情報 後悔 公開。
オスカーはピンチだった
そして実は、オリヴィエも。
誰にも知られたくない情報はある。
酒を飲むと感度がよくなるとか、女好きで鳴らしているが実はたぶん男も嫌いではないような気がしたことがある、とか。
そして、…素顔とか。
「んっ……っ…ふ……う…」
オスカーの唇から切ない呻きが漏れる。
「……いいよ、オスカー。もっと、啼いてよ。」
オスカーの耳元で低い声がする。鼓膜に直接響くようなセクシー・ヴォイス。そして一緒に入ってくる熱い吐息。
「ふっ……んん…」
思わず身震いをする。背筋から尾骨にかけて、まるでその声と息で貫かれたような気がしたのだ。
「…そうそう。力抜いて…、ね、目を開けて私を見てよ。」
その声に、うっすらと氷蒼色の瞳を開くと、そこには少しシャギーの入った金の髪。
いつもの極楽鳥の羽根のような色は付いていない。そして、その顔にも。
「……素顔……なのか?」
オスカーに覆い被さるようなポーズのまま、その低い声の主、夢の守護聖オリヴィエは軽く微笑んだ。
「そっ……、特別にさ、あんたに私の本当の姿を見せてあげるよ。ふふふっ。」
オスカーが初めて見るオリヴィエの「本当の顔」であった。
「はあ……ん、なるほど。」
先ほどから熱心になにやら雑誌のようなものを読んでいたオリヴィエが、やっとそれから顔を上げ、そう言った。
「…何を読んでいるんだ?」
ちびちびと飲んでいたブランデーのグラスを置き、オスカーはそう尋ねた。
ここはオスカーの私邸。何とはなしに今夜はあんたんちに飲みに行っていい?と言うオリヴィエの提案により、こうして2人で飲んでいたのだ。
こんなことは別に珍しいことではない。まあ、月に一度や二度はあることだ。
ただ今夜はたまたまオスカーが徹夜明けで(仕事が片づかなかったようだ。)多少疲れていた。そんなこともあって、飲み始めたオスカーは寡黙で、オリヴィエも何となく話すこともなくなり、外界から取り寄せた総合誌、なるものを読んでいたのだ。
そしてなにやらそこに興味深い記事を見つけたらしく、それに没頭してしまったようだった。
「ああ、オスカー。起きた?」
「…別に寝てなんかいないぜ。」
「あらそう。あんまり静かだから寝てるのかと思ったよ。……酔ってる?」
「…いや、別に。」
「あらそう。」
オリヴィエは何か言いたげにオスカーを見回す。オスカーはソファに横になり、投げ出した足を肘掛けに乗せ、あまり行儀がいいとは言えない格好で酒を飲んでいた。
…彼がこんな格好で酒を飲む相手と言えばオリヴィエくらいしかいないのであるが。
オリヴィエの視線はオスカーの真っ赤な髪の先から、無造作に投げ出した靴を履いたままの爪先までを何度も舐めるように動く。
「……何なんだ。」
「……靴を脱ぎなよ。」
「………あ、ああ。すまない。」
オスカーは肘掛けから足を下ろし、ソファに腰掛け直した。
「いいから脱ぎなよ。……上着も。疲れてんでしょ?少し寝ちゃえば?」
「………いいのか?」
「なに言ってんの、構いやしないよ。少し経ったら起こしてあげるから、寝ちゃいな。」
オスカーはハァ、と溜息をつくと素直に上着と靴を脱ぎ、襟元を緩めるとソファに横になる。
「じゃあ、すまないが少し眠らせてもらう。二時間くらい経ったら起こしてくれ。」
「あいよ。」
そう言ってオリヴィエはオスカーを見る。オスカーは本当に疲れていたらしく、あっという間に寝息を立て始めた。オリヴィエは他のソファから膝掛けのようなものを取るとオスカーの体に掛け、再び雑誌を読み始めた。
オリヴィエが、再び没頭した雑誌の記事を読み終わり頭を上げると、オスカーはソファですっかり熟睡しているようだった。
オリヴィエはもう一度舐めるようにオスカーを眺め回す。
「ふう……ん…?」
