早押し戦隊 クイズレンジャー

第4話「銭・金・カネ」

少年ら3人は、どうしても必要な名札を手に入れるため、
家人に気づかれずにもう一度帰省し、こっそり帰ってくるという手を考えた。
が、それを実行するには、絶対に必要になるものがある。
電車賃、すなわちカネだ。

「僕、お金持ってないんだよね・・・。」
英世は小さくつぶやいた。彼は、自分のお金というものを持っていない。
そんなものを持っていたら、不良に目をつけられてしまうわ!
というのが、英世の母の考えだからだ。
英世自身も今まで、小遣いを貰っていなくても別段困らなかったので、
(漫画雑誌などは、忍などが見せてくれたし。あまり漫画に興味はなかったが)
くれとも言ったことがない。
小さい頃はともかく、寮生活をしている今、文房具などの必要物品はどうするのだ、
という意見もあるだろう。
そこで、先ほどから話題になっている「名札」が出てくるのだ。

各務天勝寺学園の生徒の名札は、学生証と似た役割を持っている。
名札の裏にバーコードがついていて、それを通すことにより、学園内で買い物が出来るのだ。
昼食・文房具はもちろん、ジュースや駅までのバス定期券まで買える。
使った金額は、月末に保護者の口座から引き落とし。
無駄遣いをしていると、この時気づかれて、注意される。
このシステムがあったので、英世でなくとも、忍や太陽も、大して「金」というものを 持っていないのだ。
今、忍と太陽は出掛けてきたので(忍はそれを「デート」と言って、太陽に怒られる)
もちろん小銭は持っているが、新幹線の往復切符代を立て替えるだけの余裕はない。

「バイトでもしようかぁ、短期のバイト。うちのガッコ、バイト禁止だけどね〜。」
そう言って、忍はまたケラケラ笑っている。何がおかしいのかしらないが、よく笑う男だ。
背が182センチもあるくせして、と太陽は思ったが、身長と笑うことは関係ない。
笑うと身長が伸びやすいとか伸びにくいとかいう学説でも出ているなら、まだしも。
ちなみに、先ほどからずっとムスッとしている太陽は、身長が186センチある。

英世たちは邪魔にならない場所を探して、歩きながら話していたのだが、
彼らもまた、偶然にその貼り紙を見つけた。
見 つ け て し ま っ た 。
「元気で明るい男女・若干名募集 土日出られる人大歓迎!」

***

アメリカで、ハリケーンに巻き込まれるという事故があったよなぁ。
・・・と恭四郎は、ぼんやり思っていた。
実際巻き込まれたことは、勿論無い。テレビなんかで、そういうスクープ映像が流れてて、
あぁ、すげぇもんだな、と思っていたものだ。
多分ハタから見たら、ここは日本だけど、そんな感じに見えたのではないか。
・・・と、恭四郎は思っていた。
ごく普通に、停めた車の脇に立つ彼と、話をしていただけなのに。

突風に、さらわれた。

そして気がつけば、年季の入った体育館みたいな場所に、集められている。
集められている、と感じたのは、そこに(自分を含めて)5人の人間がいたからだ。
知らずに円陣を組んでしまうのが昔を思い出して、恭四郎はちょっと嫌だった。

「誰だ。」と恭四郎は、高校生くらいに見える少年3人に向かって、言った。
言葉が偉そうになっているのは、内心動揺しているからである。
それに対して、黒い髪の真ん中分けの彼が、言った。
「そりゃ、こっちが言いたい台詞ですけど。」

「俺は別に、”これ”の主催者じゃないぞ!?」
「そうなんですか。落ち着いてるから、貴方が企画者かと思った。」
恭四郎の言葉に少年=忍=がそう言うので、さすがに3回目になると慣れてきたのか俺?
と恭四郎は一瞬思い、すぐにブンブンと首を振った。
恭四郎は普通のサラリーマンで、昔は普通の高校生だったが、”ちょっとしたトラブル”に
巻き込まれやすい体質のようであった。
過去にも、こういった突然の徴収が、あったからだ。
一度脱臼すると、何度も同じ場所を脱臼する力士みたいなもんか、と恭四郎は思った。
人間、諦めが肝心だ。
使命があるのなら、それを早くクリアした方が、自由の身になるまでの時間も短い。
彼は、実に現実的な男だった。

恭四郎は振り返る。何かを見るつもりではなかったが、振り返った。
”そこ”から、何かが出てくるだろうと思ったから。
というか、出てこないと困るのである。
ちなみに恭四郎は気づいてなかったが、この時彼と一緒に徴収されてしまった泉は、
恭四郎の横で、実につまらなさそうな顔をしていた。
突然場所が変わったことは理解できたが、この中が、”体育館のようだ”と認識も出来ない。
それは、泉の視力がとても悪いからだ。
現在、コンタクトレンズを入れてから眼鏡をかけているが、それでも大して見えない。
ヴァイオリニストの彼はコンサートなどの時に、もちろん譜面台を使っているが、
その譜面が見えたことは無い。元より、覚えているから不要なのだが。

ともかく、ぎぃっと何もない方向を睨んだ恭四郎と、
その横の、退屈を絵に描いたような風で立っている、泉。
訳が分からず戸惑いつつも、何が始まるんだろうとワクワクして待っている忍、
とりあえず、温和な笑みを浮かべている英世、
感情の起伏はあるのだろうが、糸目なその顔からはうかがい知ることが出来なかった、太陽。

5人の前に、ソレは現れた。正確に言うと、”ソレの声”だが。
声の質は、泉に言わせれば「安っぽいウグイス嬢」
ともかく女性(に聞こえる)声で、こういうアナウンスがあったのだ。
「お待たせいたしました!」

「・・・・・・・・・・・・待ってねぇよ。」
恭四郎は、本心からそうつぶやいた。


                   続く>>>


「創  作」