草上の晩餐





「ふう……疲れたな。」
「…大丈夫ですか?まだからだが本調子ではないのでしょう、無理はなさらないでください、オスカー。」
「ああ、ありがとうリュミエール。だが、もう大丈夫だ。まあ、ちょっとは体力が落ちてはいるがな。まあ、しばらくすれば普通に戻るさ。」
「そうですか、それなら良いのですが……」
「ああ、心配するな。おまえの辛そうな顔を見たくはないからな。」
そう言って、オスカーはリュミエールの唇に軽くキスをする。
「オスカー!」
リュミエールは真っ赤になって、顔をそむける。
「……こんなところで……誰か来たら…」
ちなみにこんなところ、とは聖地のとあるそう深くもない森の中である。
ふたりはたまたま執務が終わってばったりと出会い、なんとなくふたりで歩き始めたのだった。
オスカーとリュミエールの私邸はまったく正反対のところにある。なのでどちらかと言えば宮殿に近いオスカーの私邸に向かって、自然に二人の足は進んでいた。
聖地には、公園や商店街のような開けた場所があるにはあるが、ほとんどが静かな森や草原、水辺などだ。そのあたりになると人はほとんどいない。ましてや守護聖の私邸に向かう森の小道など、歩いている者をまず見かけることはない。
「…大丈夫、人なんて通りはしないさ。」
「ですが……」
「愛してる。」
「……オスカー……、ええ、わたくしも、あなたを愛しています。」
「じゃあ、構わないじゃないか、キスくらい。」
「でも……。…ええ、わかりました。」
「ふ、すまないな、わがままを言ったりして。…けど、なんで歩いたりしたんだろうな、俺たち。馬車にでも乗れば良かった。……このまま俺の私邸まで歩くにはちょっと距離がありすぎるんだ、今日の俺には。」
「……お疲れなんですね、では少し休みましょう。」
「ああ、そうしてくれるか?」
ふたりは今日一日の日差しをたっぷりと吸いこんだ、森の小道の暖かな草の上に腰を下ろした。
「……リュミエール。」
「はい、何でしょう、オスカー。」
「肩を、貸してくれるか?」
「ええ、構いませんよ。どうぞ。」
「ありがとう。……ああ、気持ちがいいな。」
そう言って、オスカーはリュミエールの肩にことん、と頭を預けた。リュミエールはそっとオスカーの肩を抱く。オスカーは静かに目を閉じ、しばらくそのまま眠っていたかのように見えた。
リュミエールは、そのオスカーの寝顔を見ながら、思わずその閉じた瞼に小さな口付けを送る。

