Round.5 スペイングランプリ
30.May.1999 : サーキット・デ・カタロニア


◇予選グリッド

 名だたる中高速サーキットである、ここカタロニア・サーキットでは、最高速度に優れかつタイヤの磨耗が少ないマクラーレンが有利との見方が主流です。そして大方の予想を裏切らず、マクラーレン・ハッキネンがなんと開幕から連続5回目のポールポジションを奪います。そして2位にはフェラーリ。ですがここで番狂わせが起こります。2位はシューマッハー兄ではなく、何とアーバインが来るのです。今期アーバインがシューマッハー兄を予選で上回ったのは初で、しかも今期初のフロントローからのスタートとなります。3位にはマクラーレン・クルサードが、4位にはシューマッハー兄と、1〜4位はマクラーレンとフェラーリで分け合います。
 そして5位にはザウバーのアレジが来ます。アレジはここカタロニアサーキットを得意としており、ここ5年間でサードローを4回取得しているほど。もちろん今期のベストグリッドです。6位には、来期ホンダエンジンの獲得が決まったBARのビルヌーブが、7位には好調を持続しているスチュワート・バリチェロ、同様に好調のジョーダン・フレンツェンが8位と続きます。
 トンネルにどっぷり浸かっているのがベネトン・ブルツとウィリアムズ・ザナルディー。ともに8列目からのスタート(17位、18位)です。特にブルツの18位は、自己ワースト。今のベネトンの状態を考えると、ポイント圏内は難しいかも知れません。アロウズ・高木は僚友デ・ラ・ロサについで20位。非力なエンジンでは、中高速サーキットで上位車に付いていくのは難しいでしょう。


◇決勝

 今回はマクラーレン勢とフェラーリ勢が異なるタイヤのコンパウンドを選んでおり、より柔らかいコンパウンドを選んだフェラーリが、スタートでマクラーレンをパスできるかが大きなカギとなっています。と言うのも、タイヤに厳しいことで知られるカタロニアだけに、場合によってはフェラーリのピットストップの回数が、マクラーレンより1回多い3回で計画されている可能性があるからです。すなわちフェラーリが前に出て、ピットストップの回数分だけタイム差を稼がない限り、フェラーリには勝機がなくなるのです。
 その緊張の中、スタートが切られます。しかしここでフェラーリ・アーバインがスタートに失敗、マクラーレン・ハッキネンとクルサードに遅れてしまいます。しかもアーバインの後ろにいた僚友シューマッハー兄もそのとばっちりを受けて、マクラーレン勢についていくことができません。対称的に好スタートを切ったのは、6位のBAR・ビルヌーブ。クルサードの後に続いて、大外からフェラーリ勢をパス、第1コーナーで3位に躍り出ます。またプロスト・トゥルーリもスタートに成功、9位から6位へジャンプアップします。
 後方ではプロスト・パニスとミナルディー・ジェネがスタート出来ないトラブルに見舞われますが、その他はトラブルなくオープニングラップを終えます。
 思わぬスタート失敗でビルヌーブにまで先行されたシューマッハーですが、そのビルヌーブが邪魔でペースアップする事ができません。快調にトップを疾走するハッキネンに、2周目で4秒近く、3周目で5秒、4周目で7秒以上と1周につき1.5秒ほどのペースで離されてしまいます。
 このまま上位の順位変動がないまま周回が進み、18周目になるとピットに入ってくる車が出始めます。アロウズ・デ・ラ・ロサが第1号のピットイン。続いてスチュワート・ハーバート等がピット作業を行います。そして23周、ハッキネンがピットインします。マクラーレンクルーはハッキネンを6.8秒でレースに送り出します。このピット間にクルサードが暫定トップとなりますが、ハッキネンはシューマッハー兄の前でレースに復帰できます。24周目、このレース前半の山場、ビルヌーブとシューマッハー兄の3位を賭けた同時ピットインが起こります。軍配は7.4秒で作業を終えたシューマッハー兄に上がります。一方のビルヌーブは、ピット作業に手間取り9.2秒後にレースに復帰したものの、アーバインにまでかわされ5位までドロップダウンしてしまいます。
 ピット作業でミスを犯したのはBARだけでなく、マクラーレンもそうでした。クルサードのピット作業では、フロントタイヤの交換に手間取り12.8秒もの制止時間を献上したのです。それでも2位で復帰したクルサードでしたが、後方からは猛チャージをかけるシューマッハー兄が迫っています。ビルヌーブが後方に下がり、前方がクリアになったシューマッハー兄はファステストラップを連発、40周目にはクルサードとの差をわずか4秒強にまで詰めます。
 40周近くになると、そろそろトラブルを抱えた車が目立ち始めます。35周目、好調ジョーダン・フレンツェンがトラブル(エンジン?)でリタイヤ。40周にはハーバートもスローダウンしてしまいます。まだ同じ40周目、ビルヌーブがピットでトラブルに見舞われます。ダウンフォースを減らしてストレート速度を稼ごうと、リアウイングを外そうとしますが上手く外れません。しかも再スタートの時にはストール。どうもクラッチ系のトラブルが出たようで、ここでリタイヤとなってしまいます。
 シューマッハー兄は43周目に2回目のそして最後のピット作業を終えます。そして45周目、クルサードがピットイン。ここでマクラーレンは前回の汚名返上とばかりに7.4秒でクルサードを送り出します。そしてピットロードエンド。辛うじてクルサードはシューマッハー兄の前に出ることに成功するのです。1コーナーで前をとったクルサードでしたが、タイヤの温度が上がりきらないため激しくシューマッハー兄に攻められます。しかし1周を終えタイヤが暖まるとともに、じわりじわりと差が開いていきます。
 結局、最終10周で周回遅れの3台、6位争いをしているプロスト・トゥルーリ、スチュワート・バリチェロ、ジョーダン・ヒルに行く手を阻まれ、シューマッハー兄との差を詰められますが、クルサードが2位を死守し、今期初のマクラーレンの2台そろっての完走を1-2フィニッシュで決めます。3-4位にはシューマッハー兄とアーバインのフェラーリ勢が、5位にはウィリアムズのシューマッハー弟が入ります。6位には終盤の攻防を防ぎきったトゥルーリが、惜しくもポイントは逃しましたが7位ヒル、8位バリチェロと続きました。アロウズ・高木は13位完走でした。


◇感想

 ハッキネンが優勝し、クルサードが2位。どうにかフェラーリの独走に待ったをかけた状態です。コンストラクターズのポイントではフェラーリ51に対し、マクラーレン36とまだ水を開けられていますが、ドライバーズポイントではシューマッハー兄30ポイントに対し、ハッキネン24ポイントと6ポイント差にまで詰め寄っています。
 この勝利がよほど大きかったらしく、トップ3の記者会見中にハッキネンは冗談を言うほどの余裕を見せました。確かに速度ではフェラーリに数段勝り、しかも今レースでは課題の信頼性に関しても文句なしでしたから。
 ですが次戦カナダでは、フェラーリが新型エンジンを投入する予定であり、まだまだマクラーレンが優位に立ったとは言い切れません。またカナダは調子が上向いてきたビルヌーブのホームグランプリであり、BARのパフォーマンスにも期待が持てます。
 連続ポイントゲットが途絶えたジョーダンですが、ヒルが決して得意は言えないこのサーキットで、ねばり強い走りを見せポイントまで後一歩と迫ったことは評価に値するでしょう。5戦まで終えて、ジョーダンとスチュワートの強さは、いよいよ本物になってきています。


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