ミシンとドラゴンと俺 5

改めて会った神官長さんは、ポケットから手を出していた。
で、その手には包帯がぐるぐる巻かれていて、指先が ぱちぱち火花みてぇなもんを飛ばしてたから、 俺は服の繊維同士の相性が悪いんじゃねぇかと思ったんだが、 違ったらしい。
あれは魔力が漏れてるんだそうだ。だから普段、手突っ込んで るんだそうで。
まぁ、そういう魔とか何だとかいう生活にも、うまくいけば おさらばってわけだから(この人は、な)嬉しそうだ、彼は。

俺は、彼に導かれて、ある部屋に移動した。
そこは、神官が結界を張っている「そのもの」の部屋だった。
別に、おどろおどろしいもんが飾ってあるわけじゃねぇ。
何もないがらんとした部屋で、真中に・・・何ていうんだコレ、 オブジェってやつか?・・・球体が、檻のなかに入っている 置きものが置いてあった。


この丸っこいやつが、現在、この国に結界を張っている「源」らしい。
これを守るのが、神官の役目で、つまり、神官長の彼は これがあるから、ここにしばられているわけだ。
・・・・壊してしまえばいいんじゃねぇか。
構わないんじゃねえの?今どき誰も、この国なんか、狙っちゃいねぇよ。
破壊しちまえば、少なくとも1人は幸せになんだろ。
まぁ、その瞬間、国全体がつぶれるっていう可能性も、なくは ないけどよ。
それにしても、こんなもんでこの国は守られてるんだな、驚きだな。
さて・・・

神官長さんがこれを俺に見せたってことは、これを守る役目の 神官になるかって、俺に聞いてるってことだよな?
いや、見せられても気持ちは全く変わんねぇんだけどよ。
こんなちっぽけなもん守るのに、それこそ「人生捨てる」のは、 今の生活より嫌だな。
ちょっと気になる点があって、俺は彼に尋ねてみる。
「なぁ、これ、・・・・・動かせるのか、ここから?」
すると相手は目を見開いて、言った。
「動かす?!・・・・いえ、やってみたことがないので、何とも・・・。」
何だ、長いこと神官やってるのに、動かしてみたことも ねぇのか。
動かしてもいいんだったら、ほれ、持ち運ぶなりして、それの 「守り手」の行動範囲が広がるじゃねぇか。
球入れる、きんちゃくくらいなら、作ってやるぜ?

この球体に、定期的に力を送りこんだりしてるんだろうな。
それを昔は王さんが出来たからいいけど、今は違うから、神官が やってる。
いや、「注ぎ込める人間が、神官にならなければいけない」って言ったほうが、正しいか。
待てよ。
俺は(彼いわく)神官になるような素質があるらしい。
魔法も使えるしな。そりゃ分かる。「注ぐ」方法を知らねぇけど、 教えてもらえば、出来るようになるんだろ。
で、ザギもおんなじようなもんらしい。まぁ、あいつは竜だからな。
いろんな素質あっても、おかしくはねぇんだけど。
神官長さんは、その強大すぎる魔力を、球体に注いで生活を していた。
使わないと、それはそれで蓄積して、困るんだろ。

俺は<土=黒>で、ザギは<火=赤>なんだが・・・、
神官長さんの、属性って何なんだ?
「<金=白>です。」と、彼は答えた。
そうだとは思ってたんだけどよ。騎士や神官の司る魔法は たいてい「白魔法」っていう、いわゆる‘回復系‘ってやつだから。
<金=白>の属性の魔術師には、雷系の魔法を使えるやつも 多いんだが、彼はどうかねぇ。
大丈夫です、と彼は言った。
へへ、「おあつらえ」向きじゃねぇか。

「クラウスー!!」

俺は大声で叫んだ。この場にあいつがいるわけじゃねぇ。
城の中に来てるのかどうかも、確認してねぇ。
が、俺は叫べば、あいつの耳まで自分の声が届くと思っていた。
あの女は吟遊詩人だから、異常な耳を持っている。
万一あいつが聞こえなくても、近くにいるだろうザギは、‘ありがたい ことに‘、俺の声は聞き逃さない。
だから、呼べばここに来ると思ってたんだ。
「クラウス・シャルトリアー!!」
俺はもう一回呼んだ、今度はフルネームで。
「・・・・っ、馴れ馴れしく名前呼ぶんじゃないわよ!!」
という声が、しばらくしてから返ってきた。
おぅ、結構近くにいたんだな。
あいつは走ってきたのか、顔を赤くしてハアハア言いながら、 この部屋に入ってきた。俺は今までも、やつの名前を呼んだことは あるんだけどな、「名」の方まで呼んだことはなかったから、 だから驚いてるんだろうな。
あの女の出身地の東部は、他の地域と違って「姓」の方が先にくる。
あいつを普段クラウスって呼んでるが、ありゃぁ名字だ。
そんな事はどうでもいいんだけどよ。

俺が今知りたいのは、「失われた時代の話」 吟遊詩人のやつなら、 知ってるんだろうと思って、呼んだ。あっちは何事かと思っただろうがな。
うまくいけば、皆幸せになれるって寸法だぞ?
お前にかかってるんだ、頼むぜ。
「なぁクラウス、お前‘だいなも‘って分かるか?」
「ハァ?‘だいなも‘?何の事?」
「出てくるだろ、昔の話に。だ・い・な・も。俺が知ってるんだ、吟遊詩人の お前が、聞いたことないわけがねぇはずだがな?」

