早押し戦隊 クイズレンジャー

第6話「十人十色」

いつまでもこんな寒い場所、だだっ広い体育館らしい所で話し合っていても、しょうがなく。
もっとマシな場所に移動しない?というのが、泉の意見で。
高校生3人に、異存はないようだった。だが、
「・・・と言っても、僕はもうタイムリミットか。」
ヴァイオリニストの男性は、洋服の内ポケットに手を入れて、小さくピピピピと鳴り出した アラームを止めた。
どうやら、世界的に有名な彼の、今日の自由時間は終了したようだ。
帰らなければマネージャーか何かが、うるさいのだろう。

じゃあね、と言って、かなりマイペースな調子で、泉は出て行こうとする。
今後の予定もあるし(別に恭四郎は作戦を立てる気は無いが)どうするんだよ、と同じ年の 青年がつぶやいたが、
「君は僕の電話番号、知ってるでしょ?一応、メールも見るし。」
と泉は答えて、その足を止めようとはしない。
彼ほど自由に生きられたら、何と素敵だろうとサラリーマンの男は思ったが、
とりあえず視力の悪い友人の為に、
「床の、赤いビニールテープが伸びてるそっち側が扉だ、見えるか!」
と叫んでやった。

***

泉が出て行ってから、4人の中にはしばらく沈黙が立ち込めたのだが、
ふいに、太陽少年が言った。
「今の、ヴァイオリニストの三千院泉だよな。」

「えぇ!そうなの!?」という驚きの声をあげたのは、忍。
「この間のクリスマスコンサートで、東邦ドームを3日間連続満員御礼にした。
これは、クラシック音楽家の中では初めてのことだ。
去年の秋に出たアルバムは、ダブルミリオンを記録してるしな。」
そう太陽がつぶやくと、恭四郎はおっさん雰囲気モード全開で、「詳しいねぇ」と声をもらした。

ヴァイオリンが好きなのかと問う恭四郎に、太陽は、
「ヴァイオリンって言うか、クラシックが。昔、ピアノやってたんで・・・。」と答える。
だんだん、彼らの事が分かってきた。
恭四郎は、にんまりと笑う。
これで彼らが戦えでもしようものなら、自分は楽ができること請け合いだ。
自分ももう34。カノジョにプロポーズして、家庭を持とうかと考えている歳だ。
ウーとかヤーとか叫んで、戦っている時期ではないのである。
今までそんなアクティブに戦った過去も無いが。

そういえばさっき、少年が自分の名前を当てようと試みていたが、
どうも失敗に終わったようなので、恭四郎は答えを言ってしまうことにした。
「俺は、恭四郎。五京って会社の、社長をヤッテマス。」
そう、恭四郎は社長なのである。若き、やり手社長だ。
本当は違うものになりたかったのだが、現会長の父親に騙されて、社長にさせられてしまっている。
ちなみに彼自身はつまらなさそうに紹介しているが、五京といえば大企業である。
五京さんね、と太陽が呟いたので、名字の嫌いな恭四郎は「恭四郎でいい。」と答えた。

ところで・・・と恭四郎は続けて言って、先ほど忍少年がやったように、
ビシッと少年たち3人を指差した。
いけないんだ〜、と黒い髪の少年が、おちゃらけて言う。
社長の彼は、まるで何かにとりつかれたかのように、言い放った。

好きなヤツ居ないか、!」

赤だよ!と恭四郎は叫んでいる。
少年たち3人はあまりのことに、さっきの謎の声が彼の体内にでも入り込んだのかと思った。
しかし恭四郎はマトモだ。冷静だった。
赤が見つかれば、楽が出来ると分かっている。
正義の味方のリーダーといえば、レッドなのである。
赤というのは古来から、勝利の意味をも持つ色だ。
各種魔よけにも利用され、波長が長いから拡散されにくい性質を持っている。
そこまで知っているなら、アンタが赤をやればいいだろう、と他人なら言いたいところだ。
大企業のリーダーでもあるわけだし。

だが恭四郎は、赤はイヤなのである。
ご免こうむりたいのである。
彼が今したいことといえば、ある女性に電話をかけて、宝飾品の好みを聞くことくらいだ。
赤はイヤなのである。

恭四郎がこれほど「色」にこだわっているのは、訳があった。
それは先ほど、女性の声で告げられたお願い・・・というか、使命。
地球を救う正義の味方になれという話だが、それぞれ
「好きな色を選んで、その色に似合った能力を授ける」と言ったのだ。
好きな色、である。
恭四郎は昔から、それほど赤が好きではない。リーダー気質だということは認めるが。
現に、中高と生徒会役員をやっていたし。
彼が好む色と言うと、それは アイボリーである。
アイボリー。
実に微妙な色が好きな男性だ。
しかし彼に直接そのことを言うと、
「アイボリーは癒しの色なんじゃあ!お前に分かるかぁ!」
と、急になまって逆ギレされるので、注意が必要である。

ともかく恭四郎は、アイボリー色の正義の味方になりたかったわけではないが、
例の色はどうしてもイヤだったので、少年たち3人に好きな色を尋ねた。


                    続く>>>


「創  作」