おかゆ戦隊 5


「新幹線で行った方が、早いぞ?」
だなんて、言われなくても分かっている。
自家用ジェット機は、冗談ではなく本当に有るが、
それを動かす為の配備や何かを待っているくらいなら、
駅まで行って、新幹線に乗ったほうが早い。

ただ、それを提言したのが、父親の公一郎(こういちろう)だったので、
何となく、素直にうんと言えなかったのだ。
「家」が嫌いな、恭四郎としては。

「東京駅から、新幹線に乗っていった方が、早いぞ?
何ならワシが、送っていってやる。」

恭四郎も自動車の運転免許は持っているのだが、
公一郎が矛盾したように、「こういう時は、空を飛んだ方が早い」と言うので、
送ってもらった。
五京グループの前社長は、道楽で、ヘリコプターの運転免許を取っていたので。

***

「なぁなぁ。」
「何だよ、運転に集中しろよ。」

後ろの席で、恭四郎はふくれている。
父親が、馴れ馴れしくしてくるのが、気に食わないのだ。
馴れ馴れしいも何も、実の親子なのだから、会話くらいしてもバチはあたらないのだが、 恭四郎が勝手に、五京家を毛嫌いしているから。
だから、仲良く出来ないのである。
しかし、公一郎の方は、息子とコミュニケーションが取りたいのだ。

公一郎は、現在70代だ。
このようにヘリの運転もできるし、パソコンも使える。元気な70代。
世の言葉を借りれば、まだまだ「現役」である。
ぶっちゃけた話(というか、恭四郎にはバレているが)引退したのは、息子に家業を 継がせるためであって、別に仕事が嫌になったわけではない。
しかし今、彼は引退したのであるから、好きなことをしていいはずであり、
公一郎は今、息子とコミュニケーションが取りたいと思っているので、
取るのである。

「なぁ恭四郎。素朴な疑問なんだが・・・・。
月光仮面って、”おじさん”か?おじさんだと、思うか?」

そう老人が言ったので、恭四郎は思わず、は?とつぶやいた。

♪どこの誰かは 知らないけれど 
誰もがみんな 知っている
月光仮面の おじさんは

             ・・・「月光仮面は誰でしょう」

恭四郎は今33歳だが、とかく頭が良いので、
そしてここで、父親の発言をむげにするのもかわいそうだと思ったので、
出来る限りの思考をめぐらせて、答えを出すのだ。

「親父は、正体が不明な月光仮面が、”おじさん”と断定されている ことじゃなく、
名前は知らねぇけど、月光仮面を演じている俳優が、まだ”青年”と言えそうな 歳なのに、
”おじさん”と言われてるのは何故か、って言ってるんだよな?

月光仮面っていったら、50年以上前のテレビだろ。
当時、月光仮面の俳優が、仮に25歳だったとするよな。
月光仮面を見ている子供が、7歳だとすると、その子の親は、27歳 くらいだろ、半世紀前なんだから?
つまり、子供からしたら、自分の親と歳の変わらない男だよな、月光仮面。
・・・”おじさん”じゃねぇか。」

恭四郎は、月光仮面を見たことが無い。歌は一応知っているが。
公一郎が、少年の頃のテレビ番組である。(ちなみにテレビは高級品だったが、 五京家は裕福だったので、公一郎が少年期、家にテレビは有った)
見たことはなかったが、知っている情報から考えて、答えを導き出した。
それが正解かどうか、分からないけれど。
質問者に、満足感を与えたのは事実だ。
何だか、ちょっとイイ光景である。しかし公一郎は、しばらくしてから、また聞いた。

「なぁ、恭四郎。
CMでもやっていたが、ポン酢のポンって何だ?」

恭四郎はガックリきた。どうやら恭四郎の父親は、いろんなことが気になるたちの ようだ。それは経営者として、良い資質なのかも知れないが。
乾いた笑いを浮かべてから、恭四郎は律儀にそれに答えた。

「・・・それはな、オランダ語のPons(ポンス)からきてるんだよ。
Ponsっていうのは、ダイダイの絞り汁だ。酢は、当て字。」
「駅の売店の”キヨスク”って、何語だ?」
「・・・トルコ語だって言われてるけど。ちなみに意味は、”あずま屋”」
「ノーベル賞って言うが、ノーベル自身は、何を発明したんだ?」
「・・・有名なのは、ダイナマイトだよ。」
「恭四郎は、物知りだのぅ。」

公一郎は、満足そうに笑う。恭四郎は小声でつぶやいた。
「つーか、親父。
パソコンできるんだから、それくらい、ネットで調べろよ・・・。」

それに対し公一郎は、「お前に教えてもらいたかった」と答えた。
甘えるな!!と恭四郎は思った。


                    続く>>>


「創  作」