銀の盃 27


質問ばかりしているシルバーに向けて、今度は副官の彼が、声をかけた。
「ところで、隊長。」
何だ、と当たり前のように返すと、リッテルは言った。

「大した怪我では無いのですから、早く退院の手続きをし、詰所に戻り、 こちらを手伝って下さい。」

彼が言うとおり、シルバーの火傷は頬に少しあるくらいで、手足は無事であった。
それは、憲兵隊の制服が特殊な素材で作られている為、シルバーの身体を燃やすに、至っていないからだった。
燃えたのは、髪と、髪を縛っていた包帯くらいで、この憲兵が寝ていたのは、ショック性のものである。

実のところ、リッテルは心配だった。
火傷が本当に些細なもので、そのうち絶対目が覚めると言われていても、心配だった。
精神が逆に高揚して、3日間寝ずに、ずっと起きて仕事をしていたくらい、隊長の事を、気にかけていた。

但し、彼の人が目覚め、すぐ横にある無線機で連絡をしてきた際には、こう言おうと思っていたのだ。
早く戻ってきて、仕事を手伝えと。
冷酷ともいえる台詞だが、そんな皮肉を言わないと、泣いてしまいそうだったから。
そして、憲兵という職務に誇りを持っているシルバーには、そんな発破(はっぱ)が有効だと考えたから。


仕事に来いと言われたシルバーは、しばらく黙ってから小さく頷き、
無線機を切った。
そして、ベッドから出た。
彼に言われた通り、早く職務に戻らなくては。
自分の真面目な副官は、この数日、休みも取らずに働きづめでいたに、決まっているから。
己の足で歩き、病院を出て行く。病院のスタッフには、後で連絡すればいいと思った。
燃えてなくなった分、後頭部が軽く、それが妙に爽快だった。

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「創  作」
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