おかゆ戦隊


本気で改名しようかなぁと、五京恭四郎(ごぎょうきょうしろう)は思った。

***

(注:好きな節で歌ってください)

♪ちゃんちゃん ちゃちゃちゃ ちゃかちゃんちゃんちゃーん

どこまでも続く 長引く不況
リストラ ボーナスカット デフレスパイラル
暗黒時代を切り裂く 光となるのは誰だ

君だ! (俺かよ?)
君だよ!(やらねえぞ!)

君は 国民年金を納めたか

ちゃんちゃん ちゃちゃちゃ ちゃかちゃんちゃんちゃーん

どこまでも続く 暗い話題
強盗 暴行事件 国際問題
暗黒時代を切り裂く 光となるのは君だ

君か? (疑問系かよ!)
君だよ! (やっぱりか!)

ガムテープは 長時間使用しないと横がベタベタする

           「おかゆ戦隊のテーマ」


***

50階建ての巨大ビルの階段を、きちんとした身なりの、30代はじめくらいの青年が、
一段一段、ゆっくりとのぼっている。
彼は今、上にある自分の仕事場まで向かおうとしている所だが、
わざわざ階段を使わないで、エレベーターで行けば良いのに、と、
周りの皆は、思っている。
それもそのはず、彼が向かう先は、最上階、50階の「社長室」だからだ。

ギィと、重々しい立派な扉を開けて、青年は開口一番言う。
「おはようございます、箱部(はこべ)さん。」
箱部と呼ばれた初老の男性は一礼をして、仕える社長に向かって、言った。

「おはようございます、恭四郎坊ちゃま。」

***

〜次は、五京セントラルビル前、五京セントラルビル前〜

そういう、バスのアナウンスが聞こえたので、少年は、隣の少女に言った。
「ほら奈須菜(なずな)、もう、それをしまって。
降りるよ。」
言われた方は、はぁいと大きく返事をして、手にしていた携帯用ゲーム機をポケットにしまった。

この2人は、ずいぶん少年の方が大人びて見えるが、実は同じ歳である。
双子の兄妹なのだ。顔も似ているが、少年が寒色系の服を、少女が暖色系の服を着ている ことと、妹の奈須菜が眼鏡をかけていることから、間違われることは少ない。

バスが止まったので、2人の子供はそこから降りる。
目の前に大企業、五京グループの本社ビルがそびえ立っていた。

***

五京恭四郎は、その名の通り、両親にとって4番目の子供だった。
ただ、上が全て女子であったので、古臭い考え方だと言われようとも、 男子の跡取が欲しかった五京夫妻は、恭四郎が生まれたことに、大喜びする。

五京家というのは、知るひとぞ知る名家で、
大昔は財閥だったようだが、途中から各種産業に従事している。
早い話が、大企業のグループなのだ。
五京恭四郎は33歳という若さながら、現在、その社長。
・・・別に本人は、社長なんぞになりたくはなかったが、社長。

「箱部さん。」
書類に目を通していて、恭四郎は、不意に秘書の名を呼んだ。
銀縁の眼鏡をかけた品のいい男性は、側にひかえていて、何ですか?と優しく問う。

「ボクは、箱部さんのことすごく信頼してるけど、
貴方のその”名前”だけは、好きになれないなぁ。」

セリ ナズナ ゴギョウ ハコベラ ホトケノザ スズナ スズシロ

***

恭四郎は元々、自分の「家」が大嫌いだったので、
・・・特に嫌う理由などないのだが、しいていえば大企業グループなことが 嫌なのだろう・・・どうにかして、五京グループが関わらない職業に、つこうと思った。
そこで彼が思いついたのが、裁判官や教師、芸能人などといった職業だったのだが、 どれも興味が湧かなかったので、それらには、ならなかった。

学校を大学院まで出て、古都××市に引越し、そこで地元××塗りを作っている 職人の、お手伝いをさせてもらうことにした。
給料は高くなかったが、元よりそんなことは望んでいなかったので、彼は満足だった。
空気も水も米も、うまい。
最高だな、と恭四郎は思っていた。テレビで、あれを見るまで。

五京グループ総裁 五京公一郎氏(60歳) 突然の引退宣言

・・・氏は、体調によるものだと述べているが、まだまだ若い
60歳という年齢での引退宣言に、関係者は驚きを隠せない。
なお、後継者はまだ未定という・・・。


はー、と恭四郎はため息をついてから、明日あたり何かあるなと思った。
予想通り、次の日恭四郎の元に電報が届いて、(その時彼は携帯電話を持っていなかった) それが、
「チチキトク スグカエレ」
という、おそろしくベタな「お知らせ」だったので、恭四郎はまた、ため息をついた。

***

というわけで、
五京を継ぐのが嫌だった恭四郎は、父親の公一郎にまんまとハメられてしまい、 しぶしぶ、社長というポストについている。
恭四郎が無能だったら、それはそれで平和だったのかもしれないが、あいにくと 言っていいのか、彼はすこぶる優秀だったので、
「ハメられて社長にはなったが、だからといって、 ”何も知らない奴”と馬鹿にされるのは、癪(しゃく)」
と思い、バリバリ社長業をこなしている。
ちなみに、前社長の公一郎は現在「会長」だが、 毎日、自分の部屋でバーチャルゴルフのゲームをしている。
文字通り、遊んでいるのだ。
今の時代、60歳を迎えたからといって、即座に遊びに走れる男は、 そうはいない。


                    続く>>>


「創  作」