時代に背いた勇者達
〜 巡洋戦艦リライアント 〜


 日本の仮想戦記小説は、そのほとんどが戦史の流れを追う形式で物語が進んでいきます。そのため個人の役割が非常に限定されていることが多いのも確かです。作戦を指揮する指令官等の上級将校の説明は多々あるのに、佐官・尉官・兵士の姿がぼやけている、言い換えればそれらの兵隊の存在が薄いと感じます。作品によっては外伝等で兵から見た戦争を記述しているのもありますが、本伝では触れられることがほとんどありません。
 その点、海洋冒険小説の巨匠ダグラス・リーマンが描く物語は、人物の描写が中心となっています。紹介する「巡洋戦艦リライアント」もそう言った人間ロマンあふれる物語です。
 本書は第2次大戦下のイギリス海軍を舞台に、巡洋戦艦リライアントに乗り組む人々を描いたフィクションです。リライアントという艦は実際には存在しませんでしたが、「ロイヤル・ソヴリン」級巡洋戦艦の1隻(マレー沖でプリンス・オブ・ウエールズと共に力尽きたレパルスや地中海で活躍したリナウンと同型艦)として登場します。このリライアントに乗り組む乗員の活躍と葛藤を、艦長のシャーブルック大佐やパイロットのレイナー大尉、艦隊司令官のスタッグ少将を中心に描いています。物語終盤のリライアントと伊戦艦チベリオ(おそらく架空艦。主砲の門数と口径からリットリオ級と思われる)の戦いも迫力ありますが、シャーブルック艦長とメヒュー夫人の、レイナー大尉と看護婦アンディの恋の行方もそれに劣らず書き込まれています。個人的に、撃墜され顔を失ったパイロットとレイナー大尉との会話、そしてその後のレイナー大尉の独り言「忘れないよ。うしろに気をつける、ぼくたち二人のために」のくだりが大好きな場面です。
 こういう書き方ができるのも、2次大戦の史実をバックボーンに持っているため、必要以上に歴史と場面の説明を要しないためと思われます。日本でも例えばソロモン海での戦闘(ネズミ輸送)等、同様のフィクションが入り込む余地があるのですが、作品が少ないのが現状です。
 かつて海上で最も美しい艦と呼ばれた巡洋戦艦。戦艦の攻撃力と巡洋艦の機動力を兼ね備えた、洋上の貴公子。旧日本海軍の「金剛」級高速戦艦、大英帝国の「ロイヤル・ソヴリン」級巡洋戦艦、独海軍の「シャルンホルスト」級戦艦、計画だけに終わった米海軍の「レキシントン」級巡洋戦艦、列国の巡洋戦艦は皆美しいまでの機能美を兼ね備えていました。そしてその防御力の欠如から、歴史の舞台から退くを得なかった巨艦達。彼女らのつかの間の栄光に思いをはせるのも、秋の夜長の過ごし方でしょう。


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