本人は酔ってはいないと言ったが、オスカーは思ったほど酒が強いわけではない。見た目はしっかりしているようでも、いろいろなところにきちんと酒の効果が出ると言うことはオリヴィエはもちろん承知している。
「オスカー?」
オリヴィエは軽くオスカーの肩に触れて起こしてみた。……だが反応はない。本当によく眠っている。
「ふふ、本当に疲れてるんだねェ。」
オリヴィエはそのまま少し何か考えているようだった。
「さて、私はシャワーでも浴びるか。勝手知ったる何とやら、ってね。」
彼はそう言って立ち上がり一度、部屋から出て行った。
「……やっぱり、試してみたいよねェ。」
戻ってきたオリヴィエはそう呟くと、まずソファの背もたれを倒し、ベッドに広げる。そしてそっとオスカーのシャツのボタンに手をかけ、それを一つずつ外しはじめる。そしてすべて外すと、ズボンのベルトも緩める。
「……起きないよ、この人は。……いいのかなァ。」
そんなことを言いながら、思い切ってシャツの下の小さな突起に指を伸ばす。そしてそれを指で軽くまさぐる。
「…んん……ふっ……」
オスカーは小さくそんな声を漏らすと、少し寝返りを打つ。
「……目覚めない、か。」
オリヴィエは少し力を込めてそこを弄びはじめた。そして顔をオスカーに近づけると、首筋あたりにちろちろと舌を這わす。
「……ん…は……っ……ふ…あっ……」
オスカーの体がぴくりと揺れる。オリヴィエはその声にすっかり魅了されていた。
…そして、その表情にも。
「……ダメ、私もう、止まんないよ。」
そう言うとオリヴィエはオスカーの半開きの唇に自分の唇を重ね、その下を口腔に滑り込ませる。もちろん指はオスカーの裸の胸を這い回っている。
「…ん…んん……ふっ…んむ………んッ?……」
少しオスカーの声に変化があった。目が覚め始めたようである。しかしオリヴィエは構わずその指をどんどん下の方に進める。
「ん!……んん!…はっ……ッ…な、なんだ、やめ……あッ…!」
オスカーが目を覚ましその唇を離した。しかしすでに下腹部に達していたオリヴィエの指がついにその部分に触れ、オスカーの体が大きく震えた。
「あれ、お目覚めかな?…オスカーちゃん?」
オリヴィエはまるで動じず、オスカーの体から指を離そうとしない。
「オリ……やっ…ッ…やめッ…はッ…やめろ……ッ…あッ…!」
「あれあれ、…ふふ、体はやめろって言ってないぞ……ってヤツ?ほらほら、すっかり大きくなっちゃってるよ〜ん?」
そう言うとオリヴィエは下腹部をまさぐる手指に少し力を込める。
「はッ……やッ……やめ……くはッ……」
オスカーは白い頬を真っ赤に染め、確かに言葉とは裏腹に官能に身を置いている。
「あんたは酒が入るとすっごく感じやすくなるんじゃないかと思ってたけど、やっぱりそうなんだね。……ふふ、ちょっと私に任せてよ。すっごく気持ちよくさせてあげるからさ。」
「オリヴィ…エ…や…やめ…」
「そう?やめちゃうの?……じゃ、しょうがないっか。」
そう言うとオリヴィエはオスカーの体からぱっと手を離した。
いつの間にか軽くオリヴィエに抱きかかえられていたからだが、ぽすんと音を立ててソファに沈む。オスカーは大きく溜息をついて潤んだ目を開ける。
「オ…リヴィエ…貴様……ッ……んん…」
オスカーはなんだか様子がおかしい。口では怒っているような台詞を吐きながら、その頬は上気したまま、目は潤ませたまま、体も落ち着かないようにもぞもぞと動いている。
「んん……」
オリヴィエはそんなオスカーを面白そうに眺め、にやにやと笑う。
「どしたん?……オスカー、落ち着かなそうだねェ…」
オスカーは拳を握りしめ何かに耐えている様子である。股間はかなり膨らんだまま、両足をぴたりとくっつけて少し腰をよじっている。
「……ほら。」
そう言いながらオリヴィエの指がその場所を突く。