すると女は腕を組んで、少ししてから言った。
「・・・・・あぁ、ダイナモね・・・。そりゃ知ってるけど、で、私にどうしろって いうのよ?」
「作れ。」と俺は、簡潔に言った。
「そんなもの、簡単に作れるわけないでしょうが!」とクラウス。
「うるせぇ!やる前からできねぇって言うな!」と俺。

30過ぎたいい大人が、意味分からないことで口論しているので、 さすがのあの人も困ってしまったらしく、神官長の彼は、俺たちの間で おろおろしていた。
「そうだ、アンタも知恵を貸してくれよ。」
と俺は言った。

***

===ダッカダッカダッカダッカダッカダッカダッカ===

ああ、良い音だな。やっぱりいいな、ミシンは。
手縫いには手縫いの良さがあるが、ミシンはミシンで、 この一定の間隔で縫えるところとか、早く仕上がるところとか、 動いてる時のリズミカルな音とか、良いところがたくさんある。
俺が今使ってるのは足踏みミシンだが、動力は電気だ。電動ミシン。

俺がクラウスのやつと相談して、神官長さんとやったことは、

結界を張っている源になっている球体と、同じようなものを 用意する。何でもいい、水晶球みたいなもんは、そこらへんに あったからな。
そこに、神官長さんの力全部をつぎ込む。無理やり、つぎ込む。
枯れても構わない勢いで、(むしろその方がいいんだからな) つぎ込んでもらった。
で、その球体を、どうにか「発電機」にする。
どうやったんだ、って思うだろうな。実のところ、俺は知らねぇんだ。

俺がこうしたいんだ、と意図を伝えると、クラウスは、「そんなこと、 どうやるのよ。」と言った。
「調べろよ。」と俺。
「何で私がしなくちゃならないのよ!」とあいつは言ったが、
「俺の為に」と言ったら、あいつは黙った。
で、俺は甘えてやつに調べてもらったってわけだ。
で、今、神官長さんの力は、電動ミシンの動力になってる。
前、魔法が機械の原動力になっているのを、何かで見たんだよ。
だから、出来るだろうと思ってたんだ。
次に、あの部屋にあった元の球体を、檻からはずす。
で、それを持ちかえる。それをどうしたって?俺が持ってんだけどな。
力の注ぎ方は、神官長さんに聞いたんだ。だからこのまま、 この国は同じように結界に守られていくんだろ。
で、変わったことといえば、「俺にも結界がついている」

だから、ザギは俺に簡単に手出せねぇってことだ。
おぉ、嬉しくて飛びあがりそうだぜ。
それを知ったザギは、「えぇ!?オ、オレ、いっしょう・・・?!」と 言ったので、俺は気休めに言ってやった。
「1回、3000HKGな。」
「3000!?たかっ!」
「安売りしてるわけねぇだろ。」
ちなみに3000HKGってのは、俺の月収くらいだ。俺は続けて言った。
「お前にこのミシン貸してやるよ。俺より客から仕事とって、金 儲けたらいいだろ?」
「ソウマは、この店の主人としての名があるじゃないか。
オレ、不利すぎー。公平じゃない〜。」と子供は言った。
「あのなぁ。この店だって、元々親父が‘主人‘で、自分に仕事 まわしてもらうために、俺は結構努力したんだぜ?テメーもしろよ。」
少し笑ってから、俺はミシンを続けた。

出来た。ミシンの「ためし縫い」だったんだが、余ったハギレを 集めて作った、パッチワーク風のストール。
自分で言うのもなんだが、可愛いな。まずまずの出来だ。
ダッカダッカ、ミシンを使っていると、クラウスのやつが現れた。
「よぅ。」
普通に挨拶をしてから、俺は今出来あがったストールを、やつ めがけて投げた。割と背の高い、クラウスの頭に布がかかる。

「・・・・・・・・・・何。」
「やる。余ったハギレで作ったんだがな、いい出来だろ。」
「いい出来って、そういうこと自分で言う?」とあいつが言ったので、
俺は、「いらねぇのかよ。」と尋ねた。
「誰も、もらわないなんて言ってないでしょ!」
「素直に欲しいって言いやがれ。」
「何でそんなこと言わなくちゃならないのよ!!」
何で俺たちは、こういつもケンカ腰なんだろうな。
ここじゃあストールは、花嫁にプレゼントするキーアイテムなんだが、 この女はそんなこと知らねぇんだろ。いいや、教えてやらねぇ。

俺は立ち上がって、扉の向こうに営業中の看板を出しにいった。
ザギは何だかんだ言いながらも、あいているミシンの席に 座って、操作方法を覚えようとしている。
あのひとも普通のひとになったし、(念の為、力がたまってしまったら、 発電機のある俺のうちに、来るように言ってあるんだが)
俺は身の保全を確保できたし、
子供は一応‘後継ぎ‘になる道を歩きだしたし、あいつもいるし、

めでたいのか?

                      *おわり*

+あとがきを読む+

<<<創作ページ
<<<サイトTOP