ちゅ。

…と、ぱっちり、という音がしたと思うくらいぱっちりとオスカーの目が開いた。
「いいもんだな、こう言うのも。恋人同士みたいで。」
リュミエールは見る見る真っ赤になる。オスカーはそれがとっても可愛い、と思った。
「リュミエール、頼みがあるんだが。」
「は、はい……、なんでしょうか。」
オスカーは、小さく息を呑む。どうやらタイミングを計っていたようだ。
「…今度は、俺がおまえを抱きたいんだが。」
「……は、はい。どうぞ。」
「どうぞ、って……こんなところでか?」
「こんなところって……接吻よりは抱き合うほうがまだましだと思いますが?」
オスカーの目は一瞬、点になる。オスカーは、ちょっと脱力した。
「いや、そう言う意味じゃなくて、リュミエール。」
「……はい?」
「抱く、というのは、つまり、その、男と女……じゃない、えと、つまりだ、その、この間俺がおまえにしてもらったようにだな……つまり…」
「挿入すると言うことですか?」
「………ま、まあ…平たく言えばそう言うことだ。」
リュミエールはそれを聞くと困ったような顔をして、ふう、とため息をついた。
「……あの、そう言うお話でしたら……申し訳ないのですが、お受けしかねます。」
(なんだって〜〜〜〜!( ̄□ ̄;)!!!
オスカーは呆然とした。拒絶された。しかも、こんなに簡単に。
「……すみません。本当に。でも、駄目なのです、わたくしは。」
「な、何が駄目なんだ?俺に抱かれることが?」
「……いえ、その、わたくしは……」
「教えてくれ、俺を愛していると言ってくれただろう?!」
オスカーはずいぶんみっともない真似をしている、と思っては見たが、もう止まるものではなかった。リュミエールの腕をぐい、と掴む。
「痛い!オスカー、離してください!」
「離さない、リュミエール!俺は……!」
オスカーは草の上にリュミエールを押し付け、抱きしめて接吻した。リュミエールはオスカーの下でじたばたと暴れて抵抗していたが、気が付いた時には、オスカーを逆に組み敷いていた。そして大きく荒い息をしながらオスカーを哀しそうな目で見つめた。
「……リュミエール……」
「………聞いてください、オスカー。わたくしの話を。」
「ああ……わかった。…すまない、無理を言って、悪かったな。」
「いいえ、わたくしも話す順番が違っていました。最初に理由を言えば良かったのです。……あの……つまり…体質に、合わないのです。」
「…………はあ?」
「ですから、その……あなたが…あんな風になって帰ってきて、わたくしが………しましたね。で、そのあと、考えたのです。あの時はあれで良かったのですけど、オスカーはいつも女性を…その、先ほどの言い方ですと、『抱いて』いるわけでしょう?…だったらもしかしたらあなたがわたくしを求めてくださるかもしれない、そう思って……あの、実は、調べてみたのです、殿方同士が愛し合うことについて。」
「……調べたあ?」
「あの、傷薬の軟膏を塗るといい、とか言うこともそのとき知りました。で、やっぱりこう言うことをするんだなあ、と思って、試してみたのです。」
「………試したあ?◎×▲☆♪♂♀……!?!?」
「……お風呂で、……自分の指をいれてみたりして、でも、あの、全然気持ち良くなくって、というか、気持ちが悪くて、吐き気がしてしまって……」
オスカーは、はあ、と大きくため息をついた。思いきり脱力していた。
(……俺だって、最初は無理やりで、しかも……)
また思い出したくもないことを思い出してしまって、オスカーは身震いした。
出張中の辺境の惑星で、彼は守護聖と交わると永遠の命が得られると思いこんだ男たちに一服盛られて、丸1日もの間、陵辱され続けたのであった。
リュミエールはオスカーを見て、その顔色が一気に蒼褪めたことに気づいた。
「オスカー、大丈夫ですか?」
「………いや……」
オスカーは苦しそうに胃を押さえ、横をむいて体を丸めた。
「オスカー、気持ちが悪いのですか?ああ、どうしましょう。あの、吐いてしまったほうが楽ではないのですか?ああ、すみません。もしかして、思い出させてしまったのですね?ああ、どうしましょう…オスカー、オスカー?」
リュミエールは必死にオスカーの背中をさする。オスカーは最初、だいぶ苦しそうにしていたが、リュミエールのサクリアの力なのか、だんだん気分が楽になってきたことを感じていた。
「……はあ……あ、大丈夫……リュミエール、気にするな。」
「……でも……」
「じゃあ、やらせてくれるのか?」
リュミエールはまた真っ赤になって、必死で言う。
「それとこれとは別ですッ!!」
「………わかった……、なら、仕方がないな。」
「お別れ……ですか?…」
「…別れて、どこに行くって言うんだ?」
「いえ、そういう意味でなしに、こう言う関係を、もう止めるという……」
「おまえは、やめたいのか?」
「……いいえ…」
「じゃあ、やめることはない。俺も続けたいんだ。」
「ですけど、わたくしはどうしても……」
「だ〜か〜ら!俺は今のままでも構わない、って言ってるんだ。おまえは入れられるのが我慢できない、俺は我慢できるし、おまえに入れられて…たぶん、気持ちが良かった。なら選択肢はひとつしかないだろう。わかるな?」
「は……はい。ありがとうございます。」
「ただ、ひとつだけわがままを言ってもいいか?」
「……なんでしょうか?」
オスカーは、草の上に寝転んだまま、その氷青色の目で、リュミエールの水色を湛えた目をじっと見つめた。
「今、ここで、抱いて欲しい。」
「………ここで?……は、はい、わかりました。」
でももう少し奥に行きましょう、と、リュミエールはオスカーを抱え起こすと、森の奥に導いた。