「はッ……!!…あッ…ぁ……ッ!」
「うわぉ!」
あまりの敏感な反応にむしろオリヴィエの方が驚いたようだ。オスカーはそのまま転がってソファに突っ伏し、腰を微かに動かしている。もう、刺激が欲しいのに耐えられないようだ。
「……ほらほら、無理しなさんなって。…大丈夫、悪いようにはしないから。それに、こんなこと口が裂けても誰にも言わないからさ、私に任せなさいって、ね?」
そう言うと、オリヴィエはオスカーの下腹部に再び手を差し入れ、根元の方を揉みしだき始める。そしてそれに反応したオスカーの声も更に色を帯び出したのだった。
「そっ……、特別にさ、あんたに私の本当の姿を見せてあげるよ。ふふふっ。」
オリヴィエはいつから素顔だったのだろう。オスカーは朦朧とした頭で考えたが、すぐにどうでもよくなった。金色の長い髪と青い瞳。もちろん色合いは違うものの、その姿はオスカーの心の多くを占める人物と重なるに十分だった。
そしてオスカーの鼻に淡い石けんの香りと共に決定的な何かが感じられた。
「は……ッ…ああ…」
この香りは……この、白い花を思わせるような優雅な……そして高貴な香り。
「…ス……さまッ…っ」
「…そう、あんたがこっそりシャワールームに隠していたジュリアスと同じ香りをね、つけてみたんだよ。ふふ、いい気分だろう?」
そう言いながらオリヴィエは小さな平べったいパッケージのようなものをつまみ上げた。
「…ちょっと待っててよ…、いま準備するからね。」
オリヴィエはその袋の口を開く。中から出てきたのは丸くて平べったい半透明の何か。
「私の爪、切るわけにはいかないからさ。これで勘弁してね。」
そしてその何かに二本の指をあてがい、丸まったそれの周囲を伸ばしてゆく。
「…二本じゃガバガバだねえ。でもいきなりこれ以上入れるのはナンだし、まあいいか。しかしさすがにオスカーの部屋だ。簡単にこれ、見つかっちゃったもんねえ。プレイボーイの心得ってヤツ?ま、よそに守護聖の子供出来ちゃったら一大事だしね。ふふ。」
そんなことを呟きつつ、オリヴィエはその薄いゴム製の何かに包まれた二本の指をオスカーの下腹部の最も底にある小さな孔にあてがったのだった。
「…ちょっと…痛いかも。ごめんねぇ。」
オリヴィエはゆっくりその孔を探りながらゴムをかぶせた爪の先をそっと差し入れ始めた。
「あッ……や…!…いた…ッ…は、やめ……ッ」
オスカーは初めて感じるその痛みに身を捩る。
「…これはあるのに、潤滑ゼリーとかは見つかんなかったのよね。まあ、彼女が十分濡れてからヤるって自信はあったんだろうけどねえ、あんたには。…取りあえずあんたの『ガマン汁』ってヤツ?…わっ、お下品〜…って、アレつけてみたんだけど、やっぱキツそうだねえ。まあすぐ気持ちよくなるはずだから我慢してくれる。男でしょ、なんちゃって、男だから痛いんだけどさ。」
「な……オリヴィ…やめ…あッ…ああッ…む、んん!」
オスカーの叫びはオリヴィエの空いている方の掌によって遮られる。その指は第一関節あたりまで入った。そしてその場所あたりで馴染ませるようにゆっくりと回転や上下運動を加えられていたが、なかなか抵抗はなくならない。オリヴィエは一度その指を抜いた。
ほんの僅かだが、出血もしているようだ。
「…あちゃ、やっぱ痛そう。なんか探してみるか……」
「あッ……は……ああ……はあ…オリヴィエ…ここに…」
そう言ってオスカーが何かを指さす。それはソファの隙間。
「…?…ここが何か……?…あッ!…この男は、こんなところにィ…」
それは掌に収まるくらいの小さな瓶。オリヴィエがその瓶のラベルを読み、ふたを開けて掌に向けて傾けると瓶の口から微かにピンク色をした透明な液体がつうっと滴り落ちた。
