早押し戦隊 クイズレンジャー

第5話「そして彼はニヤリと笑う」

「とりあえず、自己紹介か・・・。」
恭四郎はうなだれて、そう切り出した。残りの4人は、とりあえず黙っていた。

***

謎の正体が先ほど、女の声で、自分たちにこう語りかけてきた。
「お待たせいたしました。このたびはアルバイト募集の広告をご覧下さいまして、
ありがとうございました。このように多数ご来場いただき、誠に嬉しく・・・」
コラ待て、と恭四郎は叫ぶ。それから言った。
「誰もアルバイトの募集広告なんぞ見て、やってきたわけじぇねぇよ。
テメーが勝手に集めたんだろ!」

すると向こうは、はい?と柔らかく疑問の声を上げてから、青年に向かって言う。
「当社の広告をご覧になって、興味を持たれた方先着5名様に集まっていただいた
つもりですが。」
確かにここには、人数にして5人の人間がいる。
頭の回転の速い恭四郎はひとつ気になる点を見つけて、横に立つヴァイオリニストの男に、
こう尋ねてみた。

「泉さん。色のついた紙に黒一色で、”元気で明るい男女・若干名募集!”って書いてある、
B5くらいの貼り紙、見たことあるか?」
聞かれた泉は少し眉間にしわを寄せながら、逆に尋ねた。
「B5くらいの貼り紙?何、それ?
書かれてる字の、フォントのサイズは?」
突然、フォントのサイズと言われても、恭四郎は分からない。
その掲示物を作成した、本人ではないのだから。
記憶を辿って、
「フォントのサイズって言われても分かんねーけど、1センチくらいの大きさだよ、確か。」
と答えると、泉は「じゃあ、見てない。」と断言した。

「僕は目が悪いんだよ。そんな小さい文字のものを、わざわざ自分から読みにいくわけ無い。」
もっともな意見である。言い放ってから泉は、恭四郎に耳打ちした。
「シロウ君、アレは君の知り合いかぃ?」
「アレって、どこから喋ってんだか分からない女の声の方だよな?
いいや、違うぜ。・・・向こうにいる高校生3人も、知らねぇけど。」
「そう。」
泉はすっきりしたような顔をして、友人から離れた。彼は言う。

「最初に”お集まりいただき”と自由参加のように告げておきながら、
数秒後には、自らが僕たちを自主的に集めたと説明している。
随分、言葉使いのおかしい人間だねぇ。矛盾がある。
僕は、頭の悪い人間は嫌いだよ。」
そして彼はニヤリと笑う。黙っていれば温和な感じの美形なのに、どうしてこう黒く笑うのか。
恭四郎は別に、泉の好感度アップを狙うマネージャーでも無いから、そこら辺は放っておくこととしたが。

泉の言う通り、声の使う日本語には矛盾があったが、
多分話しているのは日本人ではなく、そして地球人でもないだろうから、
恭四郎は、その点は許してやることにした。

***

5人はさっき謎の声から、地球を救う正義の味方になってくださいとお願いされたが、
それに乗り気なのは、先ほど恭四郎に話しかけた、あの少年だけである。
他の3人は、怪訝そうな顔をしている。当然の反応だが。
もちろん恭四郎も、正義の味方になるのは、心底イヤである。
イヤだが、断れるものでも無いと分かっているので、最初から反抗しない。
それに、巻き込まれてしまった友人に対して、申し訳ないとも思っていたので。
(泉さん、俺と喋ってたから、一緒に徴収されちゃったんだろうなー。
バイトの募集は見てないって言うし。)
自分も割と忙しい身だが、相手は有名なヴァイオリニストだったので、気にしているのだ。

さて、見ず知らずの他の面々と言えば・・・少年たちはとりあえず驚いていたので、
慌ててもしょうがないと彼らを落ち着かせる為、恭四郎は声をかけた。
「なぁ、その制服って天勝寺のヤツだよな。君ら、名前は?・・・じゃあ、右端の君から。」
英世の少し開いた首元から、珍しい白地に青線の学生服が見えていたからだろう。
そのように恭四郎が促すと、3人の一番右側にいた少年から、挨拶を始めた。

「各務天勝寺学園高校2年A組、羽柴忍(はしば しのぶ)です!」
「同じく2A、奥太陽(おく ひろあき)。」
「僕も2人と同じクラスで、飴山英世(あめやま ひでよ)と言います。よろしくお願いします。」

あーよろしくー、と恭四郎が間の抜けた返事をすると、忍と名乗った少年が、
まるで推理モノのアニメみたいに、ビシッと人差し指をかざしながら、言うのだ。
「あぁオニイサン、名前は言わないで!今、思い出すから。
あー、確か”経済”だったはず・・・小冊子で写真を見たこと、ある。」
すると白い髪の少年が横を向いて、彼に助け舟を出した。
「”ニッポンの未来を担う若手キャリア・経済2001 秋の号”じゃないかな。
・・・忍君、人をそうやって指差すのは、良くないと思うよ。手でガイドする時は、こうね。」
そう言って英世は手のひらを上に向け、ほんの少しだけ手を丸くし受け皿のような形を作ってから、
エレベーターガールがやるように、”こちら”と言って斜め前を指し示した。
それに倣(なら)って、忍も同じように手を出して、今度は丁寧に恭四郎を指してみる。
恭四郎が分からないのは、真ん中の愛想の良くない少年まで、同じ真似をすることだ。
彼らは仲が良いんだろうな、とだけ、恭四郎は思った。



                    続く>>>


「創  作」