ミシンとドラゴンと俺

ソウマ・エルイル・グレイ、それが俺の名前だ。
身長は198cm、体重は、最近計ったことねぇ・・・110kgくらいか?歳は38。
服の仕立て屋をしている。頼まれたら、猫耳だろうがメイド服 だろうが、作る自信がある。

そんなことはどうでもいい。

俺は今、シチューを作っている。
俺は(自分でいうのも何だが)結構いい歳して、独身だ。
だから炊事・洗濯・掃除その他全部、自分でやってる。
まぁ、裁縫は仕事だから、苦にはならねぇんだが。

俺の後ろに、気配がする。
俺はそれが気にくわねぇ。
「気」を殺して、立ってやがるからだ。
俺は振りかえらずに、言った。
「俺の後ろに立つなって、言っただろ?!」
すると後ろから、こう返ってきた。
「分かった?気配消してたつもりだったんだけど。」
今しゃべってんのは、俺の子供だ。
子供って言っても、血は繋がってねぇ。
事情があって引き取ってる、養子の子供だ。性別は男。

単に「子供」だったら、よかったんだけどな。

俺がやつ・・・子供の名前は‘ザギ‘と言うんだが・・・
ザギに初めて会った時、やつは「1歳半」だった。
あれから4年経ったから、俺は4歳年をとり、 ザギは6歳になっている。
180cmあるんだよな、背が。
いや、話が先に行きすぎたな。
俺は別に、背が高かろうが低かろうが、構わねぇんだ。
俺も、ひとより背が高いしな。
やつの頭が子供なのが、やっかいなんだ。

ザギは「竜族」という、人間より早く成長する種族なんだが、 今、やつは、身長が180cmに対し、頭のほうは12歳くらいだ。
アンバランスなんだな、体と精神が。
こどもだから、話が通じないところもある。
もう過去の話だが、ザギが俺の「嫁さんになりたい」と言って、
女性体に変化したことがある。戻ったけどな。
俺はザギが男だろうが女だろうが、手ェ出すつもりは全くなかったから、 拒絶した。
そしたら、ザギのやつ怒りやがってな。
俺、一回やつに殺されてるんだ。
運良く、助けてくれた人間がいたから、俺は今こうして 生きてるんだが、まぁ、竜ってのは随分独占欲の強いもんだと 思った。


「ソウマ?」
禁止してんのに、ザギの野郎は、やっぱり俺の後ろに立っている。
構うと調子にのるから、俺は無視して、鍋の中を覗いていた。
「・・・っ!」
やめろ、と俺は肘打ちをして、相手を離そうとする。
ザギのやつが、後ろから俺を抱きしめるからだ。
俺の胸に手を回して、「子供」は言う。
「・・・・・感じる?」
「感じねぇよ。」
俺は即答した。
ったく、昼間からこいつは何やってんだ?何度注意しても、聞きやしねぇ。
俺の教育が悪かったのか?と4年間を振り返ってみたりする。
ザギは、偏愛者だ。
はやい話、俺に惚れてるんだな。
さっきも説明したが、女になって俺を誘ってみたけど、うまくいかなかった もんだから、違う手に出てるわけだ。

ザギはこうして、俺にちょっかいかけてくるだけではない。
何だ、その・・・正直言うと、
面倒くさかったんだ、俺は。
俺は、わりと力がある。だから、抵抗すりゃあ、したになるんだろうが、 面倒くさかったんだ。
だから、ザギに体だけ、やった。
次の日、体が重てぇから嫌だ、と俺が言うと、
「オレ、反対側でもかまわないよ?」とやつは言うんだが、
誰がすき好んで、自分の子供抱くか。
親と子供がどうこうすることについて、倫理上の問題をといて みたんだが、所詮やつは「こども」だ。
納得するわけがねぇ。
やつにとっちゃ、「ソウマ大好き!」の一言で片付くんだろう。
汚れもの、洗うのは誰だと思ってんだよ?