「ふう……ん?…なるほど、うまく行かなかったときの最終兵器か。してみるとあんた、このソファでヤることも考えていたわけだ。…まさか、ヤられるとは思ってなかっただろうけどさ、んっふふ〜〜。」
「う……うるさい。…さっさとヤれ。」
「いいの?」
オスカーは逃げようとはしなかった。どうしてだかわからないが観念していた。見たところまだ理性をなくしているようなことはない。オリヴィエは気になって思わず尋ねる。
「何が。」
「……ヤっちゃって、いいの?」
「……やめてくれと言えばやめるのか?」
「う〜ん、どうかなあ。」
「…俺はいま、途中でやめられても困る状態だ。……見ればわかるだろう。それに…自分で処理をするというのは……遣りきれん。…始めたからには最後まで責任を持て。…おまえなら……いい。」
「マジ?」
「……これ以上言わせるな。」
オスカーはそれきり黙って目をつぶって横たわっている。かなり頬が赤い。
「…了解。あんたの悪いようにはしないよ、たぶん。」
そう言うとオリヴィエは再び行為を開始した。
「ふ……んん……は…あ……ん…」
先ほどから小一時間にもなろうというのに、オスカーはまだ最初の絶頂も迎えていなかった。
屹立しかけたままのそれを傍目に、オスカーは快楽に身を置き続ける。その氷蒼色の瞳を潤ませ、視線を虚ろに投げたまま、小さく開いた唇からは、断続的に微かな喘ぎ声と銀の雫を零している。
「ふふ、あんた素質あるじゃない。……って言うか、私が巧かったのかな?…ちゃんと書いてあるとおりやったつもりだけど、最初からうまく感じるのは難しいっても書いてあったから…こんなにいい感じになってくれるなんて思わなかったよ。」
オスカーは聞こえているのかいないのか、その官能に満ちた表情に変化はない。
「はッ……うう…ふ……ッ…」
時々、体が小さく震えるが、オスカーは達することなく悶え続けている。
「……さすがに、指がダルくなってきたけど……どうしよッか。…入れても、イイ?」
答えはない。もう三十分くらい前から何を話しかけても返事らしきものはないのだ。
「…私もさ、ずっと前から準備オッケーなんだよね。…あんた、いいんだもん、いままでにつき合ったどんな女の子よりイイって感じ。…変かねぇ、こんなの。」
指の動きが止る。そしてそこからついに指が抜き取られ、オスカーがやっと反応した。オリヴィエの手首を掴んでいた手に少し力が籠もる。
「……ん…も………っと…」
「…あらあ、逝っちゃってるよ、この人は。…待ってて、いまもっと…太いの、入れてあげるからさ。あ、ちょっとこの手、借りるよ。」
そう言いながらオリヴィエはオスカーの空いた方の手を自分の股間に導く。そしてまだ完全に勃起していない自身に触れさせた。オスカーの手が反射的にそれを掴む。
「あッ……!…んん…ああ、イイよ、オスカー……って、ちょっと…強くない?…も、もっと優しく……はッ…はン…イイ…ちょっと…キツいけど……ああ、あ……もういい…って……」
十分にそれが硬くなったのを感じて、オリヴィエはオスカーの手をほどき、自身をオスカーの十分ほぐれた後孔にあてがう。
「行くよ、いいね……?……んん……ッ…」
オリヴィエがついに自身を挿入し始めた。
「はッ…!……ああッ…いッ……ひッ…あああ……ッ…!」
散々ほぐされたとはいえ、指二本分よりはるかに太く質量のあるそれは、さすがに簡単には入って行かない。それはかなり無理矢理と言った感じで、だが確実に後孔にゆっくりと飲み込まれていく。オスカーの体が苦痛と、それ以外の何かを感じて大きく震え、オリヴィエもあまりのきつさに歯を食いしばっている。
「…くッ…キツ……う…ああ…イイ…ね、すごく……イイ感じ。」
オリヴィエはそんな感じでゆっくりと自身をオスカーの体に完全に埋めると、オスカーの足を抱えるようにして、緩やかに動き始める。
