それは、邸の大広間にぶら下がっていた。


リュミエールがすべての使用人に5日間休暇を与えたのを、横に立っていたセイランは諦観しながら見ていた。
(5日…か。)
宮殿でゼフェルに抱かれた…と言うより、無理やり抱かせた、と言うべきだが…セイランの行為はリュミエールの知れるところとなった。

他の誰にも抱かれないように、とセイランに貞操帯をつけたリュミエール。
「約束を、守って頂けなかったのですね。」
哀しそうな顔でそう言ったリュミエール。
「約束を守れない子には、それ相応の罰を与えなければなりません。」
(……罰、か。いったいどういうことをするつもりだろう。)
「躾は、必要ですものね。」
(やっぱり、まずは拘束、かな。まさか、水責めとかはやらないよね。)
そんなことを考えているうちに、馬車はリュミエールの邸に着いた。


そしてそれは邸の大広間にぶら下がっていた。
白い絹のサッシュ。いったい全部で何十メートル…いや、百メートル以上ではないだろうか…その、白い布に巻かれてそれはぶら下がっている。
人である。白い首と僅かの肌と、癖のない髪が見える。呼吸のための鼻腔をのぞき、全てに白い布が巻かれた人の形。それから出ている布の端が天井の梁に何箇所か括られている。
それは時々びくびくと動き、生きた人間であることが察される。
両手は束ねられ、頭も口もぐるぐる巻きにされ、首を除いた体全体にしっかり巻きつく布。腰の部分も股間もしっかりときつめに巻かれ、両足は広げられて、そこから見える股間の布は分泌液で濡れ、大きな染みを作っている。


それを見上げているリュミエール。もちろん日中の執務にはきちんと出ている。
降ろされるのは一日一度だけ。食事と排泄を済ませ、再び吊り上げられる。
布にくるまれたセイランは、一日で完全に抵抗を止めた。普段は部屋は締め切って暗くされ、光も、音も入っては来ない。体は空に浮き、見る見る萎えていく。

四日目。
リュミエールはセイランを降ろすと、体じゅうから布を取り去って行く。
口の中一杯に詰められた布も唾液にまみれて取り出される。口は新鮮な空気を求めてか、ぱくぱくと動きはするが、声は出ない。
それからリュミエールはアヌスから太いバイブレーターを取り出す。
「ひああ…っ!」
降ろされてから初めてセイランが声を上げる。
それからペニスやその後ろに巻かれていた細い布も取り去る。
解放されたセイランのペニスがびくびく痙攣する。
「ああああ………っ!」
パンパンに怒張したそれは、しかしまだ達くことなくぴんと勃ち上がる。
やがて全身の布が取り去られ、リュミエールはセイランを優しく抱きかかえ、ソファに横たえる。
「ああ、う……あっ…」
セイランは体じゅうを赤紫に染め、全身は萎え、動くことも出来ない。
「さあ、セイラン。これであなたは私から離れることが出来ませんよ。……いっそ、このまま私の邸で飼いましょうか。可愛いセイラン?
さて、どうしましょうか?なにか、してほしいことはありますか?」
「あ、あ……リュ……ミ…エ……ル、さまっ……」
「はい。セイラン。良かった、私のことがおわかりになるんですね。」
「あ……あ、い……いっ……いかせ……てっ……」
「そうですか、では、ご自分でなさってください。お手伝いはしましょうね。」
そう言ってリュミエールはセイランの萎えて色の変わった手首を掴み、彼の股間に置いた。
「は……あ、あっ……リュミ…あ、いやッ……し…て…あな…たの…手……」
セイランは今、ほとんど手足の感覚はない。自慰するために、ペニスを掴む力などないのだ。セイランの顔が涙で濡れる。
「あ…い…や、いじ……わる…しない…でッ……」
セイランが全身の力を振り絞るように懇願する。
リュミエールは優しい微笑を浮かべたまま言い放つ。
「では、あなたはどうしますか? 約束することは、ないのですか?」
「ふ……あ、僕…は、もう…ああ…あなた…以外の…ひと…とは、し…ません…」
「しない?…なにを、ですか?」
「あ……セ……セッ…クス…あ、あ…早く…おねがいッ…」
リュミエールはセイランの股間を数回、強く扱いた。
「あ、ひぃ……っ、あぁぁ―――――――っ!!」
セイランの体は大きく震え、ソファの上で弓なりにしなる。
そして空中に精を放ち、がくりと落ちた。
意識を失ったセイランのやつれた頬を、リュミエールはいとおしそうに両手で挟み、軽く閉じた唇に口づけた。
「私の可愛いセイラン。もう、身も心もすべてわたしのもの…」