「横になると、葉っぱだらけになりますね。」
「……嫌か?」
さっきの格闘のせいで、すでにふたりの髪には落ち葉や草の葉がつき、服は少し草の色や土の色に染まっているようだった。リュミエールは少し気にして、自分とオスカーにくっついている草をはたいた。
「どうしましょうか……」
「…立ったままでもいいぞ。」
「……そうですね、試してみましょうか」
(ぎく。)
オスカーは冗談のつもりで言ったのに、真に受けられて引っ込みがつかなくなっていた。
「……ああ、いいぞ。」
度胸を決めて、オスカーはその辺の丈夫そうな木に腕をついて立ち、リュミエールに背中を向けた。その後からそっと、リュミエールの長い指が、オスカーの頬をなぞる。そして熱いキス。それからリュミエールの舌は、オスカーの耳や、首筋を辿っていく。
「ふ………っ、んん……は…」
オスカーが小さく喘ぐ。リュミエールはオスカーの鎧の隙間から手を差し入れ、胸を愛撫する。そしてもう片方の手も、ズボンの上から、オスカー自身を愛撫していた。
「あ…くっ……ん、リュミ……エール…、は…ぁ……っ…」
オスカーの指にぐっと力がこもり、爪が、木の肌を傷つける。リュミエールは、そのままオスカーの前を開け、中のものをぐいと握った。
「う、あッ……!……ああ……んは…」
いつのまにか、オスカーは、自分の腰にリュミエールのものがあたっている感触を感じていた。たぶん、衣装の上からわかるほど、リュミエールも昂ぶって来ているようだ。
と、唐突に……いや、こうなることはわかっていたはずだが、やっぱり唐突な感じがした……リュミエールの手がオスカーのズボンを下げ、そしてその中の双丘を分けて、リュミエールの指が入ってくる。
「あ……う、んんん…んん…ッ」
オスカーは無意識に腰を揺らす。こうしたほうが早く慣れて楽になると言うことをなんとなくオスカーは経験で知ってしまった。まあ、女性もそうだという認識は持っていたが。
「……あ、ああ…もう…大丈夫…すみません…もう少し、腰を突き出してください…」
「あ、ああ……」
オスカーは素直に言われた通りにした。と、その直後に、みしみしと言うあの感覚とともに、熱い肉の感触がオスカーを分け入って入って来た。
「う!……はあッ……あ、あああ…」
オスカーはたまらず、つかまっていた木に頭と肩を押し付けて衝撃に堪える。
「ああ、う、くっ……」
「オスカー、大丈夫ですか?痛くは、ありませんか?」
「だっ……だいじょう…ぶ……ん、あぁ……」
そうは言いながら、リュミエールは激しくオスカーを突き上げる。オスカーも少しふわふわとした感触を味わい始めている。
「あ、ああ、リュミエ……ル…っ…い…いい…ッ…」
「わ…わたくしも……オスカー、ああ…」
「リュミ……ああ、あああ、も……イ…く…ッ…」
「ああ……あッ……」
みしり、とふたり分の体重を受けて、木が軋んだ音を立てた。



「……歩けますか?」
「ふう……いや、ちょっと、まだ……」
「馬車を呼んで来ましょうか……」
オスカーは疲れきって、草の上に座りこんでいる。リュミエールが馬車を呼ぼう、とその場から離れようとしたとき、つい、とオスカーの手がリュミエールの裾を引いた。
「いい……行くな。俺を……ひとりにするな。」
「………オスカー…わかりました。じゃあ、こうしましょう。」
リュミエールはオスカーをひょい、と抱き上げた。いわゆる、お姫さま抱っこである。
「わ!まっ……待ってくれ、リュミエール!」
「……痛むんですか?」
「いや、そうじゃなくって……!」
どう考えても絵的に決まらんじゃないか、(逆ならともかく!)とか、勝手なことを思いつつ、オスカーは悪あがきをしてみた。
「……重いだろう、大丈夫だ、動けるようになるまでここに……」
「大丈夫、オスカーのひとりやふたり、運べますよ。ご心配なく。」
いや、そんなこと心配しているわけじゃない、とオスカーは思った。
「ふふ、嬉しいです、オスカー。あなたをこうして抱けるなんて。」
オスカーは、もう、諦めるしかなかった。
そう、リュミエールの笑顔を、見ていたかったから。
その、水の精のような、透き通った笑顔を。



END


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