ザギは、以前として俺の体をまざぐっているから、
もう言うのも面倒くせぇなと思って、そのままの状態で、 俺は鍋からアクをとる。
俺はこれを3日食べる気でいるので、美味く作る必要性が あるんだ。
やったことがある人間なら分かると思うが、「1人前」のメシを 作るのは、案外大変だ。ザギのやつは「竜」だから、人間の メシは食わねぇ。
「ねぇー、ソウマ、今晩ヒマ?」
「晩は、×××さんのスラックス直さねぇといけないから、 ヒマじゃねぇ。」
「・・・・・・・しようよ。」
俺の予定なんてお前の発言に、全く関係ないんじゃねぇか。
聞いておいて、俺がヒマじゃねぇって答えたのに、しようよ、とは 何事だよ?
したくないんだよ、俺は。

あー、ちくしょう、ザギのやつが話しかけるから、 野菜が煮えすぎちまったじゃねぇか。
あぁ、嫁さんがいたらなぁ、と思う。

***

こうるさいザギが、俺の唯一の家族だが、俺の周りには、
もう1人、こうるさいやつがいる。
そのうち現れるだろう。呼んでねぇのにな。
ザギがあまりにもしつこいので、俺は、<呪縛バインド> と唱えた。

これは「呪文」だ。魔法ってやつだ。ちなみに<土=黒>の 属性の、中級の魔法。
俺は、必要に迫られて魔法を覚えたんだが、こんな一文にも ならねぇもの、最近は流行らねぇ。
作った人間も、こんなことに使用されて、悲しいだろうな。
ザギはしばらく金縛りのような状態におちいり、その隙に、 俺は体を離す。
「何・・・やってるのよ。」
そういう声がした。あぁ、来たぜ、うるさいのが。
その女は亜麻色の髪をしている。瞳は緑色だ。
この国の女にしては、背が高い。ザギより高ぇからな。
ぱっと見、職業が何だかわからない格好をしている。
・・・俺は知ってるけどな。
その女、クラウスは言った。
「そのコ、何で固まってんの?バインドかけられたみたいに。」
「かけたんだよ、俺が。」
そう俺は答えた。
「家の中で呪文使うなんて、非常識にもほどがない?」
そういう、女。
「しょうがねぇだろ、襲われそうだったんだから。」と俺。
「・・・・・・/////。」
やつは歳に似合わず、顔を赤くした。
クラウスは俺の5歳年下だから、今、33歳だ。
明確に言わねぇけどな、やっぱ女だから。
初めに見た時、やつはただの小娘ガキだったんだが、
・・・18だったか、あの時?・・・俺は内心、‘いい女になったじゃ ねぇか‘と思っている。
直接は、口が裂けても言わねぇけどな。

「あんたさぁ・・・。」
クラウスはそう切り出したが、途中で口ごもった。
俺が思うに、この女は俺を、同性愛者だと勘違いしている。
俺は全く、男なんかに興味はねぇよ。
だが、クラウスは何故かそう思いこんでいるので、 俺を「まっとうな道に進ませなければ」と思っている。
そう、日々努力しているようだ。俺の家に上がりこんでくるだけだが。
こいつが来るのは別に嫌じゃねぇから、放っておいてある。
こいつとザギが結婚してくれれば、俺の悩みは一挙に2つ、 解決するんだがなぁ。
残念なことに、この女が惚れてるのも、俺だし。
・・・・・・・自惚れてるわけじゃねぇぞ?

俺は、クラウスの手元を見て、その手に何も飾りがないのを 見て、言った。
「してねぇんだな、指輪。」
それを聞いたやつは、ちょっと動揺してから、‘してないわよ‘と 答えた。
俺は以前、この女に借りを作って、その礼に、安物の銀の指輪を やったんだ。安物だが、俺の母親の形見なんだがな。
(なくすと嫌だから、チェーンに通して首から下げてるんだけど、 してた方が、よかったかしら)
クラウスは何か考えているみてぇだが、俺は、ザギにかけた 呪文がそろそろ解けるから、その前に避難をする。
机に置いてある、×××さんのスラックスとアイロンを取って、 2階にあがった。

                           2に続く>>>

<<<創作ページ
<<<サイトTOP