少女は、だんだんと床を鳴らしてから、言う。
「そんなの、ヤダー!おんなのおうさまは、なにもわるいこと
してないのに、がんばったのに、しんじゃったの?!
エルフさんといっしょに、くらしたんじゃないの?!」
一緒には、なれなかったんだね、と母はつぶやく。
少女は、納得できないようだ。
その少女が後日、町の広場に出かけると、そこに吟遊詩人が
来ていた。吟遊詩人は、王とエルフの物語を題材に、
歌を歌っていた。
さんしきすみれの咲く頃
少女 森にて
運命の彼と 出会う
彼 人間にあらず
遠き昔 語られし種族
エルフ
其の髪 闇夜の空の色
其の瞳 緑玉石の輝き
少女 彼の人と 恋をし
エルフ
少女の側で 笑う
さんしきすみれの咲く頃
少女 森にて
運命の彼と わかれ
彼
真の心
胸の奥に仕舞い 告げず
其の髪 輝く夕陽の色
其の瞳 晴れた空にかかる薄雲
愛しき人 どうか あなたが
幸せで ありますように・・・
少女が、吟遊詩人を興味深げにじっと眺めていると、
詩人は、言った。
「お嬢ちゃん、この話、知ってるのかぃ?」
うん、と少女は首を縦に振った。それから言った。
「でも、あんまりすきじゃない。しあわせじゃないもの。」
彼女の言葉を聞いて、詩人は、ハハと笑った。
「そうか、お嬢ちゃんはあの話はお好みじゃなかったか。
では僕が、幸せになる話をしてあげるよ。」
何?と少女が尋ねると、吟遊詩人は歌い出した。
「あの話にはね、あまり知られていないけど、続きがあるんだ。」
命燃やすことをやめた 赤き髪の王
そばに立つ 彼の女が愛したエルフ
妖精は兵士に捕らえられ 牢に入れられた
翌朝 彼の者の姿はなく 同じく 消え去ったものひとつ
それは 王の遺体
この国に 創成王の墓なき理由
王は森の奥 花に満ちたる場所に横たえられ
エルフ 久遠の時を 眠る彼女と共に過ごす
時はめぐり ある春の日
黒髪の彼 涙を流す
千年の一度しか咲かぬ ‘時間の実‘
青々とした若葉とともに 枝なりに実をつけ
エルフは かの実を砕き 口付けて
王に与えた
身を起こすは少女 輝く夕陽の色の髪
晴れた空にかかる薄雲色の瞳
ふたり 別れた時と同じ姿
愛しき人 今こそは
私のこの腕のなかに・・・・
さんしきすみれの咲く頃、少女とエルフは、出会った森で、
永遠の愛を誓う。
<王とエルフの物語 END>
+あとがき+
「創 作」