「…どう?……イイ?…ああ、なんか、悪くなさそうだねえ。……ふふ、よかった。もう少し動くよ、ちょっと…ガマンしてよね…ッ…!」
オリヴィエはそのまま自身をオスカーから出し入れし始めた。最初はゆっくり、そして次第に激しく急速に…。それにつれて、オスカーの声も次第に違う色を帯び始めた。
「あ、ああ、……はッ……くはッ…ああ、…イイ……イイ…っ…も、も……ッ…」
もっと、と言いたいのか、もうダメ、と言いたいのかイマイチわからずにオリヴィエは思わずオスカーを渾身の力を込めて抱き上げる。そして膝の上に載せるようにして、オスカーに膝をつかせ、そのまま上下運動をさせるように導いた。
「ちょっと私、持久力に問題アリかねぇ。悪いけど、自分で動いて?…ああ、イイ…もう、…サイッコー……!」
「は、はぁ、……ああ、ああ、あッ…熱……ああ…う……ん…」
オスカーは、さすがにここまで感じ続けてかなり体力を消耗しているようで、オリヴィエの方に完全に凭れるようになりながら辛うじて必死に動いているらしい。
そしてその行為はオスカー自身をオリヴィエの体にこすりつけるような格好になり、それは二つの体の間でだんだん硬くなって行く。
「ああ、オスカー、あんたの……スゴ…硬くなってきたよ。……イイよ、イっても。ああ、私もなんか……イッちゃうかも……中で……イっても…イイ?」
オスカーはうっすらと目を開く。瞳に映るのは金の長い髪と青い瞳。そして薫るのは高貴なあの香り。目の前の人がが彼の人ではないことは自覚しているはずだった。だがやはり……。
オスカーはオリヴィエにも聞こえないような小さな声で、呪文のように呟く。
(…ジュリ…アス…さま……っ…あ…い…して…ます…あぁ…あな…たを…あ…ッ…)
「オスカー、私、も…っ、…イく……っ!…んんん…ッ」
「あ、ああ、俺ッ……も……ッ…オ、…リ…ヴィエッ……や…はぁ……ッ!!」
オリヴィエに抱きついたまま、オスカーの体が激しく震えた。
「…あ、あ…んッ…熱……熱い…熱…ん……ふ…」
オスカーがそう呟きながらオリヴィエの胸に沈み込んだ。その胸も肩も大きく波打って、全身が彼の体力の激しい消耗を表している。
「……ふう……はあ、は…、オスカー、お疲れ。……ね、大丈夫?生きてる?…と、あと、ゴメンね、中で出しちゃって……気持ち悪くない?…あ、抜くね、ちょっとガマンして?」
オリヴィエはオスカーの体内から自身を抜き取る。オスカーは再び小さく喘ぎながら体を震わせていた。そうしてオリヴィエの肩に頭を乗せたまま、ぐったりと目を閉じている。
「……オスカー?……イイよ、そのまま寝てなよ。私、体拭いておいてあげるからさ。あ、でも…ゴメン、ソファ汚しちゃったね。どうしよう、ね、ベッドまで歩ける?…ね、オスカー、聞こえる?」
「……いい、…この…まま、……寝かせて…くれ…。」
「ん、じゃあ、悪いけど……私も疲れたから、…隣のソファで、寝るね。…オヤスミ。」
オリヴィエはオスカーをそっとその場に横たえさっと体の汚れを拭く。そして上掛けを掛けると、自分は服を直して隣のソファに寝ころび、そしてすぐに寝息を立てた。
しばらくして、ソファの上でオスカーがふらふらと起きあがった。
「……好き勝手……しやがって……」
オスカーはやっとの思いで立ち上がると、隣のソファで寝ているオリヴィエを睨みつける。
だがオスカーの心の中は波立っている。
そうだ。オリヴィエは無茶をしたかもしれないが、決して無理強いはしていないのだ。
最終決定権はオスカーにあったはずだ。本気でやめろと言って、突っぱねることが出来たらオリヴィエはきっぱり悪戯?をやめただろう。
……だが……オスカーは…出来なかった。口ではやめろとは言ったつもりだ。だが心から拒否することは出来なかった。
オリヴィエの行為を甘んじて受け入れてしまったのだ。
どうして……?