セイランは暖かいベッドで目覚めた。柔らかな日差しが頬に降り注ぐ。なんだか長い夢を見ていたような気がする。だが、次の瞬間からだを動かそうとして、『あれ』が夢でなかったということに気が付いた。
体が動かない。いや、拘束されているわけではない。だが、力が入らないのだ。体中の筋肉が萎えてしまっているのだろう。
「ああ、目が覚めたのですね。よく眠っていました。ご気分はいかがですか?」
リュミエールが小さな銀の盆を持ってはいって来た。
「リュミエール…さま…。」
「はい、セイラン。何か御用ですか。…ああ、でもその前にお食事をなさってください。あなたはあれから丸二日眠っていたのですから。」
そう言いながらリュミエールはセイランの上半身を起こし、枕元に自分が座ってから膝にセイランの頭を乗せる。そして、盆に乗っている器からスープを一匙すくい、セイランの口元に運ぶ。セイランは黙ってそのスープを飲み込んだ。そこそこ熱いスープの温度に、少し意識がはっきりして来る。
「リュミエールさま。僕は、もう学芸館には、戻ってはいけないのですか?」
このまま、この邸でリュミエールの愛玩動物として飼われなければならないのだろうか…そんな気がして、リュミエールに思わずそう尋ねた。
「ふふ、そんなことはありませんよ。もちろん、あなたが望むなら前の生活に戻っていただいて結構です。……だけど、もう…わかりますか?」
「他の男とは寝るな、…っておっしゃりたいんですね?約束できなければこのままずっと、あなたのペット、というわけだ。」
「……いいえ、あなたの好きにして下さって構いません。もちろんここでこのまま暮らすと言う選択肢もありますけれど…。」
リュミエールは微笑を絶やさぬままそう言った。セイランは驚きの表情を浮かべる。
「…何故、ですか?あんな…貞操帯まで着けたと言うのに?」
「……でも、あなたが約束を破るのはわかっていました。」
セイランは、その言葉にびくっとする。
(そうだ…。僕はきっと、誰かに…ゼフェルさまがいなければ他の誰かにナイフで切ってでも…あれを外してもらって、そして…)
誰かに抱かれたいのも確かだったが、それ以上に……。
「あなたは、私になにをされるか、期待していたのではないですか?」
「リュ…ミエール、さまっ…」
(そうだ、僕は…リュミエールさまの……折檻を…受けてみたかったのだ。)
「あなたは…あなたの体はもう、そうなってしまっているのですよ。責められなければ、苦痛を受けなければ…満足出来ない体に。」
「リュミエールさまっ……あっ…」
リュミエールはスープの匙をサイドテーブルに置くとセイランの股間を探った。
「ふふ。もう、こんなになっている。私の言葉に昂奮しましたか?あなたはもう、普通の行為では満足できなくなっている。あなたはもう、私でなければ駄目なのです。」
リュミエールはそう言うと、セイランのパジャマのズボンに手を差し入れる。膨らんだ股間の先からは、もう露が滲み出ていた。
「セイラン。私の可愛いひと。」
そう言うとリュミエールはセイランを膝に抱き上げて後ろから抱きすくめ、くちづけをする。右手は股間を、左手は胸をまさぐりながらちょうどセイランの足の谷間に位置する左足を上下に激しく揺らした。
「ああっ、ああ、いいっ、リュミエールさま、ああ、もっとぉ…」
リュミエールの左手が胸から滑り降りて来て背中にまわり、さらには双丘を押し分けて、アヌスに触る。そしてそのまま指を中に挿入して内壁を掻き回した。
「ひっ、ひああ、ああ、いい……ん…んん」
セイランは恍惚とした表情で腰を揺らす。たまらなく淫乱な顔がそこにあった。
「ふ、もっと……もっと、太いの、頂戴…っ、あっ、ああ」
リュミエールのものもまた、自分の揺らした足の刺激とセイランの表情と悦がり声で、既に勃起している。そしてズボンを脱がせたセイランを向かい合わせにして、足を二本とも肩に掛けさせた。それから彼の腰を高く持ち上げると、双丘を押し開いたまま自分の怒張したものめがけて降ろし一気に貫いた。
「ひいあああああ―――――――っ!!」
セイランが悲鳴を上げる。リュミエールはセイランの腰を持ち上げたり、降ろしたり、激しく挿入を繰り返した。流石のリュミエールも息が上がってくる。
「いい…でしょう、セイラン。こんな…あなたに、…こんなことを、してくれる人が…他に、いますか?」
「い、いません、あ、あなただけです…リュミエールさまっ…ひん、あはぁ、いい、いいです、ひぁ、もう…いっ……いくぅ……!」
セイランは背中を美しいアーチの形にしてオルガスムスに到達する。
次いでリュミエールも達し、セイランの中に射精した。
ベッドに倒れ伏す二人の結合部分から白濁した液が溢れ出す。
「あ、ああ、リュミ…エールさま…ああ…」
「セイラン…私の可愛いセイラン…」
そう、リュミエールの体もまた、セイランを必要としている。
いつまでも、傍に置いておきたい。
試験が終わったそのあとも……。

「愛していますよ、セイラン」
「僕も、です、リュミエールさま…っ」


それが本当に愛なのか、誰にもわからないけれど。



FIN


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