ミシンとドラゴンと俺 4

俺は、ひとりで宿に向かった。
あっちの2人のことなんぞ、知らねぇ。
じっくり考えるために、ひとりになりたかったのに、
・・・・・・・・・・・・ザギのやつが、来やがった。
宿屋の扉に、魔法でロックかけるわけにもいかねぇから、 普通の状態、つまり「開く」ようになってたんだが、 来るか、こんな時に。
いや、こんな時と思ってるのは俺だけだから、意味ねぇか。
廊下で叫ばれるのも何だから、中に入れて、 俺は、扉に鍵をかける。
いつも思うんだが、妙な行動だな。

この宿屋の壁は厚いのか?
声が漏れなきゃいいけどなぁ。

体はでかくなったくせに、精神は子供のままのザギは、 「オレを見てよ」と言う。
見てるだろ、いつも。存分に見てるはずだと思うがな?
「オレを愛してよ」とザギは言う。
愛してるよ。息子として十分、な。分からねぇのか?
どうして理解してくれないんだよ、てめーは。
同じ事を、ザギも俺に言う。
「ソウマは、分かってないんだ!」

「どうして、オレを見てくれないんだよ・・・・っ!」
そう言って、ザギは泣く。
すぐ泣くよな、お前。泣き虫オトコめ。
泣きながら、俺の胸元をつかんで、揺さぶって、叫ぶ。
「いつもいつも、オレは目の前にいるのに、 どんな時だって、ソウマはオレを見ていない!」
そうか?もう、よく分かんねぇよ。
ぽろぽろ、涙をこぼしながら、泣きながら、
ザギは、俺を抱く。
何の意味があんだろうな、その行為に。
せめて声でもあげてやれば、こいつは喜んだりするのかねぇ。

           * * * *

腰が痛ぇ。
本当はもっと下の方が痛いんだが、具体的に言うと 嫌な気分になるから、腰ってことにしておく。
商売道具の裁縫箱を取り出して、服を縫っていると、 クラウスのやつが現れた。
この部屋は無法地帯か?
この女も、男の部屋にずかずか1人であがってきて、 何かあるかも、とは思ってねぇのか?
無視して裁縫を続けていると、クラウスは言った。
「竜くさいわね。」
それは、至極当たり前なことだな。
昨日、というか今日の朝まで、竜がいたんだし。
ちなみに竜の匂いってのは、甘い、砂糖の匂いだ。
俺は返事をせずに、破れた自分の服を縫っていた。
「何か、あったの?」
そう、クラウスは聞いてきた。普段「しゃべり」な俺が、 黙ってるからだろうな。俺は、言った。
「別に。昨日、カマ掘られただけ。」
「かっ・・・・!/////」
「てめーまで、声に出して言うなよ。恥ずかしいだろうが。」
「あっ、アンタたちはそんな関係なの!?」
クラウスは、でかい声で聞く。元気なやつだな。

***

あきれたことに、この女は、俺を同性愛者だと誤解している わりには、ザギとやってることに対して、驚きやがる。
ふぅとひとつ息をついて、俺は裁縫を続けた。

今縫ってるのは、俺が昨日着てた服だ。
これ、気に入ってんのに、ザギの野郎が破きやがった。
あいつはいつも、俺の服を破くんだよなぁ。
そりゃあ俺は、自ら進んで服を脱いだことはないけどよ。
破くことはねぇじゃねえか。
クラウスが何やら、だんだんと床をならしているので、 俺は顔をあげる。
あーあー、眉間に皺なんか寄せちまって。
割と綺麗な顔なのに、もったいねぇな。
「あっ、あんたねっ!」とクラウス。
「・・・何だよ?」と俺。
「親子でそんなことしてて、良いと思ってんの?!」
「好きでやってるわけじゃねえ!!」

・・・・・・・・・しまった。大声を出してしまった。
クラウスのやつにあたってどうするんだ。子供みてぇだな、俺。
すまねぇ、と軽く謝ると、クラウスも、あー、と意味不明な 声を出した。
今の大声、他人には、ただの痴話ゲンカに聞こえてりゃあいいけどな。

何やってんだろうな、俺たちは。
話を混ぜ返して、進みもしない問題を考えて。
無駄だろ、無駄。
時間ってのは、金で買えない貴重なもんなんだぞ?
確かに、クラウスの言う通り、今の状態は間違ってる。
それは、俺も分かってんだよ。
だから、それの打開策を考えようと、遠いここまで来てんだろうが。

結果がどうあれ、少しは変わるはずだ。
俺が何かになるのか。
ザギが何かになるのか。
知らねぇけど、あのエライ神官長さんが、どーにかしてくれるんだろ。
あのひとにも望みがあって。
出来ればどうにかしてやりてぇけど、力不足かもな。
俺は多くを望んでるか?
仕立て屋として生き、頼まれた竜の子供の世話をして・・・。
何がいけないんだろうな。

俺が昔、多くの罪をおかしたからか。
そうかもな。だから、俺には未来がねぇのかもな。
俺は13の時、初めてひとを好きになったが、その相手を、 自分で殺した。



やむを得ない、って言うんだろうかねぇ。確かに、相手は「大暴れ」 して、町じゅう破壊してたけどよ。
彼女はなぁ、年上の、綺麗な女だったんだ。種族は竜でな。
囚われの身だったんだが、俺が彼女にいれこんで、彼女を逃がし たんだ。若かったんだな、俺。
自由になった女は、復讐心に燃えて、残虐の限り。
俺はまんまと利用されたわけだ。賢い種族だな。

今なら笑って話せるが、当時は結構ショックだったんだぜ?
彼女を殺した俺には、呪いがついてまわって。
それで俺は、ふらふら、血を求めて、さ迷った。
別に時効になってねぇから、そうだな、つかまったら俺は、 2000年くらい牢に入ってなきゃいけない計算になるだろうな。
警察っていうか、騎士っていうか、
ともかく、「悪いやつ」をつかまえるトコに顔がきくやつが、 俺を逃がす代わりに、交換条件を持ち出した。
それが、みなしごのザギを引きとるってことだ。
当時は、普通の子供だったからなぁ、あいつ。
「ソウマは、ザギくらいの年齢の子供がいても、おかしくない 歳だろ?」って、そいつは言ってたな。

未来、こういう展開になるって知らねぇもんな。
彼に罪はねぇんだよな。
考え事してたら、余計なところまで縫ってしまったぜ。
裁縫は終わりにして、そろそろ答えを出しにいこうかねぇ。

                           5へ続く>>>

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