってことは、そう言うことなんだよ。」
「……気持ち…いい?…」
「だって、今はとても楽だろう? アレが出た時、すごくイイ感じ、しなかった?」
「アレ…って…あ、ああ…まあ、そう言われれば、そうかも知れねえけど…でも…」
「男の僕とヤって良かったのが、はずかしいのかい?ふふ、大丈夫、ゼフェルさまだけじゃないからね、そういう事したの。」
「……そう言えばさっき、オスカーって…ι」
「ふふ、そう。オスカーさまも…あの人も…。気持ちいい事が好きなの、恥かしいことじゃないよ。みんなやっているのさ。守護聖さま、なんてすましてらしても、ね。」
「…セ、セイラン…おめえ…」
「僕は天涯孤独だし、そのうちここからいなくなるし、あと腐れないからね。安心して抱いていいよ。ね、ゼフェルさま?」
「なっ…そんな事…オレ…」
「僕が嫌い?それとも、こんなことしたから嫌いになった?ねえ、ゼフェルさま。」
「べっ…別に…きっ、嫌いになんか、なんねえけどよ…ちょっと吃驚したけどな…」
セイランはそれを聞いて、にっこりと嬉しそうに微笑む。ゼフェルは不覚にもそれを見てときめいてしまったようだ。
「ありがとう、ゼフェルさま。じゃあ、またお相手してくれる?」
「……そ、それとこれとは別だぜ、オレは……す、好きなヤツ、い、いるしよ…っ」
セイランは、目を丸くした。
「へえ、ゼフェルさま。それは、女の子かい?」
「あ……あったりまえじゃねえか!オレは…普通の……あっ、別におめえが普通じゃねえってわけじゃねえけど…」
セイランは本当に、ゼフェルがたまらなく可愛く思えた。
「あっはっはっは、ゼフェルさま。あなたって素敵だ。僕は本当にあなたに興味が出たよ。狙ってみてもいいかな?」
「げ、いや、そ、それはやめてくれっ。」
「そうなの?残念だね。僕とはもうやりたくないんだ。」
「……っ…そ、そういう言い方は卑怯だぜ、セイラン、オレは…あの…っ」
「んっ……ふっ…」
「お、おい。またそれ、着けちまうのか?」
セイランは再び張り型をアヌスに収めると、貞操帯を着け、元通りに服を着る。
「ふふ。勝手に外したことがあの人にバレたら、ひどいお仕置きを受けなきゃならないんだ。僕はセックスは好きだけど、あまり苦しい目に遭いたくはないからね。」
「あの人?おまえにこれ、着けたやつか?誰なんだ?なんなら、オレがぶっとばして…」
「いいんだ、ゼフェルさま。僕は自分でこうなることを選んだんだから。」
「……けど、そいつ、おめえを殴ったりするんだろ?」
「あの人は僕から一滴の血も流さないよ。血を見るのが大嫌いな人だから。そう、代わりに血を流さないで人を苦しめる方法を一杯知っているけどね。」
(だけど、あの人はきっと気がつく。そして哀しそうな顔で、約束を守りませんでしたね、と言うんだ。そして僕に……)
「ゼフェルさま、今日は楽しかったよ。僕はまた明日からしばらく休むかもしれないからね。忘れないでね。また会えたら抱いて欲しいな。」
「セイラン?…おめえ…いったい…」
「ごめん……もう帰って……っ」
セイランは辛そうに下を向く。
「あ、ああ、じゃあ……あの、体を…その、…大切にしろよ。」
ゼフェルは躊躇いつつも部屋を出る。
部屋の外には水の守護聖が立っていた。
いつも見る彼の微笑なのに、ゼフェルは、何故か背筋が震えるような気がした。
「お、おう。おめえもセイランに用か?」
「ええ。少し、お話が。あなたの御用はもうお終いですか?ゼフェル。」
「あ、ああ…じゃあな、リュミエール。」
「ごきげんよう、ゼフェル。」
リュミエールはこの上なく美しい微笑で、帰って行く鋼の守護聖を見送ったのだった。
FIN