王とエルフの物語


ホワイトキングダムの創成王、レイチェルは女性だったが、
自分を「女王」と呼ばせることは、決してなかった。


***************************


小さな村に、赤い髪に灰色の目をした、小さな少女がいた。
名はレイチェル。その時13歳。少女は、歳のわりにとても小柄で、
その為迫害をうけていた。
少女は、いつもひとりで遊んでいた。

ある日レイチェルは、森でひとりで遊んでいたところ、
小さな崖に滑り落ち、見動きがとれなくなってしまった。

「どうしよう・・・。足、動かない・・・痛い・・・。」

少女がうつむき、泣いていると、上の方から声がした。

「誰か、いるのか?」

とても、不思議な声だった。大人のような、子供のような。
高いような低いような、女性のような男性のような、微妙な声。
レイチェルはそんな事をちょっと思ったが、すぐに

「助けて!!」

とだけ、叫んだ。
しばらくすると、するすると上からロープが降りてきて、
少女はそれを掴んだが、彼女にそれを昇るだけの、腕の力は
ない。
「下の人間」が上がってこないのを見て、ロープを投げた人物は、
言った。

「昇れないのか?」
「・・・うん。」
少女は弱々しく答えた。

ダッという音とともに、突然レイチェルの元に、青年が降りてきた。
その人物は、真っ黒な髪にエメラルドグリーンの瞳をしていて、
肌が透けるように白い。服装は紫色のローブに紫色の頭巾で、
背が高く、耳が少しとがっている。
エルフと呼ばれる種族だった。
レイチェルは神話や童話の類が好きだったから、そのひとがエルフ
だと分かったのだが、非常に驚いた。
それは、自分の国にエルフがいるとは、思っていなかったから。
彼らは、物語の中にのみ登場する種族だと思っていた。
目を丸くして、その美しい青年を眺めていると、エルフは彼女を
小脇に抱えて、器用に片手でロープを昇っていった。

崖からあがるとレイチェルは、相手に礼を言った。
「あ、ありがとう・・っ。」
エルフは、目を細めて笑った。どうやら、体型からレイチェルを
幼児だと思っているらしい。レイチェルはそれが直感的に分かって、
少し悲しかった。だから子供のふりをしたまま、相手に尋ねた。

「貴方、エルフだよね?」
「そうだ。」
「すごく綺麗だけど、男のひとなの?」
「あぁ。・・・・・・・・・・・・・・ありがとう。」

どうやら最後の言葉は、外見を褒めたことについてらしい。

「おしゃべりは、嫌い?」
「いや。人間とは話すな、とは言われているが。」
「そう・・・・。」

レイチェルは少しがっかりした。エルフの彼が、突然言った。

「歩けるか?」
レイチェルは立ちあがろうとして、立てないのに気づき、苦笑いをした。
「立てない。へへ・・・・」

そうか、と彼は言って、懐から何かを取り出す。
薬草のようなものをレイチェルの足に巻いて、呪文のようなものを
小さくつぶやくと、痛みが消えたのが分かった。

「すごいね!!」
レイチェルは、無邪気に微笑む。彼女は元気に立ちあがって、
相手の顔を覗き込んで、言った。

「ねぇ!また会ってくれるかな?!」
あぁ、とエルフは小さく言う。
大きく手を振って、彼と別れた。

それが、出会いだった。


***************************


次の日レイチェルは、バスケットいっぱいにリンゴをつめこんで、
昨日エルフと会ったあたりを、さまよっていた。
また会うと約束はしたが、時間も場所も決めていない。
それでも、彼に会いたかったから。レイチェルは歩いた。

「そんなにうろうろすると、迷うぞ。」

そういう声がした。彼の声だった。レイチェルはあたりを見まわして、
一本の木の上に、エルフがいるのに気づく。
彼を見つけると、レイチェルは満面の笑顔で言った。

「あっ!エルフさん!」

この時彼女は、相手の名前を知らなかったから。
だから、そう呼ぶしかなかった。
木の上からストンと降りて、エルフの彼は言った.

「エルフさんと呼ぶのは止してくれ。
私の名前はエルフィリオディーア。お前は?」
「あるふぃり・・・?」
「エルフィリオディーア。言えないのなら、エルフでもいい。」
「い、言えるもん!!ちゃんと発音できるようにするから!
・・・あ、私の名前はレイチェル・レクラム。」
「レイチェルだな?」

そう言って、黒い髪の麗人は微笑んだ。
やはり、絵本から抜け出してきたような印象を受ける。
レイチェルは持っていたバスケットを差し出して、言った。

「ねぇ、リンゴって食べる?」
「あぁ、くれるのか?ありがとう。」

ふたりで木の下に腰掛けて、リンゴを食べた。
レイチェルは、胸がどきどきするのを感じた。

それは、単に新しいひとにあったというだけではなく。
今までそんな経験がなかったから、分からなかっただけで。
レイチェルは、彼に恋をした。


****************************


レイチェルは森に毎日出かけて、そして彼に会う。
最初、いつものように「子供のふり」をしていた彼女だったが、
ある日、「そんなことをしなくても良い」と言われて、
それからは、素の自分を見せている。

そんな風に話せるのは、彼だけだった。

エルフは博識で、優しかった。
外見だけでなく、全てが綺麗だとレイチェルは思った。
私ももっと綺麗だったら良かったのに・・・、と少女はつぶやく。

「お前はとても綺麗だよ。
その輝く夕陽のような髪も、晴れた空にかかる薄雲のような色の瞳も。
心根も、とても澄んでいるし・・・。」

そう言って、彼は少女の額にキスをする。
レイチェルの体は、もう歳相応に大きくなっていた。
それは彼女の望みで、エルフが薬を与えたからだ。

エルフの彼は、種族の戒律を破って、人間と深く接しすぎていた。
もう後戻りはできないと思っていた。

初めて会った瞬間に、これは運命の出会いだと感じたから。


                               次へ


「創  作」