快楽のため……?
あの人を思い出したから…?
それとも……?
オスカーには、わからなかった。
わかりたくないような気がした。
オスカーはよろけながらシャワールームに行こうとしたが、ふと気が付いたように部屋の隅の棚に近づいてあるものを取り、再びオリヴィエのところに戻って何か始めた。
そして気が済んだようににやりと笑うと、それを棚に戻し、シャワールームに入っていった。
オリヴィエが目覚めると、すでに朝になっていた。
「……あらオスカー、おはよう。」
「…何がおはようだ、極楽鳥。」
「あらら、怒ってる?」
「……別に。」
「ふうん……、まあ、いいけど。」
オリヴィエは起きあがって伸びをし、軽くストレッチをしながら立ち上がる。
「……朝ご飯、ご馳走になって、イイ?」
「…構わんよ。」
「……?……どうかした?」
「……別に。」
「……やっぱり怒ってない?」
「怒ってなんかいないさ。本当に。」
「…そっ。…ま、それにしてもあんたやっぱり体力はあるんだねぇ。あんなことの翌朝でよく腰に来ないもんだ。感心感心。」
「……くだらないことを言っていないで、顔を洗ってきたらどうだ?」
「あら、そうだよね。じゃ、ちょっとシャワー借りるよ。」
そう言ってシャワールームに急ぐオリヴィエを、オスカーは腰を押さえながら見送った。
(……腰に来てないって?…冗談じゃない、気力で持たせているだけだ。まったく、あいつは程度というものを知らんな。…今日が日の曜日で本当によかったぜ。)
「ところで。」
「ん?なあに、オスカー。」
「昨夜のことは、忘れろ。キッパリとな。」
「…は?……あ、ヤダねえ、誰にも言わないよ、私と、あんただけのヒ・ミ・ツ…ってね?」
オリヴィエはとぼけてウィンクをする。どうやらまた隙あらば狙って来そうなノリである。
「忘れるんだ。」
「…イヤだ、と言ったら?」
「おまえの素顔を全宇宙に配信してやる。」
「…………え………?????!」
「おまえの化粧していない寝顔の写真を、インターネットで公開するってことだ。…きっとゼフェルに頼めば大喜びでやってくれるに違いないぜ。」
「オスカー……あんた……ッ…!」
「おまえが昨夜のことを忘れれば俺も何もしない。約束しよう。どうだ、簡単だろう?」
「…フィルム、よこしなさいよ!」
「…デジカメだ。データの保存くらいは俺にも出来る。フロッピーにもコピーして隠した。全部のデータを削除するのはおまえ程度の知識では無理だろう。諦めるんだな。」
「……オスカー……。……ふふ、ヤルね、あんたも。」
「そうそうやられっぱなしと言うわけにはいかないからな。」
「ふふふふふふ。」
「はははははは。」
「わははははは。」
お互い、味のしない朝食が済むまで、ふたりは意味のない笑いを続けていた。
そう、背中に冷たい汗を感じながら。
終劇