サテライト


口は災いの元だと、恭四郎(きょうしろう)は 思った。

***

1月2日。世の中はまだ「お正月休み」である時期に、 高校3年生の恭四郎は、塾に来ていた。

彼は、かなり頭が良い。成績はトップクラスだ。
はっきりいって、塾になど行く必要性はないのだが、 念の為・・・というか、周りみんなが塾に通っているので、 つられて、ここに来ている。

今、彼は塾のペーパーテストを全て記入し終え、 見直しもし、退室時間まではまだあるなぁ、と思って いるところだ。
シャーペンをくるくる回して、窓から外をぼんやり眺めて から、恭四郎はつぶやいた。

「ヒマだな・・・・。」

それは、彼の人生の中で最大の後悔を生む言葉になる。

***

ピカっ、と目の前が光って、気がついたら、宙に浮いていた。

「??????!!!」

何が起こったのか分からず、下を見て、わぁ〜〜〜〜〜と 思ったが、足元に透明な「板」がひいてあるのと同じ状態 らしく、下降はしない。
左右を見渡すと、自分と同じく、驚いた表情の人間が、4人 いた。

1人は自分と同じくらいの歳の女で、1人は小学生だと思われる 女の子。1人はサラリーマン風の男性で、1人はOL風の女性だった。

彼らに話しかけようと思ったのもつかの間、天から、声がした。
「諸君!君たちには大きな使命がある!」
いきなり何だ、と恭四郎は思った。声の主の正体を知りたかった が、自分が聞く前に、同世代の女が言った。
「って、突然こんな目にあわせて、アンタは何者なのよ!」

かなりきつい口調で、その女は言った。きっと元から性格も キツイんだろうな、と恭四郎は思った。
黒い髪を長く伸ばしたその女は、制服は自分の学校とは 違うが、よく見ると、会ったのは初めてでないと分かる。
どこで会ったんだかな・・・と、恭四郎は考えた。
その後、サラリーマン風の男性が言った。

「あ、あの、使命とは何だか分かりませんが・・・、
僕を、元の場所に戻してくれませんか?会社に、遅れて しまう・・・!」
それを聞いて、小学生の女の子も言った。
「アタシも〜、ダンス教室に遅れちゃうなぁ。センセ、 怒るとコワイんだよー?」

しかし「天の声」の人物は、そんなことはおかまいなしに、 勝手に話を続けた。
「君達には使命がある!地球征服をたくらむ悪の組織、 ダークネプチューン団から、この星を守らなければならない のだ〜!!」

ダークネプチューン団って何だよ、と恭四郎はつぶやいた。
割と近くにいる、小学生の女の子に話しかけてみる。

「今テレビでやってんのって、敵は、そういう名前なのか?」
「ううん、違うよ。’××戦隊○○○ジャー’の敵の名前は、 △△△△。」
「へぇ、そうか。・・・・お前、名前は?俺、恭四郎。」
「アタシ、森 なずな〜。」
「なずな、か。やっぱ今の子供の名前は変わってんなぁ。」

恭四郎となずなは、「天の声」の人物を無視して、勝手に なごんでいた。ダンス習ってんのか?と聞いたり、お兄ちゃんは 冬休みなのに制服着て、学校なの?と尋ねたり。
無視されたのに腹を立てたのか、「天の声」は言った。

「ティタニアレッド、無駄話をするんじゃない!」

・・・・レッド?俺か?と、恭四郎は思った。そういや「戦隊モノ」の リーダーといえば、赤に決まってんもんな〜、と彼は思う。
待てよ、5人戦隊だとしたら、男2:女3とは、また画期的だな、と ひとごとのように思う。
反論しようとしたところに、OL風の女性が口を挟んだ。
「高校生のキミ、こういう時は逆らわないで、相手の話を 聞いた方が良いのよ?」

あぁ、確かに、と恭四郎は思った。
大人のいうことは聞いておくもんだねぇ、と内心つぶやく。

***

エイプリルフールにはまだ早いぜ、と恭四郎は思った。



「・・・あ〜、まぁとりあえず、自己紹介ってことで・・・。」

「天の声」からリーダーに決められた恭四郎は、そのように 切り出した。
5人は今、知らない公園にいる。空中を浮いていたと思ったら、 勝手な地点に下ろされたようだ。
しかし塾でテストを受けていた恭四郎にとっては、えらい迷惑だ。
それは、ほかの4人にも言えることだったが。

5人は円陣を組んでいるので、とりあえず恭四郎から始まって、 右回りに「挨拶」は進んだ。

「俺は恭四郎。高3。」
「アタシ、なずな〜。小学校5年生。」と少女。
「・・・静一(せいいち)です。29です。」とサラリーマン風の男。
「私は、恵子(けいこ)。よろしく。」とOL風の女性。

「名前」だけで「周る」のは、最初の人間につられているから らしい。
最後に、黙っている、愛想の悪い高校生の女を、皆で眺めた。
黒い長い髪の彼女は、言った。

「芹沢(せりざわ)ハルカ。・・・高2。」

その名前を聞いて、大人3人(この場合恭四郎含む)は あぁ〜、とつぶやいた。ハルカと同年代の男は、言った。

「アンタ、どっかで見た顔だと思ったら、あの芹沢 ハルカか〜。全国大会で優勝してる、剣道の?」
「あぁ、そういえば、夕方のローカルニュースによく出てます よね。」と静一。
「やっぱり普段は、普通のお嬢サンなのねぇ。」と恵子。

別に、よく、は出てないわよ、とハルカは言った。
「私のことはどうでもいいでしょ?それより・・・
私たちは‘どうする‘べきなのかしら?」

突然知らないところに飛ばされて、
話を聞けば、悪の組織から平和を守るため戦わなくては ならないらしい。
正月から(今日は1月2日だ)忙しいもんだな、と 恭四郎はひとり嘲笑する。彼は、ふいに聞いた。

「正月だってのに、皆はどこに行くところだったんだ?」

アタシはダンス教室だよ、となずなは答えた。
私は稽古・・・とハルカは答える。無論、剣道の稽古だろう。
私は買い物よ、と恵子は答えた。
最後に、「僕は仕事です。」と静一が答えた。

正月だってのに、仕事、それはゴクロウサマデス、と 言って、恭四郎は礼をする。
いえいえ、と静一。
どうやら男性2人は気が合うらしい。

「本当、どうすればいいのかしらね。」と恵子はつぶやいた。
他の4人も、先ほどの「天の声」の話の内容を思い出す。

5人は、平和を守る正義の騎士「サテライターズ」である らしい。リーダーは、レッドの恭四郎。
他のメンバーの色は、ハルカがブルーでなずながイエロー、 静一がブラックで、恵子がホワイトであるようだ。
色の前に、何とかいう言葉がついていたが、聞き逃している。
(後で、衛星の名前だと気づくのだが)
「天の声」は、戦うために5人に特殊能力を与えたらしいが、

「地球の将来より、1週間後の大会の方が気になってるのよ」と ハルカ。
あぁ、もっともだと恭四郎は思った。

「天の声」自身は、自分を「海王星人」だと称している。
「かいおうせいに、人間って住んでるの?」と、なずなは静一の顔を見上げて、聞いた。
「うーん、住んでないと思うんだけどね。」と静一。

腕を組んで、恭四郎は思った。
mad magicianマッドマジシャンってトコか。
海王星人だか奇術師だか知らないが、俺たちが言うこと聞くと思ったら、大間違いだぜ?」

                            つづく>>>


「創